「何かにつけて義姉と比べられ…」散々意地悪な仕打ちをしかけてきた義母から謝罪を引き出した「まさかの人物」
Finasee / 2024年8月15日 17時0分
Finasee(フィナシー)
<前編のあらすじ>
佑香(42歳)は、今年も田舎の義実家にお中元を贈った。まもなくして義母・美恵子(72歳)から、お礼の電話がかかってきたかと思えば、夫・潤一(44歳)の兄嫁はもっといいものを送ってきたと、遠まわしに嫌みを言われる始末。何かにつけて兄嫁を引き合いに出して比べてくる義母に、佑香はうんざりしていた。
そんななか、今年もお盆の帰省で兄夫婦たちと一堂に会することになった。表面的には平等を装いながらも、義母は何かにつけて兄嫁を褒め、佑香をけなすような態度を取り続ける。
そして、兄嫁の息子は中学受験に成功したが、佑香の息子は公立中学を選んだことをけなされ、我慢の限界だと夫に訴えた。だが、義母は心配してくれているだけだと、あくまでも母親の肩をもつ夫になおさらうんざりし、ため息をついた。
●前編:「義家族の前で恥をかかされ…」お盆の帰省、義母に頭が上がらない夫に幻滅した主婦を待っていた「驚きの展開」
義母のたくらみ夕食を終えた佑香、曜子、美恵子の3人は台所で洗いものをしていた。夫の潤一と、あとから合流してきた義兄の俊之は野球を見ながら、ああでもないこうでもないとペナントレース終盤の予想をしている。
「皆、デザートは食べる?」
「あ、じゃあ、私、準備しますよ」
曜子がテキパキと答えるので、佑香もそれに追随する。
「でもね~、何か甘いものとかあったかしらね……」
美恵子はわざとらしく考え込み、顔を上げるとにやりと笑った。
「そうだ、アイスがあるのよ。暑いからちょうどいいわね」
「いいですね!」
曜子はうれしそうに、声を上げる。佑香は居心地の悪さを感じる。もう既に、美恵子が何をたくらんでいるのか、うすうすだが想像できていた。
義姉の気づかい「この前ね、お中元でアイスが送られてきたのよ。確か、佑香さんが送ってくれたのよね?」
「すてきなお中元ですね。来年から私もそうしようかしら」
曜子は佑香に笑いかける。一つ一つの所作に気遣いが見えて、ありがたい気持ちになる。
「でもね、さすがに一人じゃ食べきれなくてねぇ。それで置いといても良くないから、ご近所さんに配ろうかと思ったんだけど、ちょっとね。これ、安物だから、人さまにおすそ分けするのも恥ずかしくてねぇ」
佑香は2人の会話にずっと背中を向けていた。もうとっくに水気のなくなった皿を拭き続けていた。
「だから、これで良かったら、ぜひ食べてほしいの。ねえ、佑香さん、これ、あげちゃっていいよね?」
美恵子に言われて、佑香は振り返る。
「どうぞ。お好きなだけ食べてください」
「好きなだけって5個入りでしょ? もっと違う言い方はできないの?」
いちいち突っかかってくる美恵子に、怒りで体が熱くなる。
「で、でも! 5個ってことは全員分はないんですよね⁉」
不穏な空気を察知して曜子が無理やり話題を変える。今、この家にいるのは佑香、潤一、蓮、曜子、美恵子、俊之の6人。全員がアイスを食べることはできない。
「じゃあ、私要らないわ。皆で食べて」
言い放った美恵子に、曜子が申し訳なさそうな表情を向ける。
「ホントに良いんですか?」
「良いの、良いの。私ね普段アイス食べないから、困ってたのよ。無駄に箱も大きくて、冷凍室を占拠してたから。皆が食べてくれるのホントに助かるのよ」
「じゃあ、お言葉に甘えて遠慮なく頂いちゃいますね。私、昔から甘いものに目がなくて」
曜子の笑顔を見て、佑香は心が洗われるような気持ちになる。曜子が喜んでくれてるのなら、何でもいいやと思えてしまう。そんな魅力が曜子にはあった。
佑香は曜子と一緒に冷凍庫からアイスの入った箱を取り出し、箱を開けた瞬間、曜子が驚きの声を上げた。
2度と食べられないかもしれない「えっ⁉ こ、これって!」
曜子の反応に美恵子も驚く。
「何、どうかしたの⁉」
曜子は美恵子の質問を無視して見開いた目を佑香に向けてきた。
「佑香さん、これって山形牧場のアイスじゃない⁉」
「あ、そうそう。やっぱり曜子さん、知ってるんですね」
「もちろんよ! アイス好きじゃなくても、山形牧場は知ってるって!」
「な、何その山形牧場って?」
「元々牧場のオーナーだった方が開いたアイス屋さんですよ。最初は経営している牧場の近くで自家製アイスとして売り出したみたいなんですけど、それがとんでもなくおいしいって評判になって、東京に出店したんです」
曜子の熱意のある説明に美恵子は押されながらうなずく。
「こ、これ、しかも田中パーラーとコラボしたフルーツアイスじゃない⁉ これ目当てに全国からお客さんがたくさん来るから全然手に入らないはずなのに!」
「お中元に良いかなと思って、朝から並んでみたんです。そしたら運よく買えました」
美恵子は唇を震わせながら、佑香に目を向ける。
「通販で、買ったんじゃないの?」
「お義母(かあ)さん、これ店頭販売しかしてないんですよ。しかも数量限定。ね、佑香さん」
その光景を見て、美恵子は口をひん曲げる。
「そ、そんな大げさよ。だって並べば買えるんでしょ」
「このコラボ商品は期間限定なんですよ、もう2度と食べられないかもしれない商品だってテレビでやってたんです!」
曜子から強い口調で反論され、美恵子は押し黙る。
美恵子は2度と食べられないという単語を小さく復唱していた。
「それじゃあ、これ、リビングに持って行きますね。きっと俊之さんも喜んでくれると思います」
そう言って曜子は足取りも軽くアイスとスプーンを持ってリビングに行ってしまった。佑香は台所を見渡す。美恵子と2人、取り残された感じなのが若干気まずい。
「お義母(かあ)さんはお酒にしますか? 私、準備しますよ」
「……あれは、私のために買ったんだよね?」
美恵子は少し背中を丸めている。
「そうですよ。昨年、焼き菓子を送った時に、夏に冷たいものを送るくらいの気遣いがないのかって言われたので、アイスにしようと思ったんです。でもすいません、まさか普段食べられないとは気付かず……」
佑香は美恵子が何を言うのか察知してあえて気付かないフリする。
「ああ、いや、全く食べないってワケじゃないし……せっかくだからね、私が食べてあげてもいいけどね」
美恵子の言葉に佑香は笑みを浮かべる。
「気にしないでください。無理させるのは申し訳ないですから。私たちでおいしくいただきますよ」
佑香は食器棚からグラスを取り出した。
「お義母(かあ)さんはお好きなお酒を飲まれたどうですか?」
「いや、せっかくのあなたの好意だし、それをむげにするのも申し訳ないから……」
美恵子は口のなかでこねた言葉をぽろぽろとこぼしていて、佑香は思わず内心でほくそ笑んでしまう。
「お義母(かあ)さん、無理しないでくださいって。それとも、もしかして、やっぱり食べたくなっちゃったんですか?」
佑香はここぞとばかりに語気を強めた。
「ごめんなさい、そんなに人気のあるものだと知らなくて……ちゃんと考えて選んでくれていたのよね。つまらない文句を言って、本当にごめんなさい」
佑香は美恵子を見つめる。これまでのイヤミがチャラになるわけではなかったが、うなだれて謝る美恵子の姿に胸がすいたのも確かだ。
あまりやり込めても仕方がないだろう、と思った。そもそも佑香は美恵子に対してマウントを取ったりしたいわけではない。ごく普通の親族として、ごく普通に付き合っていきたいだけだった。
「私の分を食べていいですから、これ、リビングに持って行ってください。私はお風呂の準備をしますから」
「い、いいの?」
「いいんです。元々お義母(かあ)さんのために買ったものですから」
「……あ、うん、ちょ、ちょっと待ってて」
すると美恵子は台所から皿を1枚持ってきた。
「これ貴重なものなんでしょ。だったら2人で半分にわけましょう」
美恵子の提案に佑香はうれしくなった。ほんの少しだけ。ほんの少しだけだがうれしかった。
これで少しは風向きが変わるといいんだけど。佑香は美恵子とともに曜子たちがいるリビングへ向かう。
もちろん、アイスは自宅用にも買っていたけれど、そのことは黙っておくことにした。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
梅田 衛基/ライター/編集者
株式会社STSデジタル所属の編集者・ライター。マネー、グルメ、ファッション、ライフスタイルなど、ジャンルを問わない取材記事の執筆、小説編集などに従事している。
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