【プロが解説】EV(電気自動車)シフト、遅延の背景を探る
Finasee / 2024年9月18日 11時0分
Finasee(フィナシー)
脱炭素社会実現に向けた世界的な取り組みの中で、大きな目玉の施策である「ガソリンエンジン車」から「電気自動車(EV)」へのシフトが遅れています。今回は、EVシフトが遅延している背景や今後の見通しについてまとめます。
EVへのシフトが遅れている背景には、インフラ整備の遅延やコストの問題、消費者の受け入れが進んでいないことなどが挙げられます。特に充電インフラの不足は、消費者が長距離移動や地方での利用に不安を抱く主因となっており、ガソリン車からEVへの転換が進まない一因です。また、充電時間の長さや航続距離の短さも、消費者にとって不便と感じられ、普及を妨げています。これらの課題に加え、EVの価格が高止まりしているため、補助金や税制優遇がなければ購入をためらう消費者も少なくないでしょう。さらに、日本の場合、EVシフトによって自動車産業における自動車部品サプライチェーンへの影響が大きく、これによる日本経済へのダメージが避けられないという固有の問題も抱えています。
これらの背景を受け、自動車メーカーの中にはEVシフトの計画を見直し、遅延や先送りを検討する企業が出てきています。メルセデス・ベンツやボルボは2030年までに新車販売をすべてEVにする計画を撤回しており、フォルクスワーゲンやゼネラル・モーターズ、フォード、トヨタなども投資計画や生産計画の見直しを行っています。テスラも価格競争の激化により、新工場建設計画に慎重な姿勢を示しています。足元でEV需要の成長鈍化が見られる中、世界のEV市場は短期間に目まぐるしい変化の中にあり、各社の戦略もその変化に対応していくことになりそうです。
今後10年から20年にかけてのEVシフトは、地域ごとに異なる速度で進むと予想されます。欧州では2035年までに合成燃料を使う内燃機関車を除いて、EV以外の販売禁止を目指していることから、EVシフトが着実に進む見通しです。北米では、2030年代に向けて市場が拡大すると見られていますが、現状のSUVやピックアップトラックが主流の自動車市場では、EVへの完全移行には時間がかかると考えられます。11月の大統領選の行方も重要なポイントになりそうです。中国は政府の強力な支援により、EV市場をリードするポジションにあり、今後も高い成長が期待されています。日本では、政府の目標として2035年までに乗用車の新車販売で電動車100%を実現する方針に沿って、EVシフトがしっかりと進捗していくと見られます。充電インフラの整備不足やバッテリーコストの高さが依然として普及のハードルとなっていますが、技術の進化とコストの低減、政策的な支援により、2030年代に向けてEV普及は加速する見込みです。また、企業の環境対応意識の向上も、EV市場の成長を促進する要因となりそうです。今後も各国政府や企業の戦略がどのように変化していくかを注視していく必要がありそうです。
末山 仁/コモンズ投信運用部シニア・アナリスト
山一證券に入社し経済研究所では企業データ(業績数値、株価)分析、投資顧問では年金の株式・債券による運用業務に従事。山一證券廃業後、富士信託銀行(現みずほ信託銀行)に入社。外国株式インデックス運用のファンドマネージャー業務のほか、アナリスト業務、個人向け信託商品の企画管理運営業務を経験。2016年2月にコモンズ投信に入社。
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