八十二銀行が合併で「八十二長野銀行」へ 2028年度にシナジー効果74億円の試算
Finasee / 2024年8月15日 11時0分
Finasee(フィナシー)
長野県に新しい銀行が誕生しようとしています。八十二銀行と長野銀行が合併し、商号を「八十二長野銀行」へ改める予定です。合併は2026年1月を予定しており、実現すれば同行は長野県に本店を置く唯一の地方銀行となる見込みです(出所:八十二銀行 インフォメーションミーティング資料(2024年5月30日開催分))。
合併は八十二銀行を存続会社として行われることが予定されています。
八十二銀行はどのような銀行なのでしょうか。概要と業績を押さえましょう。また経営統合で期待されるシナジー効果も紹介します。
有価証券の保有は地銀首位級 M&Aで長野県唯一の地銀に八十二銀行は長野県を地盤に持つ地方銀行です。複数の銀行が合併し、1931年に現在の八十二銀行が設立されました。前身行を含めると歴史は1877年にまでさかのぼります。
店舗は長野県が中心ですが、東京都や愛知県などにも展開しています。また地元企業の海外進出を支援する考えから、シンガポールと上海、バンコクにも店舗を持ちます。なお、八十二銀行は自己資本比率規制上の国際統一基準行です。
八十二銀行は銀行業とリース業を報告セグメントに持ちます。リース業は主に事業者向けのファイナンスリースとオペレーティングリースで構成されます。子会社には証券会社やベンチャーキャピタルも持ちますが、寄与は小さく、全体の利益のほとんどは銀行業で稼いでいます。
【八十二銀行のセグメント利益(連結、2024年3月期)】
・銀行業:333億円
・リース業:16億円
・(参考)その他:2億円
※「その他」は報告セグメントに含まれない事業区分。「その他」には証券業やベンチャーキャピタル業を含む。
出所:八十二銀行 決算短信
八十二銀行は有価証券の保有が大きいことで有名です。バランスシート上の貸出金は地銀12位ですが、有価証券は地銀首位となりました(単体、2024年3月末)。八十二銀行は政策保有株を多く持っており、それが反映されたものと考えられます。特に地元にゆかりのある信越化学工業の保有が大きく、1銘柄で3881億円がバランスシートに計上されています(出所:八十二銀行 有価証券報告書)。
【地方銀行の有価証券残高 上位5行(単体、2024年3月末)】
・八十二銀行:3兆3459億円(53.9%)
・京都銀行:3兆3350億円(49.6%)
・静岡銀行:3兆3343億円(31.9%)
・福岡銀行:3兆2210億円(27.3%)
・七十七銀行:3兆0864億円(52.6%)
※()は有価証券の貸出金に対する比率
出所:全国地方銀行協会 地方銀行の決算
長野銀の連結は経常利益にマイナス、純利益に大幅プラス 今期はどうなる?次に足元の業績を紹介します。
八十二銀行の2024年3月期は増収増益でした。特に純利益が大きく伸びています。これは長野銀行の連結に伴い負ののれん発生益173億円が生じたことが主因です。なお、長野銀行の連結は2023年6月末であり、同行の損益の反映は2023年7月~2024年3月の9ヵ月分です。
【八十二銀行の業績(連結、2024年3月期)】
・経常収益:2122億円(+7.1%)
・経常利益:352億円(+0.9%)
・純利益:370億円(+53.6%)
※()は前期比
※参考(八十二銀単体):業務粗利益875億円(+8.6%)、業務純益331億円(+24.0%)
※参考(長野銀単体):業務粗利益-59億円(赤字転落)、業務純益-159億円(赤字転落)
出所:八十二銀行 決算短信
連結した長野銀行は、単体の経常利益は赤字でした。経営統合でポートフォリオの見直しを実施したところ、債券の売却損失が大きく生じたためです。同じく査定基準を統合したことで与信費用が増加したことも影響しました。
したがって、微増ながら連結の経常利益が前期比で増加したのは、八十二銀行が単体でけん引したことになります。国内で貸出金や有価証券が増加したことで資金利益が大きく伸び、全体でも増益となりました。
上述の通り八十二銀行は有価証券の保有が大きいため、その運用状況も確認しておきましょう。
有価証券の評価損益は前期比で増加しました。債券の評価損の悪化を、株式の評価益の拡大が上回ったためです。スワップによるヘッジ評価益を加味した全体の評価益は、前期比2245億円増加の6378億円となりました。株高を背景に有価証券の運用は好調なようです。
今期(2025年3月期)は、長野銀行が通期でフル寄与となります。統合に伴い前期に生じた損失がなくなり、予想経常利益は連結で20%台後半と大きく増加する見通しです。ただし連結に伴う一時的な特別利益(負ののれん発生益)もはく落することから、純利益ベースでは減益の予想となっています。
【八十二銀行の業績予想(連結、2025年3月期)】
・経常収益:非開示
・経常利益:450億円(+27.7%)
・純利益:310億円(-16.3%)
※()は前期比
※参考(八十二銀行単体):業務粗利益935億円(+6.8%)、業務純益352億円(+6.3%)
出所:八十二銀行 決算短信
シナジーの発現はいつ?2026年度にプラス転換、2028年度に74億円最後に経営統合で期待されるシナジー効果を押さえておきましょう。八十二銀行は、ROE向上ドライバーの一つに長野銀行との統合によるシナジー効果を挙げました。
多くの上場地銀と同様、八十二銀行もPBRの改善を目指しています。低PBRの要因はROEの低さにあるとの認識から、2027年度のROE目標を5%に設定しました(2024年3月期実績:3.7%)。
八十二銀行によると、長野銀行とのシナジー効果は経営統合で創出される人材によってもたらされます。店舗網の最適化や業務効率化で約200名の人材が創出され、その人材を戦略分野に再配置することで収益力を強化します。再配置の内訳はコンサルティング関連で100名、デジタル関連と新規業務に50名ずつです。
八十二銀行は、全体のシナジー効果は2028年度に74億円に達すると試算します。ただし当面はコストが先行することから、2025年度まではマイナスとなる見込みです(出所:八十二銀行 インフォメーションミーティング資料(2024年5月30日開催分))。
八十二銀行はROE向上のドライバーとして3つを挙げていますが、うち2つは長野銀行との合併に由来するもので、残り1つは金利の上昇です。シナジー効果が表れるまでは、ROEおよびPBRの改善は金利次第になりそうです。
文/若山卓也(わかやまFPサービス)
若山 卓也/金融ライター/証券外務員1種
証券会社で個人向け営業を経験し、その後ファイナンシャルプランナーとして独立。金融商品仲介業(IFA)および保険募集人に登録し、金融商品の販売も行う。2017年から金融系ライターとして活動。AFP、証券外務員一種、プライベートバンキング・コーディネーター。
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