熟年離婚で「元夫の50%の年金」をもらえるはずが…おひとりさまになった70代主婦の大誤算
Finasee / 2024年9月17日 11時30分
Finasee(フィナシー)
<前編のあらすじ>
千里さん(仮名・78歳)は、結婚前に7年間会社に勤め、結婚後は専業主婦として家事と育児に専念していました。夫の啓悟さん(仮名・78歳)は、結婚して5年たった頃に個人事業主となり、50歳前には法人化もしました。
その後、啓悟さんは体力の問題もあり75歳で仕事を引退します。しかし、啓悟さんは喪失感を抱え、家で暇を持て余す日々を過ごし、千里さんともささいなことで衝突することが増えました。関係性の悪化によりついに千里さんは離婚を決意します。
離婚後、千里さんは年金分割制度のことを知ります。年金分割とは、結婚期間中の厚生年金加入記録を分割する制度です。「それなりに増えるかも」と期待しながら年金事務所で話を聞いてみると、年金分割をすると老齢厚生年金が増える一方、老齢基礎年金が減ることが発覚したのでした。
●前編:【耐えられない…仕事を引退した夫と熟年離婚へ。年金分割を期待した70代主婦が呆然とした「想定外の事実」】
年間11万円の振替加算がなくなってしまう年金分割をするとどうなるか気になっていた千里さんは、年金事務所で情報提供請求をします。その際、分割されると老齢厚生年金が増える一方、老齢基礎年金が減ると説明を受けました。具体的には「老齢基礎年金に上乗せされていた振替加算がなくなります」と案内されました。
振替加算は自身の厚生年金加入期間が20年未満で1926年4月2日から1966年4月1日までに生まれた人を対象とし、厚生年金加入期間が20年以上の配偶者に生計を維持されていた場合に加算されます。自身に厚生年金被保険者期間が20年以上あれば加算はされなくなっています。
千里さんは自身では厚生年金に加入していた期間は結婚前の7年間だけで、啓悟さんは65歳時点でも既に20年以上あったため、千里さんには65歳から振替加算が加算されていました。生年月日によって加算額が異なる振替加算ですが、千里さんの場合はこれまで年間11万円が加算されていました。
しかし、年金分割を行った場合、結婚から離婚までの期間で千里さん自身に厚生年金の期間がなくても、啓悟さんが厚生年金に加入している期間は「みなし被保険者期間」となります。そして、振替加算はみなし被保険者期間を含めて厚生年金被保険者期間が20年未満であることが条件となります。
結婚期間中の啓悟さんの厚生年金加入期間は結婚直後の5年(28歳から33歳)と法人化後の約20年(50歳から70歳まで)あります。千里さん自身の厚生年金加入期間(7年)に25年のみなし被保険者期間を足すと合計32年、つまり20年以上になります。
その結果、分割後は年間11万円の振替加算はつかなくなるということです。
振替加算分は諦めて年金分割を進めることに情報通知書によると、老齢厚生年金は確かに分割で36万円ほど増えることになりますが、振替加算11万円がなくなった分、年金額の総合計としては25万円までしか増えていないことになったのです。
「総合計で見ると思ったほど増えないことになるのね。もう離婚してしまったもの、振替加算分は諦めるしかないか」と、後日、今度は離婚した啓悟さんとともに年金事務所で合意分割のための標準報酬改定請求を進めました(※)。
※元夫と元妻で合意分割の合意が整わない場合は、家庭裁判所の審判等により50%を上限とした按分割合を定めることができます
元夫が他界。離婚しなかった方がよかったのか?こうして、千里さんも啓悟さんも、分割後の年金を受給するようになりました。ところが、標準報酬改定請求のために年金事務所に行ってからしばらくして、なんと啓悟さんが亡くなったことを長女から知らされました。
もし、離婚していなければ、振替加算の加算が続いていただけでなく、死亡当時の配偶者であることから遺族厚生年金も支給されていました。実際は啓悟さんの死亡時は離婚していたため、遺族厚生年金は当然ありません。千里さんは結果的に1人で過ごすことになりましたが、離婚と年金分割をしていた場合とそもそも離婚していなかった場合とで、啓悟さん死亡後の千里さんの年金額に大きな差が生じることになりました。
長男は「こういう結果になるんだったら、やっぱり離婚しなかった方がよかったんじゃない?」と千里さんに言います。これに対して千里さんは「そんなことない! 離婚したことは間違っていなかった。無理なものは無理だったもの」と自分に言い聞かせるように答え、離婚しなかった場合のことは考えないようにして、1人での生活を続けることになりました。
離婚時の年金分割は「元夫の50%の年金がもらえる」と言われることもありますが、実際は思ったより年金が増えないこともあります。離婚を考えている場合は年金分割制度についてよく確認することが大切です。
※プライバシー保護のため、内容を一部脚色しています。
五十嵐 義典/ファイナンシャルプランナー
よこはまライフプランニング代表取締役、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP®認定者、特定社会保険労務士、日本年金学会会員、服部年金企画講師。専門分野は公的年金で、これまで5500件を超える年金相談業務を経験。また、年金事務担当者・社労士・FP向けの教育研修や、ウェブメディア・専門誌での記事執筆を行い、新聞、雑誌への取材協力も多数ある。横浜市を中心に首都圏で活動中。※2024年7月までは井内義典(いのうち よしのり)名義で活動。
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