1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. 経済

「病院食? 味が薄すぎるでしょ」定年夫の悲惨な末路…すべてを見透かしていた妻の「意外な行動」

Finasee / 2024年8月7日 17時0分

「病院食? 味が薄すぎるでしょ」定年夫の悲惨な末路…すべてを見透かしていた妻の「意外な行動」

Finasee(フィナシー)

<前編のあらすじ>

定年退職を迎えた郁夫(65歳)は、ヒマを持て余していた。しばらくぼんやりと過ごしてみたり、動画サブスクなどを眺めたりしてみたが、すぐに飽きてしまう。

まだ仕事をしている妻とはほとんど会話もない。仕事にかまけて家庭をほったらかしにし続けた郁夫はずっと家にいるのに、家のどこにも居場所がなかった。

そんな折、息子から「このままじゃ熟年離婚でもするんじゃない?」と手痛い指摘を受ける。妻とのコミュニケーション方法を模索して、郁夫は料理を始めることを決心した。

●前編:「このままじゃ熟年離婚するんじゃない?」息子からの無慈悲な指摘…定年夫が決意した「冷え切った夫婦関係を修復する行動」

味の薄いチャーハン

料理を作ろうと一念発起した郁夫だったが、何をどこから取り掛かっていいものかも全く分からなかった。フラフラと立ち上がり台所に立ってみたのだが、包丁ひとつをとってみても、どこにあるのかすら知らない。

観念した郁夫は再びソファに座り、ぼうぜんとする。

何をしていいのかも分からない。もし取りあえず作ってみて、台所をメチャクチャにするとさらに関係が悪化する可能性もあるだろう。

頭を回転させ、悩んだ挙げ句、郁夫がたどり着いたのは諒子を参考にしようというものだった。当然、驚かせることが目的だし、聞いたところできちんと返してくれるとも思わない。ただまずは調理器具の場所や使い方をまず見て学ぼうと考えた。

それからというもの、郁夫は晩ご飯を作っている諒子の動きをこっそり観察し続けた。取りあえず道具のしまってある場所や、それらを諒子がどう使っているのかメモに書きとめた。

また、諒子にバレることなく、料理を練習できる機会は昼ご飯のときしかないと考え、諒子が仕事に出掛けるとすぐに、郁夫は準備にとりかかった。

最初はチャーハンから作ろうと試みる。簡単に作れる料理の代表で、これならば今の自分でも作れると思ったのだ。だがいざ作ってみるとまったく思い通りにならなかった。

フライパンに油を入れて、溶き卵を流し込むのだが、卵を割って、どこに入れるのかが分からない。後からボウルに入れればいいと判明したが、このときはそれが分からず、どんぶりに卵を入れて、箸でかき混ぜた。

次に卵を流し込んだ後、白ご飯を投入するのだが、1人前の量が分からず、慌てているウチに卵が硬くなってしまい、出来上がったチャーハンはぼそぼそで、塩コショウを振り忘れたせいで味もほとんどしなかった。

当然、諒子が作ったものとは雲泥の差があった。

散らかった台所を見ても、悪戦苦闘の様子が手に取るように分かった。

最初は誰でもこんなものだと自分を奮い立たせ、味の薄いチャーハンを郁夫は無理やり完食した。

何これ? 病院食?

それからも郁夫は毎回、昼ご飯にチャーハンを作り続けた。当然、作ることに対して慣れは出てきたのだが、味は諒子の作るものに全く及ばなかった。

食べきれない分のチャーハンは、ふらっと帰ってくる慎也に試食してもらうこともあった。しかし慎也の反応は、予想通りいつも芳しくなかった。

「何これ? 病院食? 味が薄すぎるでしょ?」

「だよなぁ。昨日はしょっぱすぎて食べれなかったから、今日は薄くしてみたんだよ」

「何見て、これ作ったの?」

「何を見て……? いや、諒子が作っていたのを思い出しながらやったんだが……」

慎也は郁夫の説明を見てあんぐりと口を開けた。

「マジで? だとしたら、よくできた方だよ」

「どういうことだ?」

「あのさ、料理初心者なら、普通レシピ本とかさそんなん買うでしょ?」

郁夫はすぐに反論する。

「もちろんそれは考えた。だけど、突然俺の部屋にレシピ本なんてあったら、諒子が感づくだろ? いちおう驚かせるためにやっているわけだし……」

郁夫の説明を聞き、慎也は腕を組む。それからスマホを持って何か操作をし出した。

「ほら、これで『チャーハン レシピ』とか調べれば、いい感じのレシピ無限に出てくるから。動画も記事もたくさんあるから、取りあえずそれをまねしてみたらマシになるんじゃない?」

「こ、こんなものがあったのか……」

せっかく紹介してくれたものの、老眼のせいか動画は画面が小さいし早すぎてダメだった。郁夫はレシピの紹介記事の文字を拡大しつつ、いろいろな料理を作り方を学んだ。チャーハンに関してはご飯を入れるタイミングやオススメの調味料を入れたことにより格段においしく作れるようになった。

だが、良いことばかりではなかった。

「だから、それをどうすればいいんだ⁉」

郁夫はスマホに向かって毒づく。

料理の工程でどうしてもタマネギをみじん切りしたかったのだが、切り方がイマイチ分からなかったのだ。

そこで記事を何度も確認したのだが、切る工程については書いておらず、丸かった玉ねぎが粉々にみじん切りにされた写真だけが載っている。

この制作者は、料理初心者の気持ちを理解していないと憤慨しつつ、仕方がないからスライスした玉ねぎの1つ1つを丁寧に細かく刻んだ。

他にも肉じゃがを作ろうとして、鍋いっぱいに作ってしまったことがあった。初心者はレシピ通りに料理を作れと言われ、記事の通りに作ったら、1人では食べきれない量になってしまったのだ。後から記事を読み返すと、4人分と書かれてあった。

妻とビーフシチュー

いよいよ諒子の誕生日当日を迎えた。郁夫が選んだ献立はビーフシチューだ。事前に何度か試作はしてみたもののあまりうまくいかなかったが、本番当日にして会心の出来栄えだった。

夕方、帰宅した諒子は驚いた顔で台所へ入ってきた。

「何、この匂い?」

「おかえり。ビーフシチュー作ってみたんだ」

諒子は鍋に入っているビーフシチューを見て言葉を失っていた。

「ど、どうして?」

「大昔に焦げたハンバーグを作っただろ……そのリベンジだ。それに、今日は誕生日だろう」

「……なるほど、そういうことだったのね」

納得したようにうなずく諒子に、郁夫は首をかしげた。

「だってほら、ここ最近、不自然に冷蔵庫の食材が減ってたでしょう。包丁とかまな板も使ったあとがあったし、何かしてるんだろうとは思ってたのよ」

「そうだったのか……」

「気づかなかったの? 前よりも食材買う量、ずいぶんと増やしてたんだけど」

言われてみればそうだった。そもそも考えもせずに4人分の料理を作ってしまうようなミスを、そう毎日のようにできるはずもない。

郁夫はすっかり薄くなった頭をかいた。

「諒子にはかなわないな……」

「当たり前でしょう」

諒子は言って、さじを取り、ビーフシチューを鍋からすくって口へと運ぶ。急にやってきた試食の時間に、郁夫は緊張して背筋を伸ばす。

「ちょっと味が濃いわね」

「え、あ、そ、そうか? 気を付けたつもりだったんだけど……」

慌てる郁夫を見て、諒子ははじけたように笑った。

「うん、でも、おいしい。ありがとう」

濃いと言いながらも諒子は2口目を食べてくれた。郁夫はその光景を見て、幸せな気持ちになる。

「肉の臭みを取るにはローリエを入れ煮込むのよ。入れてないでしょ? いや、スーパーじゃ見つけられなかったのね、きっと」

図星だった。今回のビーフシチューを作るにあたり、当然郁夫は自分で買い出しに行っていたが、見つけられずに買いそろえられなかった食材がいくつかある。

「今度、一緒に買い物へ連れて行ってあげるわよ。

「ありがとう。腕はまだまだだが、これからは俺が夕飯を作って諒子を出迎えるよ」

「ありがとう。味は期待してないから、根詰めるのもほどほどにね」

諒子は着替えに向かった。郁夫はそのあいだにビーフシチューを皿によそい、ご飯を盛り付けた。

「誕生日おめでとう」

「やめて。この年になって祝うようなものでもないでしょ」

諒子は言いながら恥ずかしそうにほほ笑んだ。

郁夫の作ったビーフシチューは諒子のそれには遠く及ばず、また過去に食べたどんなビーフシチューよりも下回る味だったが、きっとこの味を忘れることはないだろうと思った。

複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

梅田 衛基/ライター/編集者

株式会社STSデジタル所属の編集者・ライター。マネー、グルメ、ファッション、ライフスタイルなど、ジャンルを問わない取材記事の執筆、小説編集などに従事している。

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください