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「ふるさと納税」のポイント付与禁止へ…国が“禁止”に踏み切った狙いは何なのか

Finasee / 2024年7月29日 16時30分

「ふるさと納税」のポイント付与禁止へ…国が“禁止”に踏み切った狙いは何なのか

Finasee(フィナシー)

そもそも「ふるさと納税」とは、何のための制度だったか

1兆円市場になりつつある「ふるさと納税」に対する規制の網が、広がりつつあります。総務省が6月28日に、「寄付に伴いポイント等の付与を行う者を通じた募集を2025年10月1日から禁止する」と告示したのです。

これに対して、会員を対象に寄付金額に応じたポイント付与を行っていた楽天は、ポイント付与禁止に反対する署名活動を展開し、7月8日時点で100万件が集まったことを発表しました。ポイントを用いて楽天経済圏を形成している楽天にとって、1兆円市場のふるさと納税における優位性が揺らぎつつあるのですから、反対するのは当然でしょう。

ふるさと納税がスタートしたのは2008年ですから、かれこれ16年が経過しようとしています。

この制度は、若者層の地方から大都市圏への人口移動に伴って生じる、ある種の不条理を多少なりとも解消することを意図して設けられました。

人口集積地である大都市圏には、地方で生まれ育った若い人たちが少なからず生活していますが、大学に入学するまで地元の住民サービスを受けて育ちながら、大学への入学や就職を機に大都市圏に移り住み、そこで納税されてしまうと、子供が育つまでの間、税収を使ってさまざまな住民サービスを提供してきた地方自治体は、これまでかけてきたコストを回収できなくなってしまいます。その不公平を是正するために設けられたのが、ふるさと納税です。

簡単にふるさと納税の仕組みを説明しておきましょう。目的は前述したように、大都市圏と地方の不公平感を是正することです。

「納税」という言葉を用いてはいますが、実態は「寄付」です。寄付という形を用いて、自分自身の故郷や応援したいと思える自治体など、自分の好きな納税先を選んで納税できる制度です。2000円だけは自己負担しなければなりませんが、それを除いた寄付金全額が、ふるさと納税を行った年の所得税と、その翌年度の住民税から控除されます。かつ、寄付先の自治体からは、寄付金額の3割に相当する返礼品を受け取ることができます。

たとえば5万円をふるさと納税したとしましょう。この場合、5万円から自己負担額である2000円を差し引いた4万8000円が所得税および住民税から控除され、かつ5万円の3割に相当する1万5000円相当の返礼品を、自治体から受け取ることができます。

考え方にもよりますが、もともと自分が今、住んでいるところに納めるべき税金を、自分の意思で選んだ好きな自治体に納税でき、かつ前出の5万円のケースで言えば、2000円の自己負担によって1万5000円の返礼品を受け取れるという点で、おトク感があるのは事実でしょう。

ふるさと納税の仲介サイトの運営業者や中間業者は群雄割拠

ふるさと納税は着実に伸びています。納税受入額の推移を見ると、制度がスタートした2008年度が81.4億円で、2013年度の145.6億円までは徐々に増えている状況でしたが、2014年度は前年比2.6倍の388.5億円、2015年度は前年比4.2倍の1652.9億円となり、2022年度には9654.1億円まで増えています。

ただ、本来なら善意で行われるはずの寄付ですが、そこにビジネスの商機を見いだした人たちがいました。仲介サイトの運営業者や中間事業者です。

仲介サイトは当初、トラストバンクが運営している「ふるさとチョイス」からスタートしましたが、現在ではソフトバンクの「さとふる」、auの「au PAYふるさと納税」、全日空商事の「ANAのふるさと納税」、ジャルックスの「JALふるさと納税」など、大手企業も目を付けて群雄割拠の状態にあります。ふるさと納税総合研究所のサイトを見ると、仲介サイトだけでも合計で37あります(7月28日時点)。

これに加えて、自治体に代わり事業者開発、ポータルサイト管理、返礼品の受発注、コールセンターを業務として執り行う中間事業者や、ふるさと納税に関する専用システムの開発やサイト構築などを行っているシステム会社も介在しています。

本来、地方自治体への寄付は直接、地方自治体に現金を持参し、役所で納付書を用いて支払うか、もしくは指定口座に振り込むことによって、対象となる地方自治体に届けるのが普通です。

しかし、ふるさと納税の場合、寄付金に対する返礼品の魅力に惹かれて寄付をする人が増えてしまったせいか、寄付金を少しでも多く集めるためには返礼品の魅力を高めなければなりませんし、多くの人が返礼品を魅力に感じてもらえるような見せ方を工夫する必要があります。加えて、より簡単に寄付ができるようにするため、たとえばクレジットカード決済を可能にするシステムも導入しなければなりません。

これらをすべて独自に行えれば良いのですが、地方自治体にはスタッフもノウハウも不足していることから、民間事業者である仲介サイトの運営業者や中間事業者が必要になってきます。

ふるさと納税の仲介は“おいしい”ビジネス?

ただ、民間事業者に頼る部分が大きくなればなるほど、集めた寄付金のうち、地方自治体に必要な事業に回せる真水の部分は圧縮されてしまいます。そのため2023年10月から総務省は、「寄付額に占める経費の割合を5割以内に納めること」を要請しました。これはつまり、仲介サイトをはじめとして、各種中間管理業務にかかる外部委託会社への委託手数料や、返礼品の送料といった経費が、寄付金の5割を超える地方自治体が結構多いことを意味します。

逆に言えば、それだけ民間事業者としては利益を得るチャンスがあることになります。ちなみに地方自治体が仲介サイトに登録するだけで、寄付金の10%程度の手数料が、仲介サイトに支払われていると言われています。前述したように、寄付金額が1兆円だとすると、その10%ですから、仲介サイトの運営事業者だけで1000億円ものマーケットが、ふるさと納税によって生まれたことになります。

当然、民間事業者は利益が出てナンボですから、仲介サイトの運営事業者としては、ひとつでも多くの地方自治体に登録してもらいたいわけです。その行き過ぎたケースが、冒頭でも触れた、寄付金に対するポイント付与です。

楽天の三木谷会長は、総務省のポイント付与禁止の告示に対し、「民間原資のポイントまでも禁止し……」と非難し、ポイントは楽天がその原資を負担していることを明言しましたが、これは多少、自分の懐を痛めてポイントを付与しても、寄付金から得られる手数料にうまみがあるということです。

計算してみましょう。楽天のふるさと納税は100円につき1ポイントが付与され、1ポイントは1円と等価です。

仮に楽天のふるさと納税に登録している地方自治体が、1億円を集めたとすると、100円につき1ポイントですから、楽天の負担は100万ポイント(=100万円)です。対して、楽天のサイトを通じて1億円を集めたとすると、地方自治体は楽天に対して、その10%に相当する1000万円を、手数料として支払うことになります。

つまり楽天のふるさと納税は、100万円のコストをかけて1000万円の売上を得ることになります。

もちろん、楽天としては仲介サイトの運営に際して、さまざまなコストがかかりますから、差額の900万円がまるまる利益になるわけではありませんが、それなりに実入りの良い商売なのかもしれません。

そう考えると、反対署名を集めたくなる気持ちも分からないではありませんが、ポイント獲得と、少しでもおいしい返礼品を得ることが目的化したふるさと納税は、当初思い描いた制度設計から、相当かけ離れたものになりつつあるのは事実です。

鈴木 雅光/金融ジャーナリスト

有限会社JOYnt代表。1989年、岡三証券に入社後、公社債新聞社の記者に転じ、投資信託業界を中心に取材。1992年に金融データシステムに入社。投資信託のデータベースを駆使し、マネー雑誌などで執筆活動を展開。2004年に独立。出版プロデュースを中心に、映像コンテンツや音声コンテンツの制作に関わる。

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