「『ペアローン』や『50年ローン』を組めば23区内のマンションを買えるかも」の考えはキケン…? 知らないと損する“注意点”は
Finasee / 2024年8月28日 20時0分
Finasee(フィナシー)
「家賃並みの返済額で大丈夫ですよ」という言葉に要注意
「住宅ローン」というと、ここ最近では日本銀行が金融政策のスタンスを変更したことによって、「いよいよ変動金利型住宅ローンの金利が上昇するのではないか」という話題で盛り上がっています。
日銀による無担保コール翌日物の誘導目標引き上げは、銀行が優良企業向けの短期融資に適用する短期プライムレートの上昇を促し、さらに短期プライムレートを参考にして適用金利を見直している変動金利型住宅ローンの融資利率に影響を及ぼします。
しかも、変動金利型住宅ローンの場合、これから新規で借り入れる人向けの融資利率だけでなく、現在、変動金利型で住宅ローンを借り入れている人の融資利率にも影響を及ぼします。
とはいえ、金利は上がったり、下がったりを繰り返すので、今のような金利上昇局面に差し掛かったところで、必要以上に「住宅ローンの返済負担が重くなる、大変だ」などと大慌てする必要はありません。
これからしばらく、金利上昇によって返済負担が重くなったとしても、時間が経って金利が低下に向かえば、逆に返済負担は軽くなります。長期の返済期間中、金利は上下を繰り返すため、結果的に金利は中立要因だと考えても良いでしょう。
ただ、唯一の懸念は、これまで変動金利型住宅ローンの融資利率が低かったことで、分不相応なローンを組んでしまっているケースです。
たとえば「変動金利で融資利率は実質年0.33%。月々、家賃並みの返済額でマンションが買えます」という、不動産会社の営業担当者が言った言葉を真に受けて、「確かに、月12万円の家賃を払い続けても自分のものになるわけではないし、同じ月12万円のローンなら、思い切ってマンションを買ってしまおう」という思考が一番危険だと思います。
もちろん、月12万円をローンで払ってもまだ月々の収入に余裕があれば多少、金利が上昇したとしても、あまり問題にはなりません。
でも、月収が手取り25万円で、その半分を住宅ローンの返済に充てている状態だと、どうでしょうか。
たとえば年0.33%の融資利率で3000万円を借り入れ、20年で返済する場合、月々の返済額は12万9187円ですが、仮に今後、日銀が政策金利を複数回にわたって引き上げ、住宅ローン金利が1%程度上昇すると、毎月の返済額は14万2430円になります。結構、厳しいと思いませんか。
住宅ローンの返済シミュレーションを、変動金利型で行うのは、固定金利型に比べてはるかに融資利率が低いからです。低い融資利率をベースにして返済事例を示せば、それを見た人たちは「ひょっとしたら自分でもマンションを買えるのではないか」という気持ちにさせられます。
そして当然のことですが、そのシミュレーションには、今後の金利上昇による影響は加味されていません。大事なのは、マンション購入の契約書に印鑑を押させることですし、そもそも今後の金利動向を読むことは難しいので、説明すらしないのです。
このように、「ひょっとしたら自分でもマンションを買えるのではないか」という気持ちにさせるための住宅ローンのワナは、変動金利型住宅ローンだけではありません。「ペアローン」や「返済期間50年の住宅ローン」も、そのひとつです。
東京23区の分譲マンションはもはや「億ション」になっているマンションでも戸建てでも、家を買うには相応に大きな資金を動かす必要があります。自己資金で足りなければ、ローンを組みます。特に昨今のように、マンション価格が値上がりしている時はなおのことです。
不動産経済研究所が公表している7月の新築マンション市場動向によると、東京23区の平均価格は、前年同月比で18.5%下がったといっても、1億874万円です。ちなみに2016年時点では6629万円でしたから、都心の新築物件がいかに値上がりしているかが、分かります。
もちろん需要があるから物件価格が上昇するわけですが、あまりにも物件価格が値上がりし過ぎると、別の問題が生じてきます。それは「高すぎて買えない問題」です。買い手がいなくなってしまったら、マンションを建て、それを販売して売上、利益を生み出しているマンションデベロッパーにとっては死活問題です。
また、大きなマンションを一棟建てるには、鉄やガラス、コンクリなどさまざまな材料が必要ですし、完成すれば家具、家電などさまざまな必需品に対する需要も生じてきます。マンションや戸建ては非常に裾野の広い業種なので、それだけ大きな経済波及効果をもたらします。マンションなどの売れ行きが鈍れば、こうした経済波及効果をも縮小させてしまうおそれがあるのです。
マンションデベロッパー、マンション建設に必要な原材料をつくる会社、家具や家電のメーカー、それらの販売店、さらには住宅ローンを提供する金融機関などが属する、言うなれば「マンション経済圏」を維持するためには、より多くの人にマンションを購入してもらわなければなりません。
そして、一人でも多くの人が、これだけマンション価格が高騰しているなかでも、「ひょっとしたら自分でも買えるのではないか」という気持ちにさせるための装置として考えられたのが、「ペアローン」であり「返済期間50年の住宅ローン」と言えるのかも知れません。
「ペアローン」や「50年ローン」に潜む危険性ペアローンは同居人2人の収入を別々に審査し、それぞれが債務者であるのと同時に、お互いが連帯保証人になって組む住宅ローンです。ペアの概念は、夫婦でも同性パートナーでも、あるいは親子でも良いのですが、それぞれに安定した収入があれば、通常の住宅ローンに比べて、より大きい金額の融資を引き出せます。
また返済期間50年の住宅ローンは、文字通り最長の返済期間を50年に設定できます。従来は35年が最長でしたが、それを15年も伸ばしたことで、月々の返済金額が抑えられるため、月々の返済金額だけを見れば、何となく返済できそうな気分になるのがミソです。
ただ、メリットばかりではありません。高額物件でも購入できる可能性が高まるペアローンですが、夫婦で組んでいた場合、離婚という事態になると、自宅を売却するか、もしくはいずれか一方が住み続ける代わりに、残債を引き受けることになります。特に後者の場合、一人で残債を引き受けられるだけの金額かどうかを、熟考する必要があるでしょう。やたら高額物件を買っていた場合などは、返済負担がかなり重くなる恐れがあります。
また返済期間50年の住宅ローンも、融資可能額が増えるというメリットはあるものの、返済期間が長期化する分だけ金利負担が重くなるというデメリットがありますし、そもそも50年という長期間のローンを背負うことが、QOLの観点から正しいのかどうかという点は、しっかり考えるべきでしょう。
何しろ30歳でローンを組んだとしても、それを払い終わる時にはすでに自身は80歳で、手元には築50年のボロ家が残るだけなのです。資産価値が下がらないヴィンテージマンションを購入するなら話は別ですが、ごく一般的なマンションを購入するのに50年もの住宅ローンを組んだりすれば、ローンを完済する時のマンションの資産価値は、ほぼゼロに等しくなっているかもしれません。
鈴木 雅光/金融ジャーナリスト
有限会社JOYnt代表。1989年、岡三証券に入社後、公社債新聞社の記者に転じ、投資信託業界を中心に取材。1992年に金融データシステムに入社。投資信託のデータベースを駆使し、マネー雑誌などで執筆活動を展開。2004年に独立。出版プロデュースを中心に、映像コンテンツや音声コンテンツの制作に関わる。
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