「代わりに書くよ」男手一つで育ててくれた父に親孝行を…家族思いの男性が終活の手伝いでやってしまった「思いがけないミス」
Finasee / 2024年8月22日 17時0分
Finasee(フィナシー)
一般的に遺言書と言えば、遺言を残したいと願う本人が自分自身で書いて作成するものである。だが、中には手書きが苦手であったり病気であったりすることを理由に自署を拒否して、子や配偶者など近しい親族に代筆をお願いするケースもあるようだ。また、時には家族の方から代筆を願い出て、それが争いの原因となることもある。今回は代筆を自ら願い出た心優しき青年、高田さんの話を紹介しよう。
父親に男手一つで育てられ、孝行息子に成長した高田さん高田さんは今年で45歳になる。父親である昭三さんは今年で73歳。早くに事故で妻を亡くし、高田さんが7歳のころから男手一つで育児と仕事をこなしてきた。
当時はまだ今ほど男性の育児に理解のあった時代ではなかったが、昭三さんは決して育児と仕事の両立のつらさを漏らすことがなかった。高田さんもその背中を見て何も感じなかったわけではない。
そのかいあってか高田さんは近所でも評判の孝行息子に成長。27歳のころに結婚してからは、父親を含め妻と子供と4人で生活を始め、親孝行をしながら幸せな日々を送っていた。
そんな高田さんの父親思いの行動が人生で初めて裏目に出ることとなったのが、昭三さんの遺言書についてだった。
父親の負担を減らすため遺言書作成を手伝うことに近年、テレビや雑誌などで遺言書の作成を勧める内容をよく見かけないだろうか。
高田さんと昭三さんの親子も例外ではなく、「うちも遺言書が必要なのか……」と悩むことが出てくるようになった。年齢も73歳と、いわゆる「終活」を意識し始めてもおかしくない年齢。遺言書の作成を検討するのもいいタイミングだろう。
だが、昭三さんにとって遺言書の作成はハードルが高い。実は昭三さんは勉学が苦手であり、遺言書のような文章を書くことに抵抗があったのだ。昭三さんの遺言書については60歳で定年退職を迎えた時にも家族内で話題となったようだ。
というのも、その時私の元に高田さんから遺言書について依頼があったのだ。その際に依頼の背景として昭三さんの話は聞いていた。結局は紆余曲折あって依頼はキャンセルとなったわけだが、その時の経験が裏目に出た。高田さんがそこから「遺言書の作成は他人でも代理できる」と思い込んでしまい、昭三さんに対して「遺言書なら俺が代わりに書くよ」と申し出たのだ。
高田さんが代筆した遺言書の内容は「高田さんに7割、残りの3割を弟の誠二さんに相続させる」というものだ。
これは以前私が高田さんと昭三さんから相談を受けた際に「一緒に生活して親孝行してくれた高田さんに多めに相続を」と聞いていた方針そのままである。内容的には間違ったものでもないし法的に実現不可能なものでもない。
そこで高田さんは遺言書について「父に代わって自分が書くと名乗れば父も遺言書の作成に踏み切れるだろう」、そう考えた。
それに加え高田さんは以前私に遺言書の作成を依頼したことから、遺言書の作成は本人以外でも作成できるとも考えていた。内容も以前私と打ち合わせたものがあるから法的にも間違いない。それなら自分でも作れる! という考えに至ったわけだ。
だが、それこそが高田さん親子を襲った落とし穴にはまるきっかけになった。
●父親の負担を減らすために代筆を申し出た高田さん。ところが昭三さんの死後、次男がこれを疑問視。高田さんの優しさが裏目に出る事態になってしまいます。後編【父親の終活を手伝った長男の勘違いで“家族分裂”の危機…円満相続を目指すなら「やるべきではなかったこと」】で詳説します
※プライバシー保護のため、内容を一部脚色しています。
※登場人物はすべて仮名です。
柘植 輝/行政書士・FP
行政書士とFPをメインに企業の経営改善など幅広く活動を行う。得意分野は相続や契約といった民亊法務関連。20歳で行政書士に合格し、若干30代の若さながら10年以上のキャリアがあり、若い感性と十分な経験からくるアドバイスは多方面から支持を集めている。
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