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「元気な赤ちゃん産めるのかしら」アラフォー女性との結婚に反対する義母を懐柔した「まさかの方法」

Finasee / 2024年8月9日 17時0分

「元気な赤ちゃん産めるのかしら」アラフォー女性との結婚に反対する義母を懐柔した「まさかの方法」

Finasee(フィナシー)

<前編のあらすじ>

アパレルショップで店長をしている茉莉(39歳)は、半年前にマッチングアプリで出会い、今では同棲をしている憲也(27歳)からプロポーズを受けた。

結婚や出産に意欲的だったわけではなく、40手前まで独身でいた茉莉は、憲也との年の差も気になったが「年齢なんて単なる記号だ」と言ってくれた憲也の思いは素直にうれしく思い、結婚することに決めた。

そして、初対面となる義母へあいさつに義実家へ行くと、そこには義母・美也子(50歳)の信じられないような冷たい態度が待ち構えていた……。

●前編:「私の方が年が近い」結婚したい“13歳年上彼女”に立ちはだかるモンスター義母の「エグすぎる態度」

私の方が年齢が近いじゃない

「大丈夫? ごめんね、まさか母さんがそんな古臭い考え方をしてたなんて全然知らなくてさ……」

声を潜めた憲也は茉莉を気遣うように肩をたたく。

「ううん、大丈夫」

義母となる美也子にきちんと認めてもらわないと、と気を引き締めて、家の中に入った。広い客間に通されて、茉莉と憲也は美也子と机を挟んで腰を下ろした。

「あの、今日はこのような日を設けていただき、ありがとうございました。これ、私が家で漬けてきたズッキーニの漬物です。もし良かったら……」

「へぇ、料理が得意なの。こんな小洒落(こじゃれ)たもの、作ろうと思ったことすらないよ。おばさんはダメね」

美也子の声は相変わらず鋭く、取りつく島がない。言葉の裏にある茉莉への嫌悪を隠そうとするそぶりすらなかった。客間の空気は最上級に険悪になっている。

「母さん、俺たち、結婚することにしたよ。今日は改めて報告に来たんだ」

茉莉はゆっくりと頭を下げる。緊張と戸惑いで、正直もう何がなんだか分からなくなっていた。それでも深く息を吸い、用意してきたあいさつの言葉をつむいでいく。

「憲也さんとはかねてよりお付き合いをさせていただいておりましたが、先日プロポーズをしてもらいました。私としても憲也さんと幸せな家庭を築いていきたいと思っておりますので、お母さまにも――」

「私はあなたのお母さんじゃないわ」

「あの、失礼しました。……えっと、私としても憲也さんと幸せな家庭を築いていきたいと思っており、憲也さんのお母さまにも結婚を認めていただきたく、本日はお伺いをさせていただき」

「本当に大丈夫なの?」

今日のために何度も頭のなかで繰り返し考えてきた言葉は、ぶっきらぼうで冷たい言葉に遮られた。

「母さん、どういう意味だよ?」

「あなた、年齢はいくつ?」

返す刀で突きつけられた質問に、茉莉はゆっくりと答える。

「……39歳です」

美也子の眉間に深い縦皺(じわ)が寄る。

「私はね、こないだ50歳になったの。憲也を生んだのは23のとき。まあ時代なのかもしれないけどね、憲也より私のほうが年が近いじゃない。39歳で無事に元気な赤ちゃん産んで、育てられるのかしら」

茉莉は黙り込んだ。確かに年齢のことは気になっていた。憲也は気にしないと言ってくれたが、それでも、出産や子育てのことを考えれば気にせずにはいられない問題だった。

美也子の言い方は鋭く冷たいが、言っていることは正論なのかもしれない。どれだけ男女平等をうたっても、女のからだは不自由だった。

「俺が気にしないって言ったんだよ。年齢なんて関係ないだろ」

「あんたは今、のぼせ上がってるからそんなふうに思ってるだけよ。長く一緒にいて、絶対に後悔しないって言い切れる? 結婚っていうのはね、そういうもんじゃないの。落ち着いて考え直してみなさいよ」

「母さんに俺の何が分かるんだよ」

憲也は強い口調で美也子に反論する。美也子はいらついたような顔になり、その矛先は当然のように茉莉へと向けられた。

「だいたいね、その髪色はなんなの? いい年してそんな髪色、恥ずかしいと思わないの? そんな頭で私の近所をうろつかないでほしいわ。非常識にもほどがあるでしょう。まったく、お父さんが見たら、なんて言うか」

「……すみません」

「母さん、別に見た目なんてどうでもいいだろ。とにかく俺たちの結婚を認めてくれよ」

「嫌よ。こんな女との結婚を認めちゃったら、天国のお父さんに顔向けができないじゃない」

憲也がどれだけ言葉を尽くして説得を試みても、美也子が認めることはなかった。

誰も不幸になってほしくない

こうして茉莉の結婚のあいさつは最悪な形で終わった。自宅に帰り着いたころにはくたくたで、茉莉は緊張からの解放と落胆でソファに倒れ込むように沈んだ。

まだ見た目に関しては対策ができる。それでも年齢差に関しては茉莉にはどうすることもできなかった。

「……ほんとごめん」

「全然、大丈夫だよ。やっぱり、ダメ、だったかぁって感じ」

「大丈夫な人の顔じゃないよ。ほんとにごめん」

隣りに座った憲也が茉莉を優しく抱きしめる。

「俺は茉莉と一緒にいられたらそれでいいよ。だからさ、母さんのことなんて気にせず、結婚したって平気だよ」

「でも、そんなことしたら、憲也とお義母(かあ)さんが…」

「別にどうでもいいよ。今日のはさすがに俺もビビったし。それに、別に元から仲のいい家族ってわけでもないし、今更だよ」

憲也の覚悟が伝わる言葉だった。茉莉は憲也の手を握る。

「まだそんな焦ることないよ。しっかりと話したら、お義母(かあ)さんだってちゃんと分かってくれると思う」

「茉莉が、いいなら、それでいいけど……」

美也子は確かに厳しい言葉を浴びせてきた。もちろんそれは理不尽なものであることに代わりはないが、憲也を思ってのことなのだと理解はできる。

だからこそ、自分との結婚が原因で、2人の仲が引き裂かれるようなことはあってはいけない。

どうにかして、美也子に認めてもらいたい。誰も不幸にはなってほしくなかった。

義母の胃袋をつかんだ

2週間後、茉莉と憲也は美也子を自宅に招くことにした。憲也が美也子を車で迎えに行き、その間、茉莉は美也子をもてなす準備を整える。チャイムが鳴り、出迎えに行くと、不機嫌そうな美也子がずかずかと入ってくる。

「お久しぶりです。お待ちしておりました」

「憲也がどうしてもって言うから来てあげたけどね、私の気持ちは変わらないよ」

「いえ、今日はそういうのじゃありませんから」

髪を黒く染め直した茉莉は笑顔で応える。そう言って少しでも美也子の警戒心を解こうとした。

「何にもないじゃない」

室内を見渡した美也子がしげしげと口を開く。

「ええ、あまりものを置くのが好きじゃなくて」

「生活感がないけど、ほんとにこんなところに住んでるの? なんだか落ち着かないわね」

うんざりしている憲也を横目に、茉莉は美也子をテーブルへと案内した。

「さっそくですけど、お昼まだですよね? パスタを作ったんで食べてみてください」

そう言って、茉莉は美也子の前にパスタを置いた。今回作ったのは和風の冷製パスタ。口を曲げていた美也子だが、おなかをすかせていたのか、渋々フォークを使ってパスタを口に運んだ。

1度、ピタリと止まったかと思うと、また2口目に入る。その様子を見て、美也子と憲也は目を合わせる。憲也は得意げな顔をして笑った。

パスタが好きだというのは憲也から聞いていた。さらに脂っこいものは苦手だろうと思って、和風のさっぱりとした味付けにしたのも功を奏したようだ。

「どう? うまいだろ? 茉莉って料理がメチャクチャ上手なんだよ」

「……まあ、そうなのかもね」

「スゴいだろ? 母さんが好きな日本酒もあるから」

「ご機嫌取りしようったって無駄よ」

そう言って憲也がコップに酒を注いだ。茉莉はそのタイミングを見計らって、あらかじめ用意しておいた酒のあてをテーブルに並べた。ホタテのカルパッチョ、ナスのおひたし、クリームチーズとアボカドをあえたもの、さらにズッキーニの漬物など思いつく限り茉莉は作っておいたのだ。

「これ、全部、手作り?」

「ええ、そうです。日本酒にはこれが合うかなと思いまして」

そこから美也子は酒を飲みながら、ちびちびとあてを食べる。決して感想は言ってくれないが、それでも酒と箸が進んでいく。やがて顔を赤くした美也子がどん、とおちょこをテーブルに置いた。

「だいたいね、どうして、私のほうが年が近いような年食った女と憲也が結婚しなきゃなんないのさ」

美也子が声を荒らげた。こないだのような冷たい印象とは打って変わって、ただ酔っぱらっているのだと分かる。身を乗り出して反論しようとした憲也を、茉莉は目線で制した。

「分かります。不安ですよね。私もお義母(かあ)さんを安心させてあげられないのが、心苦しくて。……このズッキーニもぜひ食べてみてください」

「ああ、うん。おいしい。これなあに、何ていうの?」

「ズッキーニの漬物です。辛口の日本酒にぴったりなんですよ」

「はぁーっ、あんたは料理の天才だね。料理人なの?」

「いえ、私は洋服屋で店長をしてます」

「へぇ~じゃあこんなのどこで習ったのよ? 」

「うちの父がお酒が大好きだったんですよ。母が病気で早くに亡くなったのもあって、学生のころ、疲れて帰ってきた父に作ってたりしたら、身につきました」

「あらまあ、それは孝行娘だねぇ。お父さんもうれしかっただろうに。それに苦労したんだねぇ。立派だよ、今じゃ店長さんなんだから」

「いえいえ、とんでもないです」

茉莉は美也子の隣りへ移動し、空になったおちょこに手酌をする。美也子はいい飲みっぷりで一気におちょこの中身をあおる。

「おいしいねぇ。憲也はあんまり飲めないからね、普段つまんないんじゃないの?」

「そうですね~、晩酌すると、憲也さんはいつも先に寝ちゃいます」

「だらしない。そうだ。これからは私、私を呼びなさい。付き合ってあげるから」

「え、いいんですか? 毎日呼んじゃいますよ?」

「毎日だって、こんなおいしいあてが食べられるんだったら幸せもんだよ」

心配そうに茉莉たちを見ていた憲也は思わず笑みをこぼしていた。まさかお義母(かあ)さんの胃袋をつかむことになるとは思っていなかったが、想像以上の効果に、茉莉も心のなかで小さくガッツボーズをする。

「この前は悪かったよ。茉莉さんのこと、よく知りもしないくせに悪く言ったりして」

「いいんです。憲也さんのことを思ったら、当然です。でも安心してください。2人でお義母(かあ)さんに負けないくらい、いい家庭を作ります」

茉莉は思わず泣きそうになって上を向く。

まだスタートラインだ。それでも前進したことに変わりはない。美也子とうまくやっていけるかもしれないという希望が、身体の奥底から湧いてきて茉莉を勇気づけた。

「料理じゃあもうすでに私なんか足元にも及ばないね。私ってば料理が苦手なんだよ」

「母さんの作ったトンカツとかひどかったよな。箸でつかむと、衣が全部はがれるんだよ」

「うるさいね。その私の料理で育ったんだからね、あんたは」

「トンカツって難しいですよね。むしろ私は揚げ物あんまり得意じゃないので、お義母(かあ)さんに教えてほしいくらいです」

「ダメダメ。衣がはがれるんだから、ありゃトンカツじゃなくてただの“トン”だね」

大声で笑う美也子に釣られて、茉莉も憲也も笑った。もうその表情にはこの前向けられたような冷たさは存在せず、3人で囲んだテーブルに重苦しい空気も存在しなかった。

まだ憲也との結婚に、納得してくれたわけではないだろう。しかしお酒がほだしてくれた美也子の態度に、茉莉は未来に向けた確かな希望を感じていた。

複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

梅田 衛基/ライター/編集者

株式会社STSデジタル所属の編集者・ライター。マネー、グルメ、ファッション、ライフスタイルなど、ジャンルを問わない取材記事の執筆、小説編集などに従事している。

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