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「母親のくせに何やってんだよ!」熱々の焼きそばが娘の顔に…何でも「妻のせい」にするモラ夫に制裁を加えた「意外な人物」

Finasee / 2024年8月6日 17時0分

「母親のくせに何やってんだよ!」熱々の焼きそばが娘の顔に…何でも「妻のせい」にするモラ夫に制裁を加えた「意外な人物」

Finasee(フィナシー)

<前編のあらすじ>

茉莉(33歳)は夫・淳也(35歳)の「今日は外食にしようよ」という提案から、2歳になったばかりの娘・穂香を連れて出掛ける。夫の行きたかった店、なんとそこはビアガーデンだった。

夫婦そろってお酒が大好きで、妊娠する前は2人でよく飲みに出掛けていた。だが茉莉は、2歳の娘の面倒を見ながらお酒が飲めるわけもなく、ご飯も食べられず穂香の世話に終われていた。しかし淳也は、「今日は飲むぞぉ」と、テンションを上げ、頰を赤らめてビアガーデンを1人で楽しんでいる。「茉莉は飲まないの?」というのんきな言葉に腹が立ったが、出先なので我慢をした。

育児に非協力的な夫、そんななか、目を離したすきに穂香がウエーターにぶつかってしまい、熱々の焼きそばを頭からかぶっててしまった……!

●前編:「家族で出かけても私だけワンオペ…」ビアガーデンで2歳の娘を前に泥酔する“自分ファースト”なモラ夫の「仰天行動」

火が付いたように泣き叫ぶ娘

湯気の立つの焼きそばを慌てて穂香の頭から払いのけ、大泣きする穂香を抱き上げて、美里は叫んだ。

「淳也! どうしよう穂香が! 淳也!」

穂香は、幼い娘を抱きしめながら必死で夫を呼んだ。だが、自分たちのテーブルを振り返っても、そこに夫・淳也の姿はない。美里は仕方なく淳也のLINEに連絡を入れ、穂香をデパートに併設された救護室に運び込んだ。

「あのっ! すみません! 娘が頭から熱々の料理をかぶってしまって……」

「はい、大丈夫ですよ。ちょっと患部を見せてもらいますね」

救護室に常駐していた男性看護師は、大慌てで飛び込んできた美里に優しく声をかけてくれた。号泣している穂香に対しても、慣れた様子でテキパキと処置を施していく。美里は、その様子を見守りながら、無意識のうちに淳也と看護師を比較している自分に気が付いた。

今どき男性でも子供の扱いがうまい人は大勢いるし、父親だって育児参加して当然だ。だから男女のステレオタイプについてどうこう言うつもりもない。しかしそれでも同じ男性でここまで違うのかと思わざるを得なかった。

もちろん、プロだからと言ってしまえばそれまでの話だが、そのとき穂香は、その看護師の言葉や態度の端々から自分たち親子への並々ならぬ配慮を感じていた。

(せめてこの人の100分の1でもいいから、淳也に思いやりがあれば……)

美里は淳也に自分たちが救護室にいる旨のメッセージを送りながら、そう願わずにはいられなかった。

娘のケガを妻のせいにするどこまでも身勝手な夫

「はい、終わりましたよ。よく頑張りましたね」

やけどの処置が終わり、看護師が声をかけるのが聞こえた。

「……ありがとうございます」

美里は、ようやく泣きやんだ穂香の鼻水を拭いてやりながら、担当してくれた看護師から詳しい話を聞いた。穂香のやけどは、幸い大事には至らなかったものの、しばらくおでこに跡が残るだろうということだった。おそらく目立つ傷跡にはならないだろうが、どうしても気になるようならレーザーで消す方法もあると教えてくれた。

そんな話を聞いているうちに、泣きつかれた穂香は美里の腕の中で眠ってしまったようだ。美里は穂香を起こさないようにしながら、お世話になった看護師にお礼を言って救護室を出ようとした。

するとちょうど同じタイミングで、淳也が救護室に入ってきた。部屋のなかに、ひどいアルコールの匂いが広がった。タバコの匂いも混ざっているため、おそらく今まで喫煙所にでもいたのだろう。

「は? 穂香、頭にケガしてんじゃん。なんで?」

「穂香が人とぶつかって、熱い料理が頭にかかっちゃったの」

必要以上に声を張り上げる淳也に対して、美里はなるべくトーンを落として事の経緯を説明した。眠っている穂香を起こしたくなかったし、何より救護室で騒ぐのは迷惑だからだ。美里はあえてささやくように話したのだが、酔いが回っている淳也には全く通じなかったらしい。

「はぁ? 穂香のこと、ちゃんと見ておけよ! 女の子なのに、顔に傷が残ったらどうするんだ? まったく母親のくせに何やってんだよ!」

勢いに任せて怒鳴り散らす淳也の言葉に、美里は思わず涙が出そうになった。穂香にケガをさせてしまったことについては、淳也に言われるまでもなく美里自身が1番責任を感じていることだ。自分が目を離した隙に穂香がやけどを負ったのだから、美里が自分を責めるのも無理はない。

だが、穂香が席を離れて駆け出したとき、淳也も同じテーブルにいたのだ。あのとき淳也が、ほんの少しでも穂香のことを気にかけてくれていたら、今回のような事故は防げたかもしれない。それなのに自分のことを棚に上げて、母親である美里だけを責めるなんて、あまりにも理不尽だ。

「あなたこそ……」

ついに堪忍袋の緒が切れた美里が淳也をにらみながら口を開いたとき、2人の間に割って入った者がいた。

看護士の言葉

それは、穂香を手当してくれた看護師だった。美里はそのとき初めて、その看護師が相当恵まれた体格をしていることに気が付いた。おそらく180㎝以上はあるに違いない。美里は、淳也を見下ろすように仁王立ちしている看護師の背中をとても頼もしく感じた。

「な、なんだよ?」

淳也は、いきなり目の前に現れた大柄の看護師に面食らいながらも、強気な姿勢を崩さなかった。どうやら酒のせいで、かなり気が大きくなっているらしい。

「あなたこそ父親のくせに何やってるんですか?」

「あぁ?」

淳也は驚いた様子で充血した目を見開いたが、看護師は淡々と話を続けた。

「奥さんが娘さんを救護室に運んできたとき、あなたは何やってたんですか? 奥さんが心配しながら娘さんの処置を待っている間、あなたは何やってたんです?」

「し、仕方ないだろ!? 穂香がケガしたなんて知らなかったし。だいたい俺が気付いてたら、穂香にケガなんてさせなかった。なぁ、そうだろ?」

淳也は助けを求めるように視線を送ってきたが、もちろん美里は無視した。この期に及んで、なぜ美里が自分の味方をしてくれると思ったのだろうか。美里は穂香を抱いたまま、看護師が淳也に説教してくれる様子を見守った。

「あなた、相当飲んでますよね。さっき救護室に入ってくるところを見てましたけど、真っすぐ歩けないほど酩酊(めいてい)してるじゃないですか。そんな状態で子供を危険から守れますか?」

「あぁ、できるね。俺、運動神経良いから」

自信満々に答える淳也に美里は頭を抱えたが、看護師は全く意に介さず続けて言った。

「それじゃあ、この床タイルの白い部分……ここから足をはみ出さないように真っすぐ歩けますか?」

「はっ、そんなの余裕だって」

意気揚々と看護師が指示した床の上を歩き始めた淳也だったが、数歩歩いたところでバランスを崩し、派手に転んだ。

「いてぇ……」

顔をゆがめながら救護室の床にへたりこむ淳也を看護師が上から見下ろして言った。

「そんな状態では、子供を守るどころか、あなたのせいで子供を危険にさらしてしまいます。奥さんを責める前に、父親としての自分を見つめ直した方がいいですよ」

看護師が差し出した手に頼らず、淳也は壁にもたれながら自力で立ち上がった。しかしその姿は小さく縮こまっていて、ひどく滑稽に見えた。

美里は、改めて看護師に丁寧にお礼を言うと、すっかり酔いがさめた様子の淳也を連れて救護室を後にした。

父親として

この日を境に淳也は、少しずつ子育てに協力的になっていった。

どうやら第三者に説教されたことが相当恥ずかしかったらしい。平日は仕事に行かないといけないので、どうしても穂香と接する時間は少なくなってしまうが、淳也なりにできることを精いっぱいこなしているようだ。

中でも美里が1番驚いた変化は、淳也がタバコをやめたことだ。最近さらに言葉がハッキリしてきた穂香から「パパくさい」と言われたことがきっかけで、禁煙を決意したのだった。正直、いつまで続くか分からないが、娘のために禁煙に挑戦しようという気持ちだけは、美里も評価している。

それから、外食のときには、淳也と美里は交代でご飯を食べるようになった。そのおかげで美里の負担は、ずいぶん軽減された。淳也の育児は、まだまだ危なっかしい面もあるが、父親との触れ合いが増えて穂香もうれしそうにしている。

あのとき見ず知らずの私のために淳也をしかってくれた看護師さんには感謝してもしきれない。もちろん淳也にも感謝はしないといけないのかもしれないが、今はまだ様子見だ。これからも穂香の父親として、淳也には頑張ってもらわなければいけない。

「よーし、穂香。おいしいか?」

四苦八苦しながら娘の口元を拭いている淳也を見守りながら、美里はまだ温かいごはんを口に運んだ。

複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

梅田 衛基/ライター/編集者

株式会社STSデジタル所属の編集者・ライター。マネー、グルメ、ファッション、ライフスタイルなど、ジャンルを問わない取材記事の執筆、小説編集などに従事している。

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