上向く日本景気を支えた個人消費の回復 その裏にある意外な調査方法とデータとの向き合い方
Finasee / 2024年8月22日 13時0分
Finasee(フィナシー)
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まず、GDPのデータを見てみましょう。2003年の第1四半期から6四半期分、つまり1年半のデータを持ってきました。最新の発表では、年率で3%を超えるGDP成長率が報告されました。それ以前の3四半期は、多少の修正はあったものの、上下動が激しく、欧米であれば景気後退と言われてもおかしくないほどの状況でした。
名目GDPを見ても、全く伸びておらず、伸びては止まる、という繰り返しでした。デフレータで引き算してみると、概ね2%から4%程度で推移しており、この期間、日本経済はインフレに覆われていたことがわかります。今回の3%という高い成長率は予想外でした。せいぜい1%弱程度だろうと予想していましたが、この急上昇の立役者となったのが、私たちが弱いと指摘し続けてきた個人消費の部分です。
家計最終消費を見ると、年率で4%程度増加しています。それまでの4四半期は全て低迷していたにもかかわらず、突然跳ね上がったのです。これだけを見ると、消費者が我慢に我慢を重ねた末に、ペントアップデマンド(抑制された需要)が爆発したかのような印象を受けます。
同時に、今回の家計消費の上昇は非常に不安定な上がり方をしているように感じます。上がった分が一気に反転する可能性もあります。
消費を分析する際には、需要サイド(実際にお金を払う消費者側)と供給サイド(お金を受け取る店舗側)の両方のデータを見る必要があります。これは家計調査というデータとGDPのデータそれぞれの消費支出を、2003年1月(GDPでは1-3月期)を100として、どのように推移してきたかを示しています。
家計調査で見ると、2人以上の世帯の消費が鈍化しているのがわかります。この家計調査ベースは世界的にも珍しく、消費者の行動を長年にわたって追跡している貴重なデータです。しかし、GDPの家計消費を算出するには、それだけでは不十分で、供給サイド(小売側)のデータも加味する必要があります。
GDPの家計消費算出の具体的な手順としては、(家計調査を代表とする)需要サイドと供給サイド(小売側)のデータを、時代によって誤差が最小になるようにウェイトを調整しながら、おおよそ半々の割合で合算しています。
このグラフを見ると、2人以上の世帯の家計簿データでは消費が落ち込んでいますが、総合的に判断すると、確かに傾向として落ちてはいるものの、急に上昇する場面も見られます。先ほど言及したペントアップデマンドや自動車販売の特殊要因がその理由かもしれません。
また、このデータには1人世帯が含まれていないことも考慮する必要があります。1人世帯は2人以上の世帯とは異なる消費動向を示している可能性があります。家計調査の対象は約9000世帯ですが、このような調査に参加したくない世帯もあるでしょう。また、2人以上の世帯のみを対象としているため、バイアスがかかっている可能性があることです。
つまり、家計調査の2人以上世帯ベースで見るよりも、実際のマクロの個人消費は良好である可能性があります。家計調査の利点は非常に安定的なデータが取れる一方で、そこに含まれない人々の消費は変動が大きい可能性があります。これが日本の個人消費の実態を正確に表しているかどうかは疑問なのです。
GDPは様々なデータを総合して、できる限り正確な数字を出そうとしています。その結果、このグラフのような姿になっています。実質家計消費の金額は290兆円まで回復しましたが、ピークは2014年の消費税増税直前の約305兆円でした。そこから見ると、なかなか伸びていない状況です。コロナ前の水準にさえ戻っていません。日本人の消費は、水準としてそれほど増えていないことが分かります。
一方、日本の場合、グラフの緑と青の線は景気先行指数とを示しています。これは貴重なデータで、ほぼ工業生産指数と一致し、日銀短観とも一致し、需要ギャップとも一致しています。また、内閣府の景気循環における景気の山谷とも一致しています。
例えば、2000年から2001年にかけてのITバブル崩壊時には、景気先行指数で見ると生産が大きく落ち込んでいますが、消費はほとんど影響を受けていません。東日本大震災の時は、生産はなんとか水準を保ちましたが、消費は大きく落ち込みました。消費税増税の時は、生産はあまり変わっていませんが、消費は大きく落ち込んでいます。逆に、消費税増税前には駆け込み需要で消費が膨らんでいます。
今回のインフレに対しても、消費が落ち込んだということは、これまでの議論でも触れたように、日本国民が消費を削ってでも貯蓄を守ろうとした結果だと考えられます。実際に家計の金融資産は既に2100兆円を超えています。
このように、日本の個人消費は景気循環とは異なる動きを示しており、増税や震災などのアクシデントに大きく影響を受ける傾向があります。一方で、日本経済は生産に過度に依存している面があります。
今後、日本経済がデフレ時代からインフレ時代に移行していく中で、我々はこの「不思議な個人消費」をどのように読み解いていけばよいのか、改めて考える必要があります。
日本の景気循環は、主に生産サイドの指標である景気先行指数をもとに判断されています。しかし、個人消費に関しては、いくつかの要因を考慮する必要があります。
家計調査ベースの2人以上世帯のデータとGDPベースの消費データの乖離について考えると、2人以上世帯以外の消費者(単身世帯など)が異なる消費トレンドを持っている可能性があります。これらの消費者の動向が、日本が本当にデフレから脱却し、正の循環に入れるかどうかの鍵を握っているかもしれません。
家計調査に回答できる人々は、比較的時間的余裕のある世帯が多いと考えられます。一方で、夫婦共働きの世帯は、このような詳細な調査に回答する時間がないでしょう。つまり、家計調査に含まれていない世帯が、GDPベースの消費データを押し上げている可能性があるのです。
これらの世帯の消費動向は、個々の企業データ、つまり供給側のデータから読み取るしかありません。ここで日本のデータの問題点が浮かび上がります。
アメリカでは、小売売上高と実際の個人消費の連動性が高いのですが、日本ではそうではありません。アメリカの場合、消費者の多くが大企業の店舗で買い物をする傾向が強いため、小売業の売上データが個人消費全体をよく反映しています。
一方、日本の場合は、商店街の小さな店舗など、供給側のデータに含まれにくい場所で買い物をする人々が多かったのです。そのため、日本の小売売上高と個人消費全体の動きに乖離が生じていると言われています。何万社、何十万社という小さな店舗のデータを全て集計するのは現実的ではないため、サンプリング調査に頼らざるを得ません。
しかし、近年の傾向として、大型小売店や無店舗販売(オンラインショッピングなど)の増加により、この乖離は少なくなってきていると考えられます。ただし、外食産業などでは依然として難しい面があります。
また、インバウンド(訪日外国人)消費の処理も課題の一つです。本来、日本国民の消費ではないため除外されるべきですが、実際にはその統計処理に限界があります。つまり、日本の個人消費データだけを見ても、日本の小売業の業績を正確に把握することは難しいのです。インバウンド消費の恩恵もあるため、小売業、特に百貨店などは変動要因が多いと言えます。
結論として、日本の実体経済を見る上で、消費データは下振れする要素がまだまだあります。無職世帯の増加などもその一因です。
このように、日本の家計消費に関する統計やデータは非常に複雑で、解釈が難しい面があります。統計調査の方法も、時代とともに変化させていく必要がありますが、一方で一貫性も保たなければなりません。
日本の消費動向を正確に把握し、投資に活かしていくためには、これらの複雑な要因を十分に考慮し、多角的な視点からデータを解釈していく必要があるでしょう。
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岡崎良介氏 金融ストラテジスト
1983年慶応義塾大学経済学部卒、伊藤忠商事に入社後、米国勤務を経て87年野村投信(現・野村アセットマネジメント)入社、ファンドマネジャーとなる。93年バンカーストラスト信託銀行(現・ドイチェ・アセット・マネジメント)入社、運用担当常務として年金・投信・ヘッジファンドなどの運用に長く携わる。2004年フィスコ・アセットマネジメント(現・PayPayアセットマネジメント)の設立に運用担当最高責任者(CIO)として参画。2012年、独立。2013年IFA法人GAIAの投資政策委員会メンバー就任、2021年ピクテ投信投資顧問(現・ピクテ・ジャパン)客員フェロー就任。
マーケット・アナライズ編集部
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