「本当に感謝してる」“推し活命”の女性がキラキラ上司になった同期に打ち明けられた「意外な話」
Finasee / 2024年8月16日 11時0分
Finasee(フィナシー)
<前編のあらすじ>
社会人5年目となる今井瑠衣さん(仮名)は、大学生の頃から日本の男子バレーに熱中していました。そのハマり具合と言えば、実家暮らしをしながら毎月10万~20万円を遠征費用や“推し”グッズの購入に費やしてきたほどです。
そんな今井さんにとって仕事は推し活の資金稼ぎ。自己研鑽やキャリアアップへのモチベーションはほとんどありませんでした。
ところがある時、同期だった中里華菜さん(仮名)がマネージャーとして部署移動してくることが判明します。要領の悪い印象があった中里さんでしたが、一昨年あたりから立て続けに大型商談を成約に導き、マネージャーに抜擢(ばってき)されたのだとか。
この5年間は推し活に夢中で仕事で大した実績を上げていなかった今井さんは、これから上司となる中里さんに鉄槌(てっつい)を下されるのではないかとどんよりした気分になってしまいた。
●前編:【「毎月10万円は推し活に」男子バレーにハマりすぎた女性が“推し最優先の生活”と引き換えに失ったもの】
さえなかった同期がいつの間にか会社のエースに5年前に今の会社に新卒で入社した際、研修で一緒だった同期の一人が中里華菜でした。よく見れば整った顔立ちなのに、どこかもっさりして垢抜けない感じで、グループワークをしていても、あまりの遅さに何度もイラっとさせられた記憶があります。
その後、私はマーケティング部、華菜は営業部に配属され、ほとんど交流がありませんでした。
驚いたのはその華菜が先月、マーケティング部のマネージャーに抜擢されたことです。4月に就任した社長の「有能な若手や女性に重要なポストを与える」方針の一環とかで、営業部の同期に聞くと、華菜は近年、営業部のエースだったようです。
私は平社員ですから、マネージャーになる華菜は上司にあたります。自分より下だとばかり思っていた華菜が新しい上役とは驚愕でした。
5年ぶりに再会した同期はキラキラ上司になっていた私は入社する少し前から男子バレーにハマり、3年前からは“推し”もできて、生活の中心は推し活です。仕事は私にとって「推し活費用を稼ぐ手段」ですから、モチベーションはゼロどころかマイナス。就業中も暇さえあれば推しの動画をチェックし、観戦ツアーで有休を取りまくっているので、上司や同僚から冷たい目で見られているのは重々承知しています。
そんな私が、あの愚鈍な華菜から鉄槌を下されるのかと思うとどんよりしました。
しかし、今さら華菜にすり寄るのもしゃくで、ちょうどパリ五輪で推し活が忙しかったこともあり、何のアクションも起こさずにいたのです。
そして、華菜マネージャーが着任する日がやって来ました。
華菜と会話を交わすのはほぼ5年ぶりでしたが、印象が昔と全然違うのに驚きました。久しぶりに会った華菜は、身に着ける服もいかにも“仕事ができる女性”風で、自信にあふれ、キラキラして見えました。
本来なら私の方から話しかけるべきなのでしょうが、何となく近寄りがたく、ろくに言葉も交わさないまま2~3日が過ぎました。すると、華菜から突然メールが届いたのです。
「瑠衣さんの予定に合わせるので、食事、行きませんか?」
別に旧交を温めたいってわけじゃないよね? もしかして、いきなり引導を渡すってこと? 華菜の考えが読めず、戸惑いました。とはいえ“上司”の誘いを断るわけにもいかず、翌週の退社後、二人で食事をしました。
食事中に打ち明けられた意外な話入社直後に同期でよく通ったイタリアンのお店でした。昔よく頼んだカプレーゼやカルパッチョに舌鼓を打ち、昔話で盛り上がった後、華菜がこんなふうに切り出しました。
「瑠衣さんとまた一緒に仕事ができて、本当にうれしい」
いよいよ本題かと身構えた私に、華菜が話して聞かせたのは意外な話でした。
「私、中学から大学まで女子校でおっとりしていたから、入社した時に瑠衣さんからものすごく刺激を受けたの。研修の時から同期の男子や先輩と対等に渡り合っていたし、皆で課題学習をした時もちゃんと適材適所でto doを振り分けて……。瑠衣さんみたいになりたいと思って一生懸命努力していたら、2年前くらいから少しずつ結果が出せるようになった。だから、瑠衣さんには本当に感謝してる」
私にしたら「だから何?」という感じでした。
華菜はこんな私を目標に、会社のキャリア支援制度でビジネススクールに通い、雇用保険の教育訓練給付金で中国語を学び、時間があれば勉強会や異業種交流会に顔を出してスキルと人脈を構築してきたのだそうです。私が推し活命だったこの5年間に、です。
華菜としては純粋に私にお礼を言いたかったのだと思いますが、私自身は複雑な気持ちでした。
それに輪をかけたのが、華菜の左手の薬指に輝くリングについて尋ねた時に聞いた話です。なんと、華菜は営業部のマネージャーで社内女子人気No.1の高松さんと婚約中でした。しかも、コロナ禍に始めた株式投資で1500万円ほど貯蓄ができたから、高松さんと共有名義で都心にマンションを買う予定なんだとか……。
同期との差に感じた理不尽な怒りコイバナを語る華菜は、“できる女性”でなく“かわいい女性”の顔でした。
それにしても、あの華菜が、この5年間にリアルなハイスぺと出会い、私とはケタが3つも違う蓄財をし、しかも、今や、マネージャーという地位と恐らくは私の倍近い収入を得ている。
マジあり得ん!
理不尽とは思いつつ、ふつふつと怒りが湧いてきました。翌朝が早いからともっと話したそうな華菜を店に残して早々に引き上げました。
メンブレ(メンタルブレイク)して数日は推しの動画を見る気にもなりませんでした。
オリンピックという本来なら推し活が一番盛り上がる時期なのに、中継を見てもゲームに集中できません。今朝久しぶりに推しの動画をクリックしましたが、試合への熱いメッセージが全く心に響かないのに戸惑いました。いつもはキュンとする推しの笑顔も、何となく色あせて見えました。
社会人になって私が推しに使ったお金はゆうに1000万円を超えています。そのリターンとして、私は一体何を得たんだろう?
推し活を満喫していたはずなのに、華菜のキラキラリア充ぶりを見ると、つい、「失われた5年間」について考えてしまう自分がいます。
※個人が特定されないよう事例を一部変更、再構成しています。
森田 聡子/金融ライター/編集者
日経ホーム出版社、日経BP社にて『日経おとなのOFF』編集長、『日経マネー』副編集長、『日経ビジネス』副編集長などを歴任。2019年に独立後は雑誌やウェブサイトなどで、幅広い年代層のマネー初心者に、投資・税金・保険などの話をやさしく、分かりやすく伝えることをモットーに活動している。
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