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「100歳まで生きれば7200万円」介護のリアルな数字に呆然とする父娘が相続対策のために遺言書に記した文言とは?

Finasee / 2024年10月2日 11時0分

「100歳まで生きれば7200万円」介護のリアルな数字に呆然とする父娘が相続対策のために遺言書に記した文言とは?

Finasee(フィナシー)

<前編のあらすじ>

中部地方在住の南田美玖子さん(仮名・50代)は、円満な家庭に育ち、自身も3人の子どもを持つ。しかし、認知症を患った母親が「暴君」と化し、状況は一変する。

母親は海外旅行にすでに成人している孫に渡すためだと大きなぬいぐるみを持ってきたり、「女がいる!」と父親に暴力をふるったり。

南田さんは施設に入れることを検討するが、「姥捨て山」のイメージを持つ父親の反対で実現しない。しかし、ついに介護疲れの溜まっていた父親が救急搬送される。

●前編:認知症で暴君化する母親も…「まだ頑張れる」父親の優しさで負担が増す理不尽な介護実態

父親の限界

搬送された父親は「右目の網膜動脈分枝閉塞症」と診断された。網膜動脈の枝の血管が閉塞して、視野が半分になってしまったという。

南田さんは父親の通院やケアに専念するため、ケアマネの勧めで、母親を初めて1週間のショートステイに預けることにした。

しかし母親は、初めての施設と知らない職員で不安だったのかもしれない。個室でなく共同部屋だったため、他人の荷物を触ろうとして職員から注意を受けたとき、母親は職員を平手打ちしてしまう。

母親は別のショートステイに移ることになった。

3月に入ると、母親の暴力はすっかりおさまったが、ほとんど寝たきりになってしまった。

一日中眠っていた日の寝具は酷い状態だった。南田さんは重くなった寝具全てを車で自宅に持ち帰り、お風呂場で下洗いをしてから洗濯機で洗った。その間、卒倒しそうなほど臭く、洗っても洗っても臭いが取れなかった。

そんな5月のGWの真只中、母親の顔が酷くむくんでいた。

病院はGW休みで、休日診療所に行こうにも、南田さんと父親の力では動かせない。その上、服も尿で濡れている。

救急相談に電話すると、そのまま救急につないでくれたため、救急隊員に相談。すると、着替えもやってくれると言われた。

救急隊員たちは4人がかりで母親を着替えさせ、搬送してくれた。搬送先の病院では様々な検査を受けたが、むくみの原因は分からなかった。

「この頃、母の着替えもオムツ交換も私一人ではできなくなり、いつも父と2人がかりでやっていたのですが、この時父はやっと、『施設に入れよう』と言ってくれました」

老親の資産

まず南田さんは父親を、あらかじめ目星をつけていた施設の見学に連れて行った。持っていたイメージとずいぶん違ったようで、父親は入所を前向きに考えてくれるようになった。

次に、今後の資金繰りや遺産相続の話し合いを始めるために、「今の資産状況を教えてほしい」と切り出す。

すると父親は、「まとめてあるよ」と言って分厚い冊子を出した。

父親直筆の難読な冊子を読み解くと、どうやら自宅と両親が所有している小さなマンション、株券、定期預金などの資産がまとめられていることがわかった。

それを基に南田さんは、司法書士兼行政書士の無料相談を受けた。高齢の両親、認知症が進む88歳の母親のことを話し、施設に入る前やお別れの時に備えておくべきことを聞くと、こう言われた。

「ご両親の年齢でしたら、とにかく現金を作ることが大事です」

・定期預金→すぐ解約
・株→現金化
・売っても数百万ぐらいの小さなマンション→すぐに売りに出す

「90歳手前ではいつ何が起きるかわかりません。金融資産は本人の立ち会いがないと解約できないものが多いので、元気なうちに現金化しておくべきです」と司法書士兼行政書士は言う。

この後、南田さんは小さなマンションをすぐに売り出したが、1年以上経った今もまだ売れていない。

「確かに、90歳近くになれば運用や貯金より現金ですよね。相談して本当に良かったと思いました」

不動産、株、定期預金などがどんなにあっても、基本、本人がいなければ現金化できず、使うことができない。認知症などの病気で、言葉で意思を示すことやサイン(署名)ができなくなった場合も同様なため、注意が必要だ。

公正証書遺言で得られる安心

父親は、「遺言書なら用意してあるよ」と言っていたが、実際に見せてもらうと、A4の紙に「全ての財産を妻に譲る」と書いてあるだけだった。

遺言書には決められた書式があり、それを外れたものは無効になる。父親が書いたものは無効なものだった。

「資産状況の冊子にしろ、この遺言にしろ、父なりに先のことを考えて頑張ってくれていました。ただ、万が一母より父の方が先に亡くなったら、両親の財産の半分は認知症の母のものになってしまいます。正しい遺言書を作ってもらわないとマズイと思いました」

南田さんはすぐに試算に取り組んだ。

有料老人ホームの月々の支払いは、1人当たり30万ぐらいとし、1年で360万円。両親2人なので720万円。100歳まで生きると考えて、7200万円。

「これが現実の数字とわかると、有料老人ホームって結構かかるなと思いました」

両親には、取り急ぎ母親だけを入所させる現金はあった。しかし長続きはしない。両親にとっての一番大きな資産は家だ。

「私は親からの相続金を楽しみに待っているタイプではないし、亡くなった兄も同じです。だから実家は売却し、施設での生活のために両親で使うべきだと思いました。現時点では、父はまだ自宅ライフを楽しんでいるので、父が施設に入るタイミングで売却するという結論に至りました」

父親は大賛成してくれた。

続いて遺言だ。

兄が健在ならば、片親が亡くなった場合、法定相続分は、もう一方の親が50%、兄25%、南田さん25%。しかし兄が亡くなっているため、兄の分は兄の一人娘のものになる。父親が母親より先に亡くなった場合は、父親の遺産の半分が認知症の母親のものになる。

「今後莫大な医療費がかかるかもしれない。施設に10年以上お世話になるかもしれない。どれだけかかるかわからないからこそお金が必要です。財産の全てを母に残そうと考えるなら、父はキチンと使い道を記した遺言書を残すべきだと思いました」

南田さんは父親に公正証書遺言の作成を勧めた。

以前相談した司法書士兼行政書士に相談し、父親と共に作成。公証役場に提出した。

「文面としては、『全ての財産を高齢者施設の費用に充てたい』兄の妻と娘とは、兄の死後、全く連絡が返ってこないので、『孫である兄の娘は遺留分請求をしないで欲しい』『遺言執行者は娘である私』…としました」

遺留分とは、たとえ遺言書で渡さないと書かれている相続人でも、法律で最低限保障されている遺産取得分があり、希望すればもらえるもの。

執行者とは、遺言の内容を実現するために必要な手続きをする人のこと。執行者の記載をしておけば、各金融機関での預金解約手続きなどを執行者1人で行うことができるようになる。

「公正証書遺言を作ったので、これで父は、万が一自分が先に死んだ場合でも、妻(母)の施設や医療費の支払いの心配がなくなりました。私自身も、両親の施設などの支払いの不安がなくなり、遺産分割協議の必要もなくなって、とても気が楽になりました」

やがて父親が「入ってもいい」と思える施設が見つかり、申し込むと、すぐに母親は入所することができた。

認知症介護

父親は歳の割には元気だが、すでに90歳、母親はまもなく90歳になる。

「認知症は、家族などの身近な人を不幸にしていく場合が少なくありません。でも、認知症の実体を知ることで、この不幸は軽減できると思います。認知症の具体的な症状や患者との関わり方、薬のことなど、知識を得て理解を広めることで、認知症で悲しい思いをする人は減らせるのではないでしょうか。また、介護者の体力や気力に余裕がなければ、温かい介護はできません。無理はせず、大変な時は助けを求めることも大切だと考えます」

南田さんは、認知症に対する社会の理解を広げる必要性を強く感じ、自分の経験を「Minami」という名でブログに綴っている。

認知症はその人らしさを覆い隠し、別人のようにしてしまうこともある恐ろしい病気だ。南田さんも経験しているように、発症前は尊敬し、大好きだった人も、発症後、怒りや呆れ、嫌悪感を抱いてしまうケースは少なくない。

大好きだった家族を最期まで大好きなままで見送るためにも、認知症の介護は、安心してプロに任せられる世の中であってほしいと願う。

旦木 瑞穂/ジャーナリスト・グラフィックデザイナー

愛知県出身。アートディレクターなどを経て2015年に独立。グラフィックデザイン、イラスト制作のほか、終活・介護など、家庭問題に関する記事執筆を行う。主な執筆媒体は、プレジデントオンライン『誰も知らない、シングル介護・ダブルケアの世界』『家庭のタブー』、現代ビジネスオンライン『子どもは親の所有物じゃない』、東洋経済オンライン『子育てと介護 ダブルケアの現実』、毎日新聞出版『サンデー毎日「完璧な終活」』、日経ARIA「今から始める『親』のこと」など。著書に『毒母は連鎖する〜子どもを「所有物扱い」する母親たち〜』(光文社)がある。

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