正解のない「老後ひとり難民」対策…リスクを減らすための準備を進めておきたい終活8項目とは?
Finasee / 2024年9月9日 17時0分
Finasee(フィナシー)
現在、亡くなった人の15人に1人が身寄りがなく、行政機関に火葬されるといわれています。
核家族化やライフスタイルの多様化の影響もあり、家族で支え合うのが難しい時代です。たとえ、結婚し、子どもがいたとしても、一方と死別したり、子どもと疎遠であれば、いつ誰にも頼れない状況に置かれるかはわかりません。ひとりで老後を迎えると、住居の確保、介護や入院の手続き、お墓、そして遺産はどうなるのでしょうか?
「ひとり老後」を巡る課題やトラブルは日に日に関心が高まっています。そんななか、長年、この問題を研究してきた日本総合研究所シニアスペシャリストの沢村香苗氏の新刊『老後ひとり難民』が話題となっています。今回は特別に本書より、ひとり老後に陥ってしまうリスク、病院や自治体などの現場が直面する課題などをお届けします。(全4回の4回目)
●第3回:相続人不在の財産は年800億円。一大マーケットとなった “遺贈ビジネス”の功罪
※本稿は、沢村香苗著『老後ひとり難民』(幻冬舎)の一部を抜粋・再編集したものです。
終活のポイントを整理し、一つずつ取り組む高齢期に家族の助けが得られない「老後ひとり難民」は社会問題になりつつあります。そして、心身の衰えにともなう生活上のトラブルから死後の対応まで、その問題は多様で複雑です。
たとえば金銭管理については「支払い手続きができない」「詐欺にあってしまう」、財産管理や住居については「維持管理ができない」「転居の手続きや作業ができない」、医療や介護については「支払い手続きができない」「意思決定が困難」、死後事務については「火葬や納骨をする人がいない」などのさまざまな問題があります。
これらの問題については、一部は自治体が対応する部分もありますが、多くはケアマネジャーや医療ソーシャルワーカー、成年後見人などが担っており、「職務範囲外のボランティア的支援」によって支えられている部分もかなり多いといえます。
「身元保証等高齢者サポート事業者」のなかには、契約した顧客に対して横断的なサービスをうたうところもありますが、このようなサービスは価格的に安くはないため、誰でも利用できるわけではありませんし、事業者によりサービスの内容も異なります。
いずれにしても、課題把握と課題に対する支援が〝パッチワーク状態〟になっていることは否めません。
「老後ひとり難民」が抱える問題は、一つ一つ対応する官庁が異なりますし、ひとくちに「老後ひとり難民」といっても、認知機能や資産額の違いによって「必要なこと」や「対応可能なこと」も異なるため、「社会共通の問題」として全体像が認識されづらいという特徴もあります。
このような事情から、多くの問題は解決には至っていないのです。現在のところ、残念ながら「これさえやっておけばいい」という理想的な解決策はありません。
〝大炎上〞を防ぐ「終活の3大ポイント」「老後ひとり難民リスク」が高い方や、自分の親など身のまわりにリスクが高い方がいる場合は、さまざまな公的機関や専門職、民間事業者のサポートの活用を検討しながら、現段階では個人で「終活」を進めていく必要があります。私がこれまでの調査研究を踏まえて定義した終活分野は、次の8項目です。
(ア)日常生活に必要なこと(運転、掃除、買い物、食事の用意など)
(イ)入院時の保証人・医師の説明の同席・つき添い
(ウ)入院費、家賃、その他のお金の支払いの手続き
(エ)介護保険サービス選びや契約の手続き
(オ)延命治療に関する考えを医師などに伝えること
(カ)亡くなったあとの葬儀やお墓の手配
(キ)亡くなったあとのペットの世話(譲渡するなども含む)
(ク)亡くなったあとの財産の配分や家財の処分
これらについて、日本総研が50〜84歳の方約2500人を対象に準備状況を調査したデータが以下の図表です。
8項目について「具体的に頼んである」「おおまかに頼んである」「依頼はまだだが頼む相手は決めている」「頼む相手がいない・決めていない」のいずれかを選択してもらった結果ですが、「依頼はまだだが頼む相手は決めている」という回答が4割ほどを占める項目が多く、またすべての項目で「頼む相手がいない・決めていない」という回答が2〜4割ほどという状況であることもわかります。
同調査では、「自分の病気や要介護・死亡時に周囲の人が手続きできるよう備えたい」かどうか、「備える場合に難しい点」は何かについても尋ねています。調査結果からは、9割を超える人が「備えたい」と思っている一方で、そのタイミングや、すべきことがわからないと感じていることがうかがえます。
では、この8つの項目に関しては、いつどのように準備していくべきなのでしょうか? 先ほどお伝えしたように、「ここに頼めば安心」「これだけやれば絶対大丈夫」という解決策は、残念ながらありません。
また、従来であれば家族が個別に解決してきた分野であるため、「老後ひとり難民」の場合、何が必要で何をすべきかが明確に定まっているわけでもありません。
それでも、できる分野から準備を進めていくことが大切です。具体的には、次の「終活の3大ポイント」を行っておけば、少なくとも問題が〝大炎上〞してしまうことは防げるのではないかと思います。
①自分に関する情報を整理する
自分の代わりに動いてくれる人の連絡先(電話番号)、延命治療に関する希望、お墓などの納骨場所、関連する契約(死後事務委任契約や任意後見契約)、遺言書などを整理しておく。
②契約・依頼を明確にする
①で整理した情報について、自分の代わりに動いてくれそうな人に、どんなときに何をしてほしいか、あらかじめ依頼をしておく。必要な場合は、「代わりに動いてくれそうな人」や専門家(弁護士、司法業者」などと契約を結んでおく。
③自分がいなくても情報が伝わるようにしておく
①と②について、たとえ自分の意識がなかったり死亡したりしたとしても、情報が周りに伝わるようにしておく。
老後ひとり難民著書 沢村香苗
出版社 幻冬舎
定価 990円(税込)
沢村 香苗/日本総合研究所 シニアスペシャリスト
東京大学文学部卒業。同大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻博士課程単位取得済み退学。研究機関勤務を経て、2014年に株式会社日本総合研究所に入社。研究・専門分野は高齢者心理学、消費者行動論で、「高齢者の身元保証人、身元保証等高齢者サポート事業に関する調査研究」など実績多数。著書に『自治体・地域で出来る!シニアのデジタル化が拓く豊かな未来』(学陽書房)。
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