「自分は大丈夫だろう」は通じない…誰にでも潜む身寄りない「ひとり老後」リスク
Finasee / 2024年9月3日 17時0分
Finasee(フィナシー)
現在、亡くなった人の15人に1人が身寄りがなく、行政機関に火葬されるといわれています。
核家族化やライフスタイルの多様化の影響もあり、家族で支え合うのが難しい時代です。たとえ、結婚し、子どもがいたとしても、一方と死別したり、子どもと疎遠であれば、いつ誰にも頼れない状況に置かれるかはわかりません。ひとりで老後を迎えると、住居の確保、介護や入院の手続き、お墓、そして遺産はどうなるのでしょうか?
「ひとり老後」を巡る課題やトラブルは日に日に関心が高まっています。そんななか、長年、この問題を研究してきた日本総合研究所シニアスペシャリストの沢村香苗氏の新刊『老後ひとり難民』が話題となっています。今回は特別に本書より、ひとり老後に陥ってしまうリスク、病院や自治体などの現場が直面する課題などをお届けします。(全4回の1回目)
※本稿は、沢村香苗著『老後ひとり難民』(幻冬舎)の一部を抜粋・再編集したものです。
普通に暮らす高齢者がある日、突然「老後ひとり難民」になる高齢者を支える公的制度の中心である介護保険は、すべての人におとずれる「心身の機能の衰え」に対応するための大きな役割を果たしています。しかし、「介護保険があれば安心」というわけでもありません。
多くの人が自分事として心配しているのは、おそらく「認知症になったらどうしよう」ということではないでしょうか。また、イメージしやすい老後の問題として、「老後資金が枯渇したらどうしよう」という心配もありそうです。
では、認知症のリスクが低く、お金の心配もないという人であれば、安心といえるでしょうか。
ひとり暮らしであっても自立した生活ができており、「現時点ではお金には困っていない」という高齢者の方もいると思いますが、実はそのような人の生活にもさまざまなリスクが隠れています。
自分が「老後ひとり難民」になっていることに気づかされるのは、転んでケガをして動けなくなったり、病気で急に倒れたりして、病院に運ばれたときです。入院する際、身元保証人になってくれる人がいないと、受け入れてもらえる病院が見つかるまで、たらい回しにされるケースもあります。
入院できたとして、家にある入れ歯や着慣れたパジャマを持ってきてくれる人はいるでしょうか。コンビニで払っている携帯電話料金は、誰が払いに行くのでしょうか。
「甘いものが食べたい」と思ったとき、買ってきてくれる人はいるでしょうか。治療費や入院費の支払いはどうすればいいでしょうか。親族のなかにそれらの対応をしてくれる人がいそうだと思っていても、倒れたときに意識を失うなどして意思表示できる状態になかったら、親族には誰がどのように連絡してくれるのでしょうか。
昔であれば、病院などが電話帳を調べて連絡できるケースも少なからずありましたが、近年では携帯電話の普及によって家に固定電話を置く人が減り、電話帳では調べられないケースが大半です。
本人の意識がない場合、「半年や1年に一度くらいは連絡を取り合う」という程度のつき合いの親族がいたとしても、スムーズに連絡がつかない可能性は高いはずです。無事に退院できることになったとして、今までのように身体の自由がきかなくなっていたら、その後の生活はどうなるのでしょうか。
階段や段差が多い家に住んでいたりすれば、転居を考える必要が生じるかもしれません。また残念ながら、入院しても亡くなってしまう場合もあるでしょう。そのとき死亡届を出したり火葬の手続きをしたりしてくれる人はいるでしょうか。
仮にいるとして、病院などから、確実に〝その人〞に連絡はつくのでしょうか。住んでいた家や財産は誰がどのように処分することになるのでしょうか。近年、高齢のひとり暮らしの方が、本人が想定していなかったであろう最期を迎えたケースがニュースでよく取り上げられています。
無縁仏として埋葬され、遺骨は取り出せない例として、2024年3月、朝日新聞デジタルでは「身寄りなき最期と向きあう」というテーマで複数のケースを取り上げました。たとえばボランティアで街路樹の剪定中に脳梗塞を発症し、高所から転落、右半身不随となった70代の独居男性の場合、男性には複数の兄弟がいたものの、支援を頼める人はいなかったといいます。
1200万円の預金を持っていたにもかかわらず、意思疎通ができないため市や病院がそのお金を使うことは難しく、結局、市の判断で生活保護を適用して医療費などを支払ったそうです。
同じ連載で私が取材に応じた記事では、80代の独居男性が買い物帰りに倒れ、心肺停止状態で発見されたケースが紹介されました。男性は病院に搬送後、意識が戻らず、数日後に亡くなりました。
婚姻歴はなく子どももおらず、いとこは関わりを拒否。海外に住む姪とは連絡がついたものの、火葬や納骨は市に一任されました。火葬の際には親族や知人の姿はなく、遺骨は一時的に市の職員が預かり、数カ月後に一時帰国した姪が同意書に署名した後、やっと納骨にこぎつけたそうです。
また2024年4月、NHKでは、元大学教授でひとり暮らしの高齢男性が自宅で倒れて亡くなった際、親族に連絡が取れなかったため自治体が火葬したのちに、無縁仏として埋葬し、数カ月後に車で10分ほどの近隣に住む弟夫婦がそのことを知った際には、遺骨を取り出すことさえできなくなっていたというケースも報道されました。
2024年6月10日放送のNHK「クローズアップ現代」によると、その高齢男性が亡くなる5日前にも、弟は会っていたとのことで、弟夫婦は自分たちへの連絡なしに火葬し埋葬した経緯について、京都市に説明を求めました。
京都市では葬儀を行う人がすぐにわからない場合、戸籍を調べて親族を探すようにしているとのことです。火葬をする前にその高齢男性の戸籍を調べたそうですが、載っていたのは亡くなった両親だけで、弟は結婚して別の戸籍となっていたため、名前はありませんでした。
弟の存在は古い戸籍には記載がありましたが、調査には時間がかかることもあり、京都市はそこまで行っていませんでした。実際、身寄りのない人が亡くなった場合の取り扱いについて、国の統一ルールがないため、判断は各自治体に任されており、対応がバラバラになっているのです。
高齢夫婦2人暮らしというケースも含め、日常的な他者との関わりが少ない高齢者の周りには、さまざまなリスクが潜んでいます。自分は大丈夫だろうと思っている人のなかにも、「老後ひとり難民」化するケースがたくさんあるはずです。
●第2回は【“身寄りのない人”の火葬や合祀は「自治体によって異なる」実態…遺体が3年超保管されたケースも】です(9月4日に配信予定)。
老後ひとり難民著書 沢村香苗
出版社 幻冬舎
定価 990円(税込)
沢村 香苗/日本総合研究所 シニアスペシャリスト
東京大学文学部卒業。同大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻博士課程単位取得済み退学。研究機関勤務を経て、2014年に株式会社日本総合研究所に入社。研究・専門分野は高齢者心理学、消費者行動論で、「高齢者の身元保証人、身元保証等高齢者サポート事業に関する調査研究」など実績多数。著書に『自治体・地域で出来る!シニアのデジタル化が拓く豊かな未来』(学陽書房)。
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