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「結婚や出産をしたいと思えない」母親になった友人たちに違和感…30代独女が海辺で襲われた「まさかの展開」

Finasee / 2024年8月26日 18時0分

「結婚や出産をしたいと思えない」母親になった友人たちに違和感…30代独女が海辺で襲われた「まさかの展開」

Finasee(フィナシー)

みやびはこの日のためにわざわざ買ったビーチサンダルを履いて、焼けつくような砂浜の上に立っていた。海に反射した太陽の光は、容赦なくみやびの目の奥を突き刺した。

「みやびちゃーん! こっちだよー!」

「早く早くー!」

しばらく立ち止まって海を眺めていたみやびは、元気な子供たちの声でわれに返った。

「はーい! 今行くよー!」

声を張り上げたあと、みやびはゆっくりと声の方へ歩き始めた。

晴れやかな天気とは裏腹に、みやびの心は重く沈んでいた。

今日は大学からの友人である香里と茜と一緒に海水浴に来ているのだが、みやびは憂鬱(ゆううつ)だった。すでに彼女たちは結婚や出産を経験しており、今日も当然のように子連れでの海水浴になっていることが原因だった。

「騒がしくてごめんね。佑都は、みやびのこと大好きだからさ」

「うちのも慶介もおんなじ。『早くみやびちゃんに会いたい!』って駄々をこねてたよ」

砂浜にパラソルを設置しながら、2人が声をかけてくる。

もともとは大学時代のサークル仲間で、思い返せば当時はいつも一緒に行動していた。卒業して就職したり、2人が家庭を持ったりしてからも、ときどき集まってはとりとめのない話をする関係が続いている。

「本当? 2人とも懐(なつ)いてくれてうれしいわぁ。ついに私にもモテ期が来たかも」

みやびは明るさを装って冗談を言いながら、胸の奥ではサボテンを触ってしまったときのような鋭い痛みを感じていた。

ちょうど茜が、海の家に食べ物を買いに行ってくれているので、みやびと香里は2人きり、波打ち際ではしゃぐ子供たちを眺めながら、パラソルの下に敷いたレジャーシートの上に座った。

「みやび、最近どう?何か変わったことあった?」

「まあ……普通かな。仕事が忙しくて、毎日帰って寝るだけの生活だよ」

みやびは簡単に答えたが、心の中では違うことを考えている。

立派に母親をやっている彼女たちを見ると、どうしても後ろめたさを感じてしまう。もうここ何年も、そんな風に母の顔へ変わっていってしまった友人たちとの距離感を、みやびはうまくつかめずにいた。

「そうなんだ。私も毎日子育てが大変でさ。でも、子供の笑顔を見ると疲れも吹き飛ぶよ」

「そうだね、子供たちの笑顔は本当に癒やされるよね」

「みやびはどう? いい相手いないの?」

「そういうのは全然かな」

「まあ、結婚も良しあしあるからね。今は結婚するのが幸せ、なんて時代でもないし」

香里はそう言って笑ってくれたが、実際に結婚して子育てをしながら幸せそうな顔をしている彼女の言葉に説得力はなかった。

みやびはほほ笑んでみるが、自分でも笑顔がぎこちないのが分かる。

母の赤くひび割れた手を思い出す。白くなった髪は染めなきゃねという割にいつまでたっても染められることはなかった。

母に投げつてしまった「あり得ない言葉」

みやびが結婚や出産に前向きになれないのは、身を粉にしながら女手ひとつでみやびを育てた母の苦労を間近で見ていたからだ。

父はみやびが生まれてすぐに借金を残して蒸発したらしく、みやびは顔も知らない。母はいつも朝早くから夜遅くまで働いていた。

みやびが学校に行く時間には、母はすでに仕事に出掛けており、夕方に帰ってきて家事を片づけると、また夜勤の仕事に出掛けていった。学校から帰ってくるタイミングが重なれば、母の顔を見ることができたが、作り置かれた夕飯だけがみやびを出迎えることも多かった。

寂しかった。しかしそれ以上に、必死に働き続ける母の疲れた顔を見るたびに、みやびは胸が痛んだ。どうしてそこまでして、私の面倒なんて見るのかと、苦しく思った。もしかすると母は、みやびを産んだことを後悔しているのではないかとすら思った。

今でこそ373万円※まで上がっているらしいが、私が子供だったころ、母子家庭の平均収入は200万円を多少超える程度だったそうだ。ダブルワークだった母はそれ以上に稼いでいたような気もするが、父の残した借金を返せば手元に残るお金なんてほとんどなかったのだろう。母とみやびの生活は決して裕福なものではなかった。

日々すり減っていく母を見ていた。私は学校で使う鉛筆も消しゴムも、最後の最後までみみっちく使い続けた。新しいの買ってあげるという母の言葉を断ったのは、もちろんお金がないんだろうと分かった上での子供ながらの気遣いでもあったが、鉛筆のように短く不格好で、消しゴムのように少しずつ小さく黒ずんでいく母を見ていたからだと今だから思う。

そんな毎日が続いて、みやびが18歳のとき、母はとうとう過労とストレスでリウマチになった。3カ月後に受験を控えた晩夏のころのことだった。

そのとき、自分が母に投げつけた言葉を、みやびは今でも一言一句違わずに思い出すことができる。

「大事なときに何してくれてんのよ! 本当に迷惑なんだけど! 病気になるまで働けなんて誰がいつ頼んだのよ!」

今考えてみればちゃんちゃらおかしなせりふだ。母が汗水垂らして稼いだお金でご飯を食べ、洋服を買ってもらって育った。東京の大学に行けたのだって母が稼いだお金があってこそだ。みやびが頼まなくても、母は何も言わず与え続けてくれていた。

しかしその日以来なんとなく気まずくなってしまった母との関係は、今もうまく修復できないままだった。25歳を過ぎたあたりから、実家に帰る足すらも遠のいていた。

※厚生労働省発表「令和3年度全国ひとり親世帯等調査結果」より。児童手当や養育費などを含んだ金額の平均

経験したことのない痛み

「――みやび、海に入らないの?」

物思いにふけっていたみやびに、香里の声が降ってくる。太陽を遮るように立った香里の姿は後光が差しているようで、神々しさがあった。

「そうだね、ちょっと気分転換に入ってみようかな」

みやびは、明るく答えて立ち上がって走りだす。砂浜は熱く、私はグリム童話のほうの白雪姫の、焼けた鉄の靴を履かされて踊り狂う王妃の末路を思い出した。

「佑ちゃん、慶ちゃん! おばちゃんも混ぜて!」

みやびはぬるい海に足を踏み入れる。空気で膨らませたボールを下から突いて遊んでいた2人は黄色い声を上げる。

「いいよー!」

「やったー! みやびちゃんが来た!」

子供はかわいいとは思う。だが母にとってのみやびがそうだったように、ただ存在するだけで人ひとりの人生すべてを奪ってしまいかねない存在を、育てられるだけの自信がないのかもしれなかった。

「ほら、ボールいったよ!」

佑都から送られてきたボールを慶介に向けて返した次の瞬間、みやびの足に経験したことのない激痛が走った。

「いたっ!」

みやびは思わず叫んだ。

何かに刺されたようなチクッとした痛みが太もものあたりに広がり、みやびはそのまま浅瀬で立ち止まった。

周囲の人たちが心配そうにみやびを見つめる中、慶介と佑都が香里を呼びに行ってくれた。

すぐに香里が駆け寄って来て、みやびに声をかけた。

「みやび、大丈夫?」

「うん、大丈夫。ちょっと足をけがしたみたい」

「え、どこ?」

「ふとももらへん」

「取りあえず、海から上がってパラソルで休もう」

香里は日焼け対策のラッシュガードとハーフパンツがぬれるのも厭(いと)わず海に入ってきて、みやびを砂浜に引き上げた。ほぼ同じタイミングで、買い出しに行っていた茜が戻ってきて、両手に焼きそばやフランクフルトを持ったまま駆け寄ってきた。

「みやび、どうしたの? 大丈夫?」

「みやびちゃん、足痛い?」

心配そうな友人と子供たちに囲まれて、みやびは恥ずかしさと申し訳なさで何も言えなかった。やっぱり、海なんて来るべきじゃなかったのだ。

みやびの頭のなかが後悔で埋め尽くされたとき、患部を確認するために水着のスカートをまくり上げた香里が悲鳴を上げた。

●みやびを襲った激痛の原因は…? 後編<!--td {border: 1px solid #cccccc;}br {mso-data-placement:same-cell;}-->クラゲに刺されアナフィラキシーで意識不明に…病室で不仲母娘の雪解けをかなえた「ずっと言えなかった言葉」】にて、詳細をお届けします。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

梅田 衛基/ライター/編集者

株式会社STSデジタル所属の編集者・ライター。マネー、グルメ、ファッション、ライフスタイルなど、ジャンルを問わない取材記事の執筆、小説編集などに従事している。

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