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「パパ死んじゃうかと思った」楽しいBBQが一転、軽率さが生んだ水難事故で気づけた「大事なこと」

Finasee / 2024年9月9日 18時0分

「パパ死んじゃうかと思った」楽しいBBQが一転、軽率さが生んだ水難事故で気づけた「大事なこと」

Finasee(フィナシー)

<前編のあらすじ>

夏休みを利用して、友人夫婦たちと河原でバーベキューをしていた真理奈(28歳)。直前まで雨が降っていたが、天候にも恵まれ楽しい時間を過ごしていた。

子供たちは川の浅瀬で水遊びをしているが、息子の大貴(5歳)は川に入りたがらない。河原で飲酒をしていた夫の佑介(30歳)は、「男らしく勇気を出してみろ、溺れやしないぞ」とい言い、川の中へ入っていき、大貴にも勇気を出して川に入るよう強い口調で促しだした。

そんな折、流木が流れてきてバランスを崩した佑介が転倒してしまう。直後に雨の影響で一気に増水した川に流されてしまう……。

●前編:「川に入るの嫌」怖がる息子にしびれを切らし、川へ入った夫を襲った「あり得ない悲劇」

信じられない悪夢

「佑介―! 佑介―!」

真理奈と友人たちの悲痛な叫びが河原に響いた。しかしどれだけ叫んでも佑介の姿は見えなかった。ここは山あいにある河原で、かなり上流に位置している。1番深いところでも佑介の膝より少し上くらいの深さしかない川で、いくら水かさが増したからと言って、大の大人が溺れたりするはずがない。真理奈がいくらそう思おうとしても、目の前の現実は非情だった。

「パパー!」

大貴は普段は出さないような大声で叫びながら、あれだけ怖がっていた水辺に近づこうとしていた。真理奈は自分も川に飛び込んで佑介を助けたい気持ちをグッと堪えて、大貴をきつく抱きかかえて制止した。

川の水は一気に勢いを増していて、つい先ほどまで真理奈たちがバーベキューを楽しんでいた河原は水浸しになっている。真理奈は祈るような気持ちでスマホを取り出した。

雨の中の捜索

震える手で119番通報をして間もなく、消防のレスキュー隊が現場に駆けつけ、川に流された佑介の捜索を開始した。見るからに屈強なレスキュー隊員たちは、地形や流速をもとに素早く佑介の現在地を予測していく。そして、佑介が流れ着いた可能性の高いポイントを中心に懸命の捜索活動が行われた。到着した隊員らは全員、エキスパートと呼ぶにふさわしい迅速な対応をしてくれたが、状況が状況だけに真理奈の緊張が和らぐことはなかった。

刻一刻と時間だけが過ぎていき、しまいには再び雨も降り出した。これ以上川が増水したら、佑介はどうなってしまうのだろうか。そう考えるだけで震えが止まらなかった。

「いたぞ、いた! いたぞ!」

雨の中、傘もささずに祈り続ける真理奈の耳に、レスキュー隊員たちの声が聞こえた。顔を上げると、隊員たちはあわただしく確認しながら、川岸のある1カ所へと集まっていく。

彼らの動きを目で追った真理奈に見えたのは、川岸から伸びる木に必死にしがみついている佑介の姿があった。

佑介は生きている。

そう分かった瞬間、真理奈は思わず駆け出した。

「佑介ー! 絶対に離さないでっ!」

真理奈は大声で叫んだが、濁流に襲われる佑介には聞こえているはずもなかった。不安に身も心も引き裂かれてしまいそうになりながらも、真理奈はひたすらに祈り続ける。

やがてレスキュー隊員たちは、ロープや浮袋を駆使して安全を確保した上で、佑介の身体を慎重に水中から川岸へと見事に引き上げた。

水から上げられた佑介は、青ざめた顔でぐったりしていたが、意識はしっかりしている様子だった。しかし転倒した際に足を骨折してしまっていたらしく、担架に乗せられて救急車で病院に搬送された。

ひと通りの処置が終わって落ち着いたあと、佑介は酒に酔った状態で、しかも素足にビーチサンダルという軽装で川に入ったこと、雨の影響で増水の予兆があったにも関わらず川で遊んでいたことについて、警察から厳しく注意を受けた。

佑介はまさか自分がこんな大事を引き起こしてしまうとは思っていなかったらしく、かなり気落ちした様子でいた。とはいえ、うかつだったことは間違いなく、軽率だったのは佑介だけではない。しかし今はこうして命が助かったことが何よりもうれしかった。

息子の勇気

数日後、真理奈は大貴を連れて佑介の見舞いに病院を訪れた。病室に入ると、大貴はすぐに父親のもとに駆け寄り、涙を浮かべて佑介に抱きついた。

「パパが死んじゃうかと思ったよ」

震える声で言う大貴の姿に、佑介もつらそうに顔をゆがめていた。あのとき川に入らない大貴に対していら立ちをあらわにし、「男らしくしろ」などと厳しい言葉をかけてしまったことを思い出しているのだろう。

「ごめんな、大貴。パパが間違ってたよ。無理に川に入らせようとしてごめん」

佑介はベッドの上で、大貴の小さな手をそっと握りしめて静かに謝罪した。その声には、深い後悔の念がにじんでいた。父親の温かい手のぬくもりを感じてながら、大貴は涙を拭っていた。

しばらくして、すすり泣きが聞こえなくなったと思えば、大貴は佑介のベッドにもたれかかりながら気持ちよさそうに寝息を立てていた。真理奈と佑介は顔を見合わせてほほ笑むと、2人で大貴の身体をベッドの上に引き上げた。

「大貴、よく寝てるね」

佑介が隣に横たわる大貴の髪をなでながら言った。

「ここ数日、夜中に泣いて起きちゃうことが多かったから...…」

「ああ...…そうか。そうだよな。大貴には本当に悪いことをしたよ。真理奈にも本当に心配かけたし、他のみんなにも……」

大貴の寝不足の原因が自分にあると思い至ると、佑介は視線をそらせて申し訳なさそうな表情をしていた。

「大貴はね、佑介が流されたとき、自分から川へ近づいて行ったんだよ。大きい声で『パパー!』って叫びながら」

「えっ、大貴が自分から?」

意外そうな顔をして驚く佑介に真理奈は大きくうなずいてみせた。

「あの子は、自分以外の誰かのために力を発揮できる優しい子なんだって思ったよ。勝手に臆病だとか消極的だとかって決めつけてた自分が恥ずかしくなっちゃった。まあ、そのときは必死過ぎて、そんなこと思う余裕なかったんだけどね」

「すごいな、大貴は……まだこんなに小さいのに、俺なんかよりもずっと勇気があるよ」

佑介は思わず目頭を押さえながら言った。

そんな佑介の様子を見ていた真理奈も泣きそうになったが、あえて明るく声をかけた。

「佑介の足が治ったら、3人でサイクリングにでも行かない? 大貴も、そろそろ補助輪なしで自転車に乗れるようになりたいって言ってたよ」

「本当か? それならリハビリも兼ねて、特訓に付き合ってやんなきゃだな」

佑介は眠っている大貴の頭をなでる。気持ちよさそうな寝顔に、真理奈と佑介はそろって笑みをこぼした。

複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

梅田 衛基/ライター/編集者

株式会社STSデジタル所属の編集者・ライター。マネー、グルメ、ファッション、ライフスタイルなど、ジャンルを問わない取材記事の執筆、小説編集などに従事している。

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