「増税メガネ」とやゆされていたが…岸田文雄政権が資産形成や家計に残したといえる「これだけの功績」
Finasee / 2024年8月27日 18時0分
Finasee(フィナシー)
岸田首相、自民総裁選に不出馬
岸田首相が次期総裁選への出馬を辞退しました。現在、自民党総裁選に向けて、候補者が手を挙げている最中ですが、3年間続いた岸田内閣の功績はどうだったのでしょうか。フィナシー的な視点から考えた時、第一次岸田内閣が誕生した2021年10月4日から現在(2024年8月26日)に至るまでに、岸田内閣が打ち出してきた政策が、私たちの経済的メリットを大きくしてくれるものだったのかどうかについて、考えてみましょう。
岸田内閣が打ち出してきた政策のなかで、フィナシー的に最も関心が高いのは、やはり「資産所得倍増プランの推進」でしょう。首相官邸のサイトによると、
「家計における貯蓄から投資へのシフトを促進しつつ、中間層を中心に安定的な資産形成の実現を目指します。長期的には、資産運用収入の倍増も見据えて取り組みます。具体的には、口座開設期間の恒久化・非課税の年間投資枠の引き上げ、非課税保有期間の無期限化などNISAの抜本的拡充・恒久化を行います」。
とあります。
これは「新しい資本主義」という、岸田内閣の主要政策のひとつに含まれている一項目です。新しい資本主義には、「構造的賃上げの実現 分厚い中間層の形成」、「国内投資の活性化」、「デジタル社会への移行」という3つの大項目があり、そのひとつである「構造的賃上げの実現 分厚い中間層の形成」の項目に、資産所得倍増プランが含まれています。
資産所得倍増プランの成果については後述しますが、それ以前に重要なのは、「資産所得倍増プランの推進」と共に、「構造的賃上げの実現 分厚い中間層の形成」に含まれている「家計所得の増大」です。
「新しい資本主義」で分厚くしたいと狙った、“中間層”にまつわる実態かつて日本は「1億総中流社会」などと言われてきました。そもそも中流の定義自体が明確ではありませんが、いくつかの調査結果を見ても、「中流」と言われてきた人たちが、減少傾向をたどっているのが分かります。
まず国民生活基礎調査による世帯所得の中央値は、1991年が521万円でしたが、2023年には405万円まで低下しました。
また独立行政法人労働政策研究・研修機構が2023年4月に出したディスカッションペーパー「縮む日本の中間層:『国民生活基礎調査』を用いた中間所得層に関する分析」では、中間層の割合が1985年の63.9%に対して、2018年は58.1%まで低下していることが挙げられています。ちなみに高所得層は7.4%から10.3%に、貧困層は11.9%から15.4%に増加しています。
加えて、1980年代中頃から2010年代中頃にかけての中間層の割合の変化を見ると、世界的にも日本の中間層の減少割合が高くなっているのが分かります。具体的な数字を挙げると、
米国・・・・・・▲4.3%
イギリス・・・・・・▲0.3%
ドイツ・・・・・・▲5.0%
フランス・・・・・・3.2%
日本・・・・・・▲6.5%
という具合です。他の先進国で中間層の割合が減少しているのに対し、なぜフランスだけが3.2%も伸びているのか、その理由は分かりませんが、1980年中頃から2010年中頃にかけての約30年間で、日本が他の国に比べて、大きく中間層を減らしてきたことが確認できます。
民主主義が成立する要件のひとつに、「中間層の比率が高い」点が含まれます。逆に言えば、貧富の差が拡大すると権威主義・独裁主義に陥りやすいことになります。したがって、岸田政権の主要政策である「新しい資本主義」は、賃上げによって中間層を復活させ、民主主義を維持することに大義があったと考えることができます。
賃上げ⇔投資の好循環、その“萌芽”はあるかもしれないでは、その賃上げは実現したのでしょうか。
所得分布の中央値を見ると、岸田内閣が成立した2021年当時が440万円で、その翌年である2022年が423万円、前述したように2023年が405万円ですから、なかなか厳しいものがありますが、徐々に賃上げの動きが浸透してきているのも事実です。連合の最終集計によると、2024年の春闘について5284社の平均の賃上げ率は5.1%になり、1991年以来33年ぶりに5%を超えました。
またファーストリテイリングのように、初任給として30万円を打ち出してくる企業も出てきました。岸田政権が打ち出した「構造的賃上げ」が、こうした賃上げにつながったのかどうかは定かでありませんが、少なくとも「賃上げが必要」という認識を広めたという点において、岸田政権は評価できると思います。
加えて家計所得を増大させるためには、NISAの制度見直しを含む「資産所得倍増プラン」がブースターになってきます。賃上げで所得が増え、その余剰分を資産運用に回して増やし、さらに家計所得を増大させる。この好循環に持っていくための制度設計は、NISAの制度見直しを実現したという点で、これも岸田政権のお手柄といってもよいでしょう。
ただ、いくら制度設計ができたとはいえ、この好循環を維持していくためには、持続的な賃上げの実現が必要不可欠です。所得が減少の一途をたどるなかで資産形成をするには、限度があるからです。
たとえば手取り30万円の月収から、3万円をなんとか捻出して、NISAのつみたて投資枠で資産形成をしていたのに、その月収が3万円減額されたら、資産形成などと悠長なことは、言っていられなくなります。
6月にはようやく実質賃金がプラスに転じましたが、最低でもインフレ率を上回る賃金上昇を維持できるかどうかは、企業の収益力次第ですし、人口が減少していくなかで日本企業が収益力を高めるためには、社員一人一人の努力に加え、生産力を向上させることも必要です。そして、新しい資本主義の他の構成要素である「国内投資の活性化」や「デジタル社会への移行」は、日本企業の競争力を維持するために生産性を向上させることを目的とした施策と言ってもよいでしょう。
岸田内閣が地ならしした「新しい資本主義」が“本物”になるかどうかは国民次第さまざまな原因で支持率が低空飛行を続けた岸田内閣ですが、「新しい資本主義」という主要政策の実現に必要な「構造的賃上げの実現 分厚い中間層の形成」、「国内投資の活性化」、「デジタル社会への移行」という三本柱を、将来的にわたって推進するための“地ならし”はできたと思います。
ここから先、持続的な賃上げは企業努力によりますし、資産形成を続けるかどうかは個々人次第です。また、国内投資の活性化やデジタル社会への移行には、民間の知恵が求められます。
「新しい資本主義」は決して筋の悪いものではありません。日本経済が少なくとも現状を維持していくうえで必要なことばかりです。そして、これらを進化(深化)できるかどうは、結局のところ私たち国民の意思にかかっているといえます。
鈴木 雅光/金融ジャーナリスト
有限会社JOYnt代表。1989年、岡三証券に入社後、公社債新聞社の記者に転じ、投資信託業界を中心に取材。1992年に金融データシステムに入社。投資信託のデータベースを駆使し、マネー雑誌などで執筆活動を展開。2004年に独立。出版プロデュースを中心に、映像コンテンツや音声コンテンツの制作に関わる。
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