「5年過ぎてたらマズかった」大腸がんを克服した男性が60歳で“年100万円超”の年金を受け取れた驚きの理由
Finasee / 2024年8月22日 12時0分
Finasee(フィナシー)
<前編のあらすじ>
慶太郎さんは現在60歳で短時間勤務で働いています。4年前、妻や友人の勧めで人間ドックを受けたところ大腸がんが見つかり、手術で人工肛門を造設しました。
人工肛門造設により、慶太郎さんの生活は今までと一変します。仕事や日常生活に制約が生じ、障害者手帳を取得することになりました。障害者手帳の等級は4級です。
ある時、その話を聞いた友人から「手帳があるのなら障害年金も受けられるんじゃないか?」と助言を受けました。慶太郎さんは気になって障害年金について調べてみますが、インターネットで見た情報から「自分は対象外だ」と判断して受給を諦めてしまいました。
そうして60歳になった頃、慶太郎さんは治療費や収入減少が原因で生活の厳しさを感じ、老齢年金の繰上げを検討します。年金事務所に行って相談してみると、職員から返ってきたのは、「障害年金の対象になりえますので、老齢年金の繰上げ請求はせず、障害年金としての請求を早めにしていただいたほうがよろしいかと思います」というまさかの回答でした。
●前編:【人間ドックで大病発覚、治療で老後資金不足に…60歳男性が年金繰上げを考えて分かった「意外な事実」】
障害者手帳と障害年金の等級は異なることに注意!慶太郎さんは「自分の障害等級は4級。3級にならないと障害年金は対象にならないんじゃないですか?」と職員に尋ねます。
確かに、慶太郎さんの障害者手帳には4級と書かれています。しかし、この障害者手帳の等級は“年金制度上の等級”とは異なります。
年金事務所の職員によると「人工肛門の場合、障害年金の制度上の等級では原則として3級となります」とのことでした。そして、障害年金のうち、1級~2級を対象とした障害基礎年金は対象にならなくても、1級~3級を対象とした障害厚生年金は受け取りの対象になりそうとの説明を受けました。
また、初診日(障害の原因となる病気やケガで初めて医師等の診察を受けた日)に会社に勤めて厚生年金に加入中で、長く厚生年金保険料も掛け続けていたため、そのほかの受給要件も満たしていそうでした。
その初診日から原則1年6カ月経過した日が障害認定日になり、障害認定日に障害等級に該当している場合は障害認定日に障害厚生年金の受給権が発生しますが、人工肛門を造設した場合は、初診日から1年6カ月経過していなくても、「人工肛門造設の日から6カ月経過した日」を「障害認定日=受給権発生日」とすることになっています。慶太郎さんはこれに該当していることにもなります。
5年以内は遡って支給される慶太郎さんは「けど、もう60歳になりました。手術したのは56歳の時。人工肛門を入れて6カ月経った頃はちょうど57歳になったばかりの頃でした。今から障害年金の手続きはできるのですか?」と尋ねます。
これに対して職員は「人工肛門を入れた日から6カ月経過した日(=受給権発生日)から5年は経過していません。5年以内なら時効にかからず、57歳の障害認定日に遡って支給されます」と教えてくれました。
「5年過ぎていたらマズかったんだな……。今日相談に来て本当によかった」と、こうして慶太郎さんは、当初考えていた老齢年金の繰上げは取りやめ、障害年金の請求を進めることになりました。
65歳からの年金の受け取りはどうなる?障害年金の手続きをした結果、慶太郎さんには障害等級3級の障害厚生年金として支給が決定されました。年間100万円超支給されることになり、これを過去に遡り、今後も受け取れることになりました。
ただし、65歳以降は障害厚生年金を受け取れなくなります。年金事務所では65歳以降の年金についても案内を受けていました。慶太郎さんは、繰上げをしない老齢年金(老齢基礎年金+老齢厚生年金)は65歳から受給できるようになりますが、65歳からは障害厚生年金と老齢年金、いずれか選択して受給することになり、両方は受け取れません(もし、65歳前で老齢年金を繰上げした場合も、障害厚生年金と繰上げした老齢年金、いずれか選択になります)。
慶太郎さんの場合、障害厚生年金より老齢年金のほうが基礎年金と厚生年金の2階建てで年金額も高く、65歳からの老齢年金の見込として合計200万円程度になりそうです。つまり、65歳からは老齢年金を選択することになり、障害厚生年金は事実上65歳までの支給となります。
障害厚生年金が57歳に遡って支給され、65歳までは受給し続けることができると分かった慶太郎さん。「これで65歳まではなんとかなるな」と思い、老齢年金を繰上げする必要がなくなりました。
なお、障害厚生年金を65歳まで受給している場合、65歳からの老齢年金については、受給開始を遅らせて増額させる繰下げ受給はできないことになります。これについて、慶太郎さんは「繰下げはする気がないから大丈夫」と了解しました。
慶太郎さんは障害者手帳と障害年金の障害等級の違いを知らず、障害年金を受け取れないと思い込んでいたため、危うく受け取りをしないまま過ごすところでした。病気やケガがあった際、障害年金の対象となるかどうか、気になる場合は一度年金事務所に相談に行きましょう。
※プライバシー保護のため、内容を一部脚色しています。
五十嵐 義典/ファイナンシャルプランナー
よこはまライフプランニング代表取締役、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP®認定者、特定社会保険労務士、日本年金学会会員、服部年金企画講師。専門分野は公的年金で、これまで5500件を超える年金相談業務を経験。また、年金事務担当者・社労士・FP向けの教育研修や、ウェブメディア・専門誌での記事執筆を行い、新聞、雑誌への取材協力も多数ある。横浜市を中心に首都圏で活動中。※2024年7月までは井内義典(いのうち よしのり)名義で活動。
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