「今から手続きは間に合うのですか?」“もらい忘れた年金”があった60代女性に年金事務所の回答は…
Finasee / 2024年8月29日 18時0分
Finasee(フィナシー)
<前編のあらすじ>
68歳になる緑さんは、夫の秀平さん(65歳)と息子の健輔さん(36歳)と3人家族です。夫婦で洋食屋を経営して暮らしています。緑さんが年金について考え始めたのは60歳の時のこと。会社勤めの長い同級生の友人が60歳から年金を受け取れることを知り、うらやましく思ったことがきっかけでした。
そんな中、緑さんは繰上げ受給制度を知り興味を持ちます。夫の秀平さんは「年金を早く受け取ると、年金が減額されるぞ~」と慎重派でしたが、最終的には緑さんは61歳になった時に繰上げ受給することに決めました。
時が流れて、緑さんは68歳。年下の秀平さんも65歳になって年金を受け取れるようになりました。緑さんは「年金の振込先口座を変更したいな」と考えていたので、秀平さんと共に年金事務所へ一緒に行くことにします。
そこで職員からの話を聞く中で、「未請求の年金がありますね。受け取れる年金が他にありますよ」と想定外の事実が発覚。「受け取っていない年金があるってどういうこと……?」と緑さんは疑問を抱きます。
●前編:【「受け取っていない年金があるってどういうこと?」61歳で繰上げ受給を始めた女性。7年後に発覚したまさかの「もらい忘れ」】
65歳からの老齢厚生年金が未請求になっていた緑さんは、確かに年金を61歳で繰上げ受給しました。その際、繰上げ受給したのは老齢基礎年金でした。4年繰り上げたため、24%(0.5%×48カ月)減額されての受給となります。
しかし、65歳から過去5カ月の厚生年金加入記録に基づいた老齢厚生年金も受けられることになっていて、これが未請求となっているとのことです。緑さんは「だって、私は繰上げしたから年金はもう全部受け取っているんじゃないの?」と思いました。実は、緑さんの場合、老齢厚生年金については繰上げの対象になっていません。
年金の支給開始年齢は生年月日により異なります。緑さんも緑さんの同級生の友人も、生年月日からして60歳から年金が受け取れる世代の人となっていました。緑さんの友人は特別支給の老齢厚生年金(特老厚)を60歳から65歳まで受け取り、65歳から老齢基礎年金と老齢厚生年金を受け取っています。その友人は厚生年金に加入したことが1年以上あることから特老厚も受給でき、そのような受給のパターンとなっていました。
一方、緑さんは厚生年金の加入期間が5カ月、つまり1年未満でした。その場合は、特老厚がなく、65歳から老齢基礎年金と老齢厚生年金の受給となります。そのため、たとえ同世代でも2人の本来の年金の支給開始年齢が異なっていたことになります。
繰り上がったのは基礎年金のみそういった中で、緑さんは65歳前で年金が受け取れる友人がうらやましいからと、61歳で繰上げを選択したわけですが、この場合に繰上げとなるのは老齢基礎年金のみで、老齢厚生年金は同時には繰上げにならず、65歳からの支給となります。
そして、65歳になった際に、老齢厚生年金を請求していれば、65歳からその受給が始まりますが、緑さんは忙しさもあって、全く気が付かず、請求していませんでした。そのため、68歳でたまたま職員から未請求の年金があると言われたことになります。緑さんの5カ月分の老齢厚生年金は年間6000円と計算されました。
よく老齢厚生年金の繰上げをする場合は老齢基礎年金の繰上げも同時であると言われますが、今回の緑さんのケースではこれは当てはまらないことになります。
65歳にさかのぼるか、繰り下げるか「けど、私はもう68歳。今からその老齢厚生年金の手続きは間に合うのですか?」と職員に言います。
緑さんの疑問に対して職員は、この65歳からの老齢厚生年金について、「今から請求しても全額受け取ることができます。65歳開始として過去3年分(6000円×3年)受給し、今後も65歳開始の年金(年間6000円)を受け取ることができます」と回答しました。また、「この老齢厚生年金については、65歳開始ではなく、今あるいは将来繰下げ受給するか選ぶこともできます」との案内でした。
実は、この場合の未請求だった老齢厚生年金については繰上げとは逆に、受給の開始を遅らせる代わりに増額させる繰下げ受給(1カ月繰下げにつき0.7%増額)もできることになっています。現在の68歳から繰下げ受給を開始することも、引き続き繰下げ待機(受給を保留)したままで将来になってから繰下げ受給を開始することもできます(最大75歳まで繰下げ可能)。
緑さんは「へぇ~そんな複雑な制度なのね~」と少々難しく感じましたが、おおむね内容を理解しました。緑さんの考えとしては老齢基礎年金を繰上げするほどでしたので、老齢厚生年金は65歳開始でさかのぼって受給することになりました。「少ないけど老齢厚生年金が3年分さかのぼって、今後も年6000円の老齢厚生年金が老齢基礎年金に上乗せされるのね」と納得しました。
このように68歳の時に、請求していなかった年金に知ることができ、下手をすれば受け取り損ねたかもしれない年金を受け取れることになりました。緑さんと異なり、この老齢厚生年金を未請求のまま亡くなってしまうケースも実はあります。自分が受け取れる年金は何か、受け取れる年金の請求漏れはないか確認しておくことが大切でしょう。
※プライバシー保護のため、内容を一部脚色しています。
五十嵐 義典/ファイナンシャルプランナー
よこはまライフプランニング代表取締役、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP®認定者、特定社会保険労務士、日本年金学会会員、服部年金企画講師。専門分野は公的年金で、これまで5500件を超える年金相談業務を経験。また、年金事務担当者・社労士・FP向けの教育研修や、ウェブメディア・専門誌での記事執筆を行い、新聞、雑誌への取材協力も多数ある。横浜市を中心に首都圏で活動中。※2024年7月までは井内義典(いのうち よしのり)名義で活動。
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