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「食べないと昼休みに入れない」給食でアレルギー食材を強要され救急搬送…説明求める母へ向けられた学校の「仰天対応」

Finasee / 2024年8月8日 17時0分

「食べないと昼休みに入れない」給食でアレルギー食材を強要され救急搬送…説明求める母へ向けられた学校の「仰天対応」

Finasee(フィナシー)

「ハッピーバースデートゥーユー」

修子は、笑顔でバースデーソングを歌っていた。明かりを落とした部屋の中で、小さな7つの点がゆらゆらと修子の手元で揺れていた。修子が向かう先には、満面の笑みを浮かべる娘・真奈とその様子をうれしそうに見守る夫・大吾の姿がある。今日は、真奈の7歳の誕生日。修子が歌いながら手に持っていたプレートを目の前に置くと、真奈は我慢できなくなって声を上げた。

「うわぁ、イチゴがいっぱいある!」

修子は、思わず大吾と顔を見合わせほほ笑み合った。真奈がろうそくの火を吹き消したのを確認し、部屋の明かりをつけた。

「真奈、7歳のお誕生日おめでとう!」

「ありがとう!パパ!ママ!」

3人分の拍手が鳴りやむのを待って、修子は真奈にフォークを渡す。

「いただきます!」

真奈は元気よく、大好きなイチゴを夢中で頰張り始める。

「慌てないでゆっくり食べなさいね」

娘の誕生日を祝う両親。一見ありふれた幸せのワンシーンだが、実は真奈の前に置かれているのは誕生日ケーキではない。色とりどりのフルーツを皿に盛り付け、それをケーキに見立ててろうそくを刺していた。

真奈には卵アレルギーがあって、ケーキをはじめとした卵を含む食品を食べることができない。生後6カ月のころに初めて離乳食で卵を与えたところ、じんましんなどの症状が出てしまい、卵アレルギーが発覚したのだ。

医師からは、小さい子供は消化器官が未発達なためアレルギーを起こしやすいのだと説明された。修子が自分でも調べたところ、主に卵白に含まれる「オボアルブミン」と「オボムコイド」というタンパク質が関係しているらしかった。このうちの「オボアルブミン」は、加熱するとアレルゲンではなくなるそうで、同じ卵アレルギーでも十分に加熱すれば鶏卵を食べられる人もいるそうだが、真奈の場合はよく加熱したとしてもアレルギー反応が出てしまうので、おそらくもう一方のタンパク質がアレルギーになっていた。加熱処理しても卵が食べられないということは、パンやお菓子類だけでなくマヨネーズなどの調味料にも気を付けなければならない。

そういうわけで、真奈の誕生日に用意されるのは毎年フルーツプレートだった。

もっと小さい頃は、どうしても誕生日ケーキが食べたいと号泣して、修子も大吾もなだめるのに苦労したものだった。だが最近の真奈は、自分のアレルギーについてだいぶ理解できるようになり、むやみにケーキやお菓子をねだることもほとんどなくなった。それどころか一緒にスーパーに買い物に行くと、修子が何も言わなくても自分で食品表示を確認して食べられる商品を取捨選択できるほどだ。

修子は、そんな真奈の成長をうれしく思いつつ、好きなものを思いっきり食べることができない娘をふびんにも感じてしまうのだった。

学校で卵を食べて呼吸困難に

誕生日からしばらくたったある日、修子は大慌てで家を飛び出し、車を走らせていた。今しがた、真奈の通う学校から緊急の連絡を受けたのだ。なんと真奈がじんましんと呼吸困難に陥って、病院へ緊急搬送されたらしい。

原因は言うまでもなく卵アレルギーで、なんでも真奈は学校給食で誤って卵を食べてしまい、アレルギー反応を起こしたのだという。真奈の口に入るものには十分気を付けていたはずなのに、どうしてこんなことになったのか。修子はアクセルを踏みながら、混乱した頭で必死に考えていた。

今までも真奈は、卵アレルギーのせいで幾度となく病院の世話になってきたが、アレルギーが発覚した0歳児のとき以来、ここまでひどく症状が出たことはない。じんましんだけでなく呼吸困難にまで陥ってしまうとは、かなり重篤な症状だ。もしかしたら、アナフィラキシーショックを起こしているのかもしれない。

真奈に万が一のことがあったら……。

そう思うと修子は、病院に着くまで生きた心地がしなかった。

わきあがる学校への疑念

幸いにも病院での迅速な処置のおかげで、大事には至らなかった。病院のベッドに寝かされた真奈の身体には、まだうっすらとじんましんの跡が残っているものの、その寝息は穏やかだった。医師の説明では、しばらく様子を見て問題なければ、自宅に連れて帰って問題ないとのことだった。

修子はホッと胸をなでおろしたが、同時に新たな疑念が生まれた。どうして真奈は卵が使われた給食を口にしたのか。卵アレルギーに関しては、日頃から真奈に口酸っぱく注意してあった。真奈自身も知識がついて、自分でも気を付けるようになっていた。

給食についても、入学したときに学校側に医師の診断書を提出し、アレルギー対応を求めている。給食のアレルギー対応は、地域や学校によってさまざまのようだが、真奈の通う学校の場合は、申請すれば主食に限りアレルギー対応食への置換が可能となっていた。つまり、アレルギーを引き起こす食品が主食に使われていた場合は、学校側が代わりの主食を用意してくれるのだ。

例えば、給食にパンが出た日であれば、真奈のように卵アレルギー持ちの児童は、他の子供たちが食べる主食とは別で、卵不使用のパンを配ってもらえる。ただし、主食以外の副菜やデザートに卵が含まれていた場合は、対応食の用意がないため、それぞれの家庭で代わりのおかずを作って子供に持たせることになっていた。

その日は、給食のスープに卵が使用されていたため、修子は保温容器に今朝作ったスープを入れて真奈に持たせていたはずだった。

「村松さん」

ロビーで手続きを待っていると、声を掛けられた。顔を上げると付き添いで病院に来ていた真奈の担任・高嶋が立っていた。修子は春先から担任になったこの男があまり好きになれなかった。どことなく保護者や子供たちを軽んじている、事務的な態度がうさん臭く思えていた。

「先生っ! 一体何があったんですか?」

「いやー、突然のことで驚きましたよ。とにかく真奈さんが無事で何よりでした」

高嶋は、問い詰めるように言った修子に対し、真奈がアレルギー対応を起こした経緯をごく簡単に説明した。

「真奈さんが『少しなら食べられる』と言って、給食のスープを飲んだんです」

「真奈が? 自分でですか?」

修子が眉をひそめながら尋ねると、高嶋は大げさにうなずいて言った。

「ええ、自分から飲みましたよ。そうしたら、みるみるうちにじんましんと咳(せき)が止まらなくなったもので、慌てて救急車を呼んだんです。他の子供たちも大騒ぎでね……いやぁ、参りましたよ」

「そうですか……どうもご面倒をおかけいたしました」

高嶋からは謝罪の言葉のひとつすらなかった。修子は彼の説明にも当然不信感を覚えたが、仕事を中抜けして病院に来ていることもあり、その場はおとなしく引き下がるしかなかった。

教師に卵を食べるよう強要されていた

その後、修子はそのまま早退することにして、合流した大吾とともに真奈を連れて帰った。真奈の口からも、何があったのかを聞いておく必要があると思った。

「あのね、高嶋先生が好き嫌いするなって……」

高嶋は、1人だけ給食のスープを受け取らず、スープジャーをとり出した真奈を見とがめて注意したのだという。高嶋から本当にひと口も卵が食べられないのかと詰問された真奈は、「よく火を通せば、黄身は食べられる」と答えた。それを聞いた高嶋が、他の子と同じスープを真奈の机に置いて、食べるまで昼休みに入らせないと言ったのだ。

「何だよ、それ。ふざけんなよ」

大吾が声を荒らげた。修子は言葉こそ飲みこんだが、怒りに震える気持ちは同じだった。許せない。許してはいけない。親として徹底的に戦うべきだ。

修子と大吾は目線を合わせてうなずいた。

●やはり担任教師はうそをついていた……! このまま泣き寝入りするわけにはいかない。 後編【命に関わる事態だった…アレルギー食材を“根性”で食べさせ責任逃れする“昭和な教師”を「撃退した方法」にて、詳細をお届けします。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

梅田 衛基/ライター/編集者

株式会社STSデジタル所属の編集者・ライター。マネー、グルメ、ファッション、ライフスタイルなど、ジャンルを問わない取材記事の執筆、小説編集などに従事している。

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