「義家族の前で恥をかかされ…」お盆の帰省、義母に頭が上がらない夫に幻滅した主婦を待っていた「驚きの展開」
Finasee / 2024年8月15日 17時0分
Finasee(フィナシー)
7月初旬の暑さが気だるくなる時期、佑香は家で掃除をしていた。夫の潤一とは25歳で結婚して、17年の月日がたつ。専業主婦歴も長く、昔は苦手だった掃除も手慣れたものになっていた。
佑香が掃除機をかけていると、スマホが震える。画面を見ると、そこには義母・美恵子の名前があった。遠方の義実家に住んでいる美恵子とは年1回程度会うくらいで、会話をするのはほとんどが電話越しだった。佑香は小さく息を吐いて、スマホを耳に当てる。
「お義母(かあ)さん、お久しぶりです」
佑香は柔らかく、穏やかな声を心掛けた。
『久しぶりね。最近暑いわね~。元気にやってるのかしら?』
「ええ、元気ですよ。お義母(かあ)さんの方も熱中症に気をつけてください」
『大丈夫よ。曜子さんが気遣ってちょくちょく会いに来てくれるからね』
「そうですか、それは良かったです……」
これ見よがしな言い草に、言外の意味を感じ取ってしまうのも、仕方のないことだった。
『あ、そうそう、昨日、お中元が届いたのよ。ありがとうね』
「ああ、いえいえ。わざわざお礼なんて良かったのに」
『ほんとありがとうね。おかげでスーパーにアイスを買いに行く手間が省けたわ~』
「あ……、はい」
美恵子は上機嫌なようだったが、佑香の17年間で培われたセンサーは漠然とした嫌な予感を敏感に感じ取っていた。
何かにつけ、義姉と比べてくる義母『ちなみにね、曜子さんからもお中元が贈られてきてね』
「ああ、そうですか」
『私の生まれ年の焼酎を送ってきてくれたの。私がお酒好きだっていうのを知っててくれたみたい。世間ではねヴィンテージ焼酎って呼ばれてるみたいで、お値段も結構するみたいなの。なんだか気を遣わせちゃって申し訳なくってねぇ』
「ウイスキーですか。さ、さすがお義姉(ねえ)さんですね」
佑香は何とか称賛の声を絞り出しながら、そういうことかと納得する。つまるところ美恵子は、もらったお中元をだしにして、兄嫁である曜子と佑香のことを比べるために電話をかけてきたのだ。
『ほんと、曜子さんって何から何までできるすてきな人だわ。俊之もあんなすてきな奥さんもらえて、幸せ者よね。誰かさんとは大違いだわ』
「はは……」
佑香には愛想笑いを浮かべることしかできなかった。電話を切った佑香はリビングでゴルフを見ている潤一に、美恵子から電話があったことを伝えた。
「なんだって?」
「イヤミよイヤミ。お中元、安物のアイスなんて送りつけやがってって言いたかったみたい」
「ええっ、そんなこと言ってたんだ……」
潤一はばつ悪そうに髪をかいている。
「お義姉(ねえ)さんは高い焼酎を送ったんだって。ただ高級品を送ればいいなら、そうするっての」
「まあまあ。母さん、酒好きだから」
潤一は温和な性格をしている。その優しさに助けられてきたことは事実だが、こういうときに味方になってくれないのは不満だった。
「来月はお盆で帰省しなきゃいけないんでしょ? あーあ、また嫌みを言われるわよ」
「さすがに母さんもそんなことしないって。別に去年とかも何もなかったじゃないか」
「私が何もない感じで接してたから気付かなかっただけでしょ?」
佑香はため息を吐いた。潤一は眉尻を下げて笑っていた。
「今年はちゃんと私の味方になってよね?」
佑香がそう問うと、潤一は曖昧に頭を揺らす。うなずいているともかわしているともとれる微妙な反応だった。
1年ぶりの義家族との再会8月半ばの夏季休暇はあっという間にやってきて、佑香は義実家に帰省した。玄関先で佑香たちを出迎えた美恵子は朗らかな表情をしていた。
「お義母(かあ)さん、こんにちは」
「こんにちは。あら、今日は蓮も来てくれたのね。久しぶりね~」
潤一の影から息子の蓮がひょっこりと顔を出す。
「もう中学生になったのよね?」
「うん、そうだよ」
あいさつもそこそこに家に上がると、客間にはすでに曜子の姿があった。
「お久しぶりです、お義姉(ねえ)さん」
曜子は佑香たちを見て、うれしそうに頰を緩めた。
「久しぶり~、1年前と全然変わってないわね~」
「お義姉(ねえ)さんこそ、全然変わってないですよ」
曜子は明るい性格で、人当たりが良い。だからこそ美恵子が何かと2人を比べてくることも、曜子を使って自分をおとしめてくることも、とにかく腹が立つのだ。
「今日はお義姉(ねえ)さん、1人ですか?」
「旦那はね、夜から合流」
「あれ、春樹くんは来ないんですか?」
春樹は曜子の息子で、蓮の2つ上の男の子だ。
「そうなのよ。春樹がね、塾の勉強合宿に参加してて、こっちには不参加なの」
「え? まだ高1ですよね?」
「そうなの。でも本人が東大に行きたいって言ってて、そうなると今から勉強を頑張らないとダメなんだって」
「はぁ~大変ですね」
感心してうなずいていると、美恵子が割って入ってくる。
「春樹は県内で偏差値が一番高い高校に行くのよ。鼻が高いわぁスゴいよね~」
「そうなんですね。頭が良いのは前から知っていましたけど……」
「中学受験も成功して、将来はエリートになるんじゃない?」
「さあ、どうでしょう? うちはそこら辺は放任なんで」
曜子が答えるのを聞き、美恵子は佑香に目を向ける。
「蓮はどうなの? 中学は公立に行かせてるらしいじゃない」
「うちも、別に進路については蓮の気持ちを優先してますから。中学受験とかは興味なかったみたいなんで……」
美恵子は納得したようにうなずく。
「何が違うんだろうね。家庭でしっかりとした教育をしていたら、勉強を頑張らなきゃって思えるはずなんだろうけどね~」
「まぁ、それぞれのペースがありますから」
曜子は優しく佑香を援護してくる。もちろん、佑香も言われっぱなしではいられない。
「別に良い高校や大学に行くだけが優れているってことじゃないですから。部活で小学校時代からの友達たちと陸上ホッケーに熱中しているので、私は地元の中学で良かったなって思ってます」
佑香が反論すると、美恵子は鼻で笑う。
「陸上ホッケー? 何それ? プロとかないんでしょ? そんなことさせてていいと思ってるの? 放任とほったらかしは違うの。蓮のことをもうちょっと考えてあげたほうがいいんじゃない?」
美恵子は盛大な嫌みを言ってきた。怒りを抑えきれなかった佑香は隣りでずっと黙り込んでいる潤一に目を向ける。潤一はわれ関せずという顔でスマホを眺めていたが、佑香の突き刺さる視線にはさすがに気づいたのか、顔を上げるといつものように笑みを浮かべる。
「まあ、母さんは蓮のことを心配してくれてるんだよな」
あくまで潤一は美恵子の肩を持つつもりなのだろうか。
「そうよ、だから言ってあげてるの」
「今後のことはまたいろいろと考えよう、な?」
潤一の態度に、佑香は内心で深いため息をついた。
どうやら、例年通りの厳しいお盆になりそうだ。
●これだから来たくなかった。早くやり過ごして帰りたい佑香だが、相変わらずな義母の態度を改めさせるような出来事が……? 後編【「何かにつけて義姉と比べられ…」散々意地悪な仕打ちをしかけてきた義母から謝罪を引き出した「まさかの人物」】にて、詳細をお届けします。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
梅田 衛基/ライター/編集者
株式会社STSデジタル所属の編集者・ライター。マネー、グルメ、ファッション、ライフスタイルなど、ジャンルを問わない取材記事の執筆、小説編集などに従事している。
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