「築4年なのに…」台風の被害で30万、住宅を早期劣化させる「酷暑の恐怖」とは
Finasee / 2024年9月6日 18時0分
Finasee(フィナシー)
<前編のあらすじ>
専業主婦の美律子(40歳)の生きがいは、4年前こだわりにこだわって建てたマイホームを美しく保つことだ。ホテル風のインテリアはもちろん、玄関先のガーデニングにまで余念がない。息子たちや夫も美律子が家をクオリティー高く保っていることをうれしく思っている。
今年は猛暑で、家のなかだというのに暑い。専業主婦としてずっと家にいる美律子は、普段よりもクーラーの温度を下げて過ごしていた。
大型台風の直撃への注意が連日ニュースで流れていたある日、美律子は家の壁にコケが生えているのを発見する。外壁周りを徹底的に掃除した美律子は、家の壁に細かいひび割れが入っていることに気づく。
●前編:「外壁にヒビが」台風前の不安…専業主婦の生きがいを奪った「まさかの原因」
まさかの欠陥住宅⁉美律子は掃除用のバケツとブラシを持ったまま、家の壁にできたひび割れをじっと見つめていた。ピクリとも動かず壁を凝視している美津子の様子は、はたから見れば不思議だっただろうが、胸が締め付けられるような不安感に襲われ、その場から動けなかったのだ。
もしかして傷のように見えるだけで、これもただの汚れなのではと思い、試しに指でなぞってみたが、感触からして間違いなくひび割れのようだ。
――大切な自宅が傷ついている。
ようやくその事実に思い至ると、心の中で徐々に小さなパニックが広がっていった。美津子は壁とにらめっこしながら、混乱する頭で1人もんもんと考え込んでいた。
こだわりのマイホームを建てるにあたって、美津子は使用する建築資材の種類や特徴に至るまで徹底的に調べ上げていた。通常、外壁塗装の耐久年数は7~10年のはず。新築からたった4年で、ここまで劣化することがあるだろうか。
この家に住むようになってから、美津子たちの地域で目立った自然災害はなかった。大きな衝撃も受けていないのに、壁にヒビが入るなんて絶対におかしい。手抜き工事を疑った美津子は、すぐさま業者に問い合わせた。
「そちらで建てていただいた家の壁にひび割れができてるんです。まだ新築4年目なのに、ですよ? 一体どうなってるんですか?」
「ご心配をおかけして大変申し訳ございません。当社で点検の手配をさせていただきます」
担当者は終始丁寧な対応で謝罪をしてくれたが、訪問の予約が取れたのは一週間後。
美津子は、じりじりとした気持ちでその日を待った。
週末にはいつも通り息子の同級生一家が来てくれることになっていたが、美津子は泣く泣く予定をキャンセルすることにした。
美津子が自らホームパーティーを中止にするのは、この4年間で初めてのことだった。表向きのキャンセル理由は台風接近のためということになっていたが、夫には美津子が外壁の件で落ち込んでいることがお見通しだったらしい。
「美津子、家のことならそんなに心配しなくても大丈夫だよ。ちゃんと点検しに行くって言われたんだろ?」
「うん、そうなんだけど、もしも欠陥住宅だったらと思うと怖くて……」
夫が安心させるように何度も声をかけてくれたが、美津子の心が晴れることはなかった。
いつも家族の中心にいる美津子が気落ちしているせいか、息子もいつもより心なしかおとなしい。夫と息子に申し訳なさを感じた美津子は、なるべく2人の前では明るく振る舞おうと努力したが、1人になるとどうしても壁のひび割れのことを考えてしまうのだった。
他にも私が気付いていない傷があるかもしれない。あれだけ時間とお金をかけて建てた家が欠陥住宅だったらどうしよう。
悪い想像ばかりが膨らんでいき、美津子は寝ても覚めても家のことが頭から離れなかった。
暴風雨の中で美律子は不安を抱えながらも、家の中で家族と一緒に過ごすことにしたが、台風が接近するにつれて風雨が激しくなり、とてつもない物音がしてきた。暴風雨のごう音に混じって、何か固いもの同士がぶつかるような衝撃音も聞こえた。もしも飛んできた看板やがれきが家に当たったら、ひび割れたマイホームはさらに傷を負ってしまうのではないか。そう思うと美律子は居ても立ってもいられなくなり、夫が引き留めるのも構わず嵐の中外へ飛び出した。
玄関アプローチから辺りを見渡すと、どこかの家の屋根瓦が剝がれて道路に落ちているのを見つけた。この様子では、うちの外壁も剝がれてしまうかもしれない。そう思ってひび割れを発見した場所へ駆け出そうとした美津子の腕を夫が強くつかんで叫んだ。
「美律子、危ないから中に戻って! 早く!」
「でも……! 壁が無事かどうか確認しないと!」
美律子は抵抗を示したが、夫は有無を言わさず家の中に引き戻した。ずぶぬれで家に入ってきた美津子を見て、息子も心配そうに声をかけてきた。
「お母さん、大丈夫?」
「う、うん……大丈夫よ。心配かけてごめんね」
美津子は慌てて息子にほほ笑みかけながら答えたが、まだ外の様子が気になっていた。そのことに気付いた夫は、美津子の手を取って優しく言った。
「たしかに家は大事だけど、それ以上に大事なのは家族の命だろ。万が一ケガで済まなかったら、どうするんだ? 」
「ごめんなさい、あなた。でも、もし家に何かあったらと思うと……」
雨にぬれて震えながら言うと、夫は美津子の顔をのぞき込んでさらに続けた。
「美津子? 家は壊れても直せるけど、人間は1度壊れると取り返しがつかないだろ。頼むから、台風が過ぎるまでは外へ出ないと約束してくれ」
「……分かった、約束するわ」
美律子は夫の言葉に一応うなずいたが、内心では家の様子を見に行きたくて仕方がなかった。
酷暑による早期劣化猛威を振るった台風は美津子たちの住む地域を通り過ぎて、海上で跡形もなく消滅した翌日、ようやく予約していた業者がやってきて家を点検してくれた。
点検の結果は劣化だった。外壁にできたひび割れは手抜き工事のせいではなく、単に劣化したためだということが判明した。実は毎年の酷暑によって通常の耐久年数よりも早く外壁塗装が劣化し、家自体が傷んでしまったのだ。いつもより家の中が暑かったのも、熱と紫外線によって外壁がダメージを受けていたせいということだった。
自宅の手入れに自信を持っていた美律子は、その診断結果に大きなショックを受けた。常に完璧な状態の家を目指していたのに、思わぬところに見落としがあったわけだ。
「私がもっと気を付けていれば……」
自責の念にかられる美津子の肩に夫は優しく手を置き言った。
「美律子、これは君のせいじゃない。むしろ早い段階で異変に気付くことができたのは、いつも家を大切にしてくれている美津子のおかげだよ」
「あなた……」
美津子は、夫の言葉に目を潤ませた。すると、その様子を見ていた息子も、美津子の腕にポンと手を置いて励ましてくれた。
「お母さん、心配しなくても大丈夫。今はDIYで家を修理する道具もいっぱい売ってるんだよ。僕も壁を直すの手伝うからさ」
「ふふ、ありがとう。頼もしいわね」
大人びた口調で子供っぽいことを言う息子に、美津子は思わず笑みをこぼした。
そんな家族の温かい言葉に支えられ、美律子は外壁のリフォームを決断するのだった。
外壁リフォームに30万円台風直撃から数週間後。
費用30万円をかけた外壁のリフォームが終わり、生まれ変わったマイホームの外観を見た美律子は、心から満足した。いまいましい壁のひび割れは影も形もなくなって、まるで新築のような装いだ。
「これでまた、家族みんなが安心して過ごせるわね」
ほほ笑む美律子に、夫と息子たちも笑顔で応えた。
「これからは、俺が定期的に家の傷み具合を点検するよ。少しでも長く快適に過ごせるようにメンテナンスしないとな」
「僕も、たまには家の手伝いをする! 庭の水やりだって僕がやってもいいよ!」
夫の言葉を聞いて、息子も負けじと声を上げた。
「2人ともありがとう。無理しない程度にね」
美津子は、そっくりな性格の夫と息子に笑顔で感謝を伝えた。それから最近ぐんと背が伸びた息子に向かって声をかけた。
「それじゃあ早速、お花の植え替えを手伝ってもらおうかな。次は秋のお花を植えるのよ。コスモスとかどう?」
「うーん...…花だけじゃなく、果物と野菜も植えたら? トマトとかスイカとか桃とかさ!」
美津子の言葉に、息子は少し考え込んでから元気よく言った。
「おいおい、桃は実がなるまでに3年かかるんだぞ?」
「えっー!」
「そのころには、もう中学生になっちゃうね」
あからさまにショックを受ける息子を見て、美津子と夫は顔を見合わせて笑った。
息子もいつの間にか美津子たちに釣られて笑いだした。
雲一つない青空の下、美津子の自宅には家族の明るい笑い声が響いていた。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
梅田 衛基/ライター/編集者
株式会社STSデジタル所属の編集者・ライター。マネー、グルメ、ファッション、ライフスタイルなど、ジャンルを問わない取材記事の執筆、小説編集などに従事している。
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