「家族で出かけても私だけワンオペ…」ビアガーデンで2歳の娘を前に泥酔する“自分ファースト”なモラ夫の「仰天行動」
Finasee / 2024年8月6日 17時0分
Finasee(フィナシー)
美里は、ビアガーデンの騒がしさの中にいた。
毎年、6月から9月にかけてデパートの屋上テラスで開催されているビアガーデンはSNSでも紹介されることの多い有名スポットなだけあって、会社帰りのサラリーマンや大学生グループでにぎわっている。チラホラ家族連れの姿も見えるが、当然ながら全体としてその数は少ない。
美里は、2歳のまな娘・穂香を抱きかかえながら、その熱気に圧倒されるような、懐かしいような何とも言えない気持ちになっていた。
美里と穂香をこのビアガーデンに連れてきたのは、他でもない夫の淳也だった。たまたま仕事が休みだった淳也から、つい数時間前に「今日は外食にしようよ」と突然提案されたのだ。すでに夕食の献立を考えていた美里は、夫の自由気ままな発言にイラついたが、久しぶりの外食で穂香も喜ぶかもしれないと思い直し、淳也の提案に同意したのだった。
しかし、美里たちが連れてこられたのは、酔っぱらいでごった返したビアガーデン。ふたを開けてみれば、淳也は自分が酒を飲みたいだけだった。
2歳になった穂香は、離乳食を卒業し、だいぶ食べられる食材が増えてきたが、当然大人と同じというわけにはいかない。胃腸に負担がかかる生ものや味の濃いものはNGだ。美里は、ビアガーデンをぐるりと見渡して、ひそかに他のテーブルに置かれた料理をチェックしていた。穂香が食べられそうな物があるだろうか。最悪、持ってきたおやつで気を紛らわせるしかないかな。母親目線で娘の食事を考えていた美里に対して、淳也は酒のことしか頭にないようだった。
「うわぁ、テンション上がってきたわぁ。今日は飲むぞぉ」
美里は能天気な夫に冷ややかな視線を送ったが、当の本人は全く気付いていない。次々と自分の好物を注文する淳也からメニューを奪い、おにぎりや冷やしトマトなど、穂香が食べられそうなものを選んでいった。
どこまでも自分ファーストな夫本当のことを言えば、美里だって淳也に負けないくらいお酒が好きだ。
実際、美里が穂香を妊娠する前は、夫婦そろってよく外でお酒を飲んだし、毎年ビアガーデンにも行っていた。今日だって、せっかくビアガーデンに来たのだから、思いっきり楽しみたいという気持ちはあった。
とはいえ、元気いっぱいの2歳児を抱えながら、のんきにお酒なんて飲んでいられない。少しでも目を離すと、穂香はすぐに全力で走りだしたり、イタズラをしたりするのだ。
そのため美里は、お酒を飲むどころか、自分の食事すらままならない。しかし、美里の心中など知る由もない淳也は、頰を赤くしながらビアガーデンを1人楽しんでいた。
しかも悪気なく人の神経を逆なでしてくるのだから始末が悪い。
「あれ? 美里は飲まないの?」
美里は淳也のデリカシーのない発言に心底腹が立ったが、ここは家ではなく出先だ。
(飲まないんじゃなくて、飲めないのよ!)
美里は、淳也に対する怒りの言葉をぐっとのみ込み、穂香の世話を続けるのだった。
家族で出かけても私だけワンオペその後も美里は、目の前で淳也が気持ちよく酒を飲む様子を見ながら、1人で穂香の面倒を見ていた。穂香が食べ終わって満足したところで、ようやく美里は本格的に食事にありつけた。テーブルに残った料理は、すでに冷めきっていたが、美里は気にせず食べ進める。
基本的にワンオペ育児をしている美里にとって、自分の食事の優先順位は低い。ご飯が温かいうちに食べられないのは毎度のことなので、文句も言っていられない。持参していたお気に入りのオモチャで遊び始めた穂香を横目に見ながら、美里は料理を口に詰め込んだ。
今はおとなしく遊んでくれているようだが、まだ穂香は2歳の子供だ。いつ目の前のオモチャに興味を失って、歩き回ったり、泣き出したりするか分かったものではない。毎日一緒にいる美里でも、穂香の行動は予測できないものだった。
なぜなら穂香は、日々ものすごいスピードで成長しているからだ。朝できなかったことが夕方にはできるようになっていたり、昨日まで夢中になっていたものに今日は見向きもしなかったりする。すくすく成長してくれる子供の姿を見るのは、親として喜ばしいことなのだが、同時にひやひやさせられることも多い。
特に最近の穂香は、だいぶ体力がついてきたようで、以前よりも長い距離を歩いたり、速く走ったりできるようになった。興味のあるものを見つけると、すぐに走りだしてしまうので、追いかけるのが大変だ。美里としてはベビーカーに乗ってくれると安心なのだが、自我が芽生え始めている穂香はどうしても自分で歩きたがる。そのおかげで両親から買ってもらったベビーカーは、近頃は専ら荷物置きになっていた。
そろそろ軽量型に買い替えたほうがいいだろうかと、1人で考え事をしていた美里の前に新しい料理が運ばれてきた。どうやら、また淳也が勝手に注文していたらしい。
「うわぁ、めちゃくちゃうまそう。頼んで正解だな」
「どこが?」
のんきな淳也に腹が立つ。美里はどこまでも身勝手な淳也にあきれて、大きくため息をついた。
肉の皿を淳也の方へ移動させようと美里が席を立った瞬間、いきなり穂香が「あっ!」と声を上げて椅子から飛び降りた。目を輝かせていたところを見ると、きっと何か興味を引かれる何かを発見したのだろう。
「待って穂香! 走ったらダメ!」
美里は慌てて持っていた皿を置いて、穂香の後を追いかけた。しかし穂香は脇目も振らず、ビアガーデンの端に飾られたキャラクターの置物に向かって一直線に走っていく。周囲の人もみんなお酒が入っているせいか、美里の叫び声や小さな穂香の存在に気付いている人は少ない。
「危ないっ!」
美里が声を上げると同時、穂香はとうとう人にぶつかった。不運なことに、ぶつかった相手は料理を提供しようとしていたビアガーデンのスタッフで、バランスを崩した彼の手からこぼれた熱々の焼きそばが、穂香の頭へと落ちていった。
ビアガーデンの騒がしさをかき消して、穂香の火のついたような泣き声が響いた。
●どこまでも育児に非協力的な夫、穂香のケガの状態は……? 後編【「母親のくせに何やってんだよ!」熱々の焼きそばが娘の顔に…何でも「妻のせい」にするモラ夫に制裁を加えた「意外な人物」】にて、詳細をお届けします。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
梅田 衛基/ライター/編集者
株式会社STSデジタル所属の編集者・ライター。マネー、グルメ、ファッション、ライフスタイルなど、ジャンルを問わない取材記事の執筆、小説編集などに従事している。
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