「国の年金制度は破たんする」は大きな誤解! 若い世代はむしろ‟年金額が増える”かもしれない意外な理由
Finasee / 2024年9月2日 18時0分
Finasee(フィナシー)
国の年金財政検証結果が公表される
2024年7月、国の年金財政検証結果が公表されました。これは5年に1度、年金財政にかかるいろんな数値を洗い直して将来の年金制度の安定性をチェックするものです。人間でいえば5年に1度人間ドックを受けて健康診断をするようなものでしょうか。
前回より悪化しているところはないか、将来の不安要素がないか、今よりも健全化させるためにできることはないか、などチェックするわけですが、確かに人間ドックと似ています。
5年前、10年前は年金制度が不安視されており、ずいぶんメディアでも取り上げられたものですが、今回はずいぶんトーンダウンしているので、「そんなニュース見たかな?」という人も多いでしょう。
というのも「思ったより、年金制度は安定的」というのが今回の財政検証結果の数字であらわれているからです。
ニュースはしばしば「悪い情報は大きく取り上げるが、良い情報は小さくしか取り上げない」ということがありますが、年金制度のニュースがあまり大きくないということは、いいことなのかもしれません。
国のやることを疑ってだけいても幸せにはなれないワールドハピネスレポートという資料が毎年公表されます。世界幸福度調査などと言われ、日本はランキングがあまり高くないことが指摘されています。2024年版では51位と、G7諸国では最下位です(東南アジアでは上位ですが)。
この調査、6つの分野で調査をしランキングを決めるのですが、国への信任が日本はあまり高くないことが総合ランキングで上位に来ない理由の1つとなっています。
国のやることをしっかり監督し、不正や誤りを正していくことは大切なことですが、むやみに疑い、危ぶみ、実際以上に悪く評価していては行きすぎです。
例えば、日本の水道網が安価で安心の持てるインフラであることは世界的にも特筆するべきことです。時間が正確で、全国に移動できる交通インフラの充実も日本の良さです。
警察がしっかりしており、また国民の犯罪意識が低いことで、夜に1人で外出しても安全であることには、インバウンドで海外から来た観光客はみな驚き、感心しています。
国際的な調査ではよく、「日本は政府への信頼度が低い国」と言われていますが、「日本の当たり前のいいところ」はもっと積極的に評価し、ポジティブに受け入れてみたいところです。そうしたらもっと、ウェルビーイングの高い生活ができるかもしれません。
年金制度は少し減るが、つぶれはしない。でも一生もらい続けることができる国の年金制度に話を戻します。あなたも、もしかしたら「どうせもらえないんだろう」「つぶれるんじゃないの?」「たいした年金額ではないのだろう」というイメージを持っているかもしれません。
しかしこれは間違いです。今回の財政検証結果でも、破たんの可能性はほとんどないことが明らかになっています。給付水準の引き下げも、前回試算と比べて軽いものになる結果となっているほどです
昔、破たんすると声高に言っていた有識者やメディアの言っていたことの多くが、今では間違いだったと明らかになっています。例えば年金積立金が枯渇するという予言がありましたが、むしろ大きく資産を増やしており、200兆円をはるかに超える資産を持つ国は世界にアメリカくらいしかありません。
ただし、年金水準を少し抑えていく計画はあります。そうすれば収支のバランスが整うので破たんも絶対にありえません。そしてこの政策、すべての世代が対象なので、若い世代だけ減らされるわけではありません。さらに、減り具合もこのままいけば当初見込みより抑えられる可能性が出てきています。
そうすると、年金は「少しは減る」が「つぶれない」とまずは考えてみたいところです。
金額はどれくらいか、というとモデルの夫婦で月23万円くらいです(会社員と専業主婦モデルなので、夫婦ともに会社員であれば年金額はもっと増える可能性がある)。これは日常生活費をほぼやりくりできる水準となっていることが調査でも示されています。旅行などのぜいたくをしなければ困らないくらいの金額はちゃんと出るというわけです。
さて、この年金、長生きする限り何十年でも保障し続けてくれる約束となっています。自分の老後は何歳まで長生きできるか神様しか分からないことですが、30年でも40年でも国の年金は元気な限り支給し続けてくれます。納めた保険料の総額より多くなってもいいのです。働けなくなる老後生活を考えてみると、これほど助かる定期収入源はありません。
実際、あなたの両親や祖父母、親戚の高齢者の多くは、年金をもらって日々の生活をやりくりしているのではないでしょうか。「もうちょっと多ければね」とみな言うかもしれませんが、親戚がみな老後破産した、ということはないはずです。
国の年金制度を悪いものだとばかり考えているより、「まあ悪くないんじゃない?」「国もやることはやってくれるでしょう」と考えてみてはどうでしょうか。そのほうが、疑ってかかるよりあなたのウェルビーイングの実感をプラスにしてくれるように思います。
まとめ:自分の年金額は自分で作っていく時代へ調査によれば、私たちに政府や制度への信頼がある程度あれば、保険料の負担も受け入れられる傾向があるそうです。
※参考:NIRA総合研究開発機構「NIRAワーキングペーパーNo.7 受益と負担をめぐる世代間の分断と政府への信頼」(2024年5月1日発行、竹中勇貴)(外部サイト)
例えば健康保険料については制度への理解や信頼が比較的高いので、保険料を払うことも納得する傾向があります。しかし年金制度については実際にもらう時期が遠い未来なので、理解や信頼が低く、負担に納得感が出にくいようです。
そうなると、年金制度についてはほどよく理解し、負担についての納得感を持つことがウェルビーイング的にも重要です。「負担だけさせられて、たいしてもらえない」と感じるのではなく、先ほど述べたように「破たんしないし、長生きする限りずっともらえるところがいい仕組み」とまず考えてみるのです。
確かに毎月の負担は大きなものですが、それは将来の年金額にも反映されていきます。実は、若い世代のほうがむしろ年金水準が高くなる可能性が、今回の年金財政検証結果で示されているのです。
「若い世代は年金が大きく減る」と思っていた人にとっては意外な話だと思いますが、厚生年金に加入する期間が長くなる影響で、男女ともに年金額が増える傾向があります。特に働き続ける女性が増えていく効果は大きく、若い女性の将来の年金水準は今の年金暮らしの女性の平均を大幅に上回るのです。
「本当に?」と思う人は「ねんきん定期便+公的年金シミュレーター」で自分の未来の年金額を試算してみてください。これから先も働き続ける人の年金額は相当アップすることが分かるはずです(ねんきん定期便だけ読むと「20歳から今まで」の保険料分の年金額しか表示されません。未来の保険料を考慮した公的年金シミュレーターのほうが実際の年金額に近くなります)。
「老後は真っ暗闇と思っていたけど、案外大丈夫かも!」と思えれば、これは日々の生活もちょっと楽しくなってきます。少なくとも未来に不安ばかりイメージしているよりぐっといいはず。
年金制度の理解とファイナンシャル・ウェルビーイング、実はたくさん接点があるのです。
山崎 俊輔/ファイナンシャルプランナー
1972年生まれ。フィナンシャル・ウィズダム代表。1995年中央大学法学部法律学科卒業後、企業年金研究所、FP総研を経て独立。確定拠出年金を中心とした企業年金制度と投資教育が専門。著書『普通の会社員でもできる 日本版FIRE超入門』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『共働き夫婦 お金の教科書』(プレジデント社)、『ファイナンシャル・ウェルビーイング』(青春出版社)など多数。
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