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父親の終活を手伝った長男の勘違いで“家族分裂”の危機…円満相続を目指すなら「やるべきではなかったこと」

Finasee / 2024年8月22日 17時0分

父親の終活を手伝った長男の勘違いで“家族分裂”の危機…円満相続を目指すなら「やるべきではなかったこと」

Finasee(フィナシー)

<前編のあらすじ>

高田さんの父、昭三さんは事故で妻を亡くして以来、男手一つで息子を育ててきた。高田さんは昭三さんの苦労を見て育ち、親孝行な息子に成長。27歳で結婚した後は、昭三さんと同居しながら、妻と子供と4人で幸せな生活を送っていた。

ある時、メディアで遺言書の重要性を知った昭三さんは、遺言書の作成を考え始めるが、「文章を書くのが苦手」という理由でハードルの高さを感じていた。それを聞いた高田さんは、父親の負担を少しでも減らそうと気遣い、代筆を提案。以前、行政書士の筆者に遺言書の作成を依頼した時の内容を元に、自分でも代筆できると考えたのだった。

この時高田さんが代筆した遺言書の内容は「高田さんに7割、弟の誠二さんに3割を相続させる」というもの。しかし、これこそが後に相続の落とし穴にはまるきっかけとなってしまうのだった。

●前編:【「代わりに書くよ」男手一つで育ててくれた父に親孝行を…家族思いの男性が終活の手伝いでやってしまった「思いがけないミス」】

父親の死後、次男が疑問視した“ある問題”

遺言書が作成された後、時は流れて数年、81歳で父昭三さんが亡くなった。問題はそこで発生した。遺言書を読んだ弟の誠二さんが遺言書の存在に異を唱えたのだ。

「これは親父の字じゃないぞ。兄貴の字じゃないか」

誠二さんから見れば、父親である昭三さんの遺言書が兄である高田さんの字で書かれている。疑問視するもの無理はない。

そこで冷静に高田さんが説明する。

「お前は知らないかもしれないけど、これは俺が代筆したんだ。以前行政書士の人に相談した話をしただろ? その時の内容で俺が書いた」

それに対して弟の誠二さんは疑問に思ったようで、後日法律の無料相談で専門家へ相談して、高田さんに対して「その遺言書は無効だ」と主張をしだした。おかげで兄弟間で意見が対立し、遺産分割はまったく進まない。

3カ月ほど平行線の対話が続き、困り果てた高田さんは「遺言書についてどうすればいいんですか⁉」と私の事務所へ駆け込んできた。私は高田さんへ順を追って説明していった。

高田さんが代筆した遺言書は「無効」

遺言書は手書きでも作成できる。いわゆる自筆証書遺言なるタイプの遺言書で、最もポピュラーかつ手軽な方式だ。日本の遺言書のほとんどがこの方式で作られているといっても過言ではない。

自筆証書遺言の作成には特に決まったフォーマットもない。縦書きだろうが横書きだろうが、便せんだろうが単なるコピー用紙だろうが、どんな紙にどんな書き方でも問題ない。法律的な書き方・言い回しが必要となったり、専用の紙が必要になったりするようなことはないのだ。

だが、遺言書として法的効果を持たせるたには最低限の方式は守る必要がある。その1つが「全文を本人が自署すること」だ。要はすべてを手書きで書け。そういうことだ。

その点で言えば、今回の昭三さんの遺言書を実際に書いたのは高田さんだ。私は高田さんへ対し「遺言書としては無効です」とはっきり伝えた。遺言書には自筆証書遺言以外の種類もあるが、その他の遺言は公証役場が絡むことから今更別の遺言書へ、ということはできない。

高田さんは私の説明を聞き納得してくれた。そして同時に疑問を口にする。なぜ世の中では行政書士事務所などで遺言書の作成の代理業務があるのか? と。それについては「あくまでも私たちが作るのは案や下書きの作成まで。最終的な本物は本人に作成いただく必要がある」と説明を行った。

遺産は半々に。兄弟にはわだかまりが残ったまま…

結局、昭三さんの遺産は高田さんと誠二さんで半分ずつ分け合うことになったようだ。遺言書はまったく意味をなさず、兄弟の間で多少なりともわだかまりを残すだけの結果になってしまった。

高田さんとしては父親を助けるつもりで書いた遺言書だったが、内容が自分に有利なものであったために弟の誠二さんから疑いの目を持たれる結果となってしまったのだ。高田さんは遺言書について父親である昭三さんの意向をくみ、自身の主観は一切入れていない状態で作成したが、そういった事実が本当に存在したのか離れて住む誠二さんからは知る由もない。

今もなお、高田さんと誠二さんは疎遠の状態である。高田さんからは毎年1回、年賀状が届き近況を聞くが、いまだに誠二さんとはわだかまりが残っているようだ。

遺言書は簡単に作れる。代理作成をうたう事務所も多くある。だが、遺言書は本人の手書きが基本で子による代筆はできないものと考えるべきだ。もし、今後遺言書の作成を考える機会があれば思い出してほしい。親を思って代筆したことで絆に亀裂の入った兄弟がいることを。

※プライバシー保護のため、内容を一部脚色しています。
※登場人物はすべて仮名です。

柘植 輝/行政書士・FP

行政書士とFPをメインに企業の経営改善など幅広く活動を行う。得意分野は相続や契約といった民亊法務関連。20歳で行政書士に合格し、若干30代の若さながら10年以上のキャリアがあり、若い感性と十分な経験からくるアドバイスは多方面から支持を集めている。

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