「年金生活は我慢ばかり」のイメージは誤解? シニアが公的年金のみの暮らしで気付いた「予想外の楽しさ」
Finasee / 2024年9月19日 18時0分
Finasee(フィナシー)
想像できないからこそ不安が募る「老後資金」の問題
老後に年金で生活ができるかどうか、若い方ほど不安をおぼえているのではないでしょうか。そのため近年、若者が貯蓄、投資する流れに拍車がかかっているのだと思います。
では実際に年金だけで生活はできるのでしょうか? 現役世代にそれを知る人はほとんどおられないことでしょう。もちろん年金受給前に分からないのは当たり前のことです。ですが、大まかにでも老後の収入と暮らしのイメージを持っておくことで、漠然としたお金の不安は軽減できるものです。そこで今回は、私が年金だけで生活ができるのか実験した結果をお伝えします。
年金暮らしの実験結果についてお話する前に、参考情報として私自身のプロフィールと年金額をご紹介します。
私は現在66歳です。長く会社員として企業に勤めたのち、早期退職をして63歳から個人事業主として働いています。住宅ローン返済が残っていたこともあり、年金は65歳から受給しはじめました。
年金に加えて個人事業主としての収入が少しだけあったので、普段の生活では家計の収支に関してはあまり気に留めていませんでした。しかし個人事業主というのはサラリーマンと異なり仕事の有無によって収入が不安定になり、収入がない月が出てくることもあります。そこで収支のバランスをとるためにも、個人事業主としての収入には手を付けないで年金だけで生活する方法にシフトしようと考えました。
日本年金機構によると夫婦の平均年金額は月22万円から23万円ですが、私の場合はシングルファーザーなので年金は約18万円です。今回、その18万円で生活できるか実験をしてみました。
公的年金だけでも生活できる! やりくりの中には楽しさも結論です。年金で十分生活はできます。その理由は年金額の中で何とかしようと工夫したからです。
これを聞いた現役世代のみなさんは、素直な感想として「それは大変だったでしょう。我慢の毎日だったでしょうね」と思われたことでしょう。ですが、案外そんなことはありません。もちろん慣れるまでは試行錯誤しましたが、実際は我慢ばかりでなく多くの得難い気付きを得られたのです。
では年金だけで生活することで得られたメリットを列挙してみます。
・創意工夫する楽しさがあった
これまでの使いたいことに額を気にせずお金を使う発想から、決められた範囲の中でお金を使う考え方に変わりました。前者はあまり頭を使いませんが、後者は何とかやりくりしなくてはいけないので、知恵を絞るようになります。段々と創意工夫する面白みさえ出てくるようになりました。
私の場合は無駄遣いが収支のバランスを圧迫していたのですが、その癖にも気付いて改善することができました。
・何にお金を使うか、優先順位を考えるようになった
当然限られた金額の中で生活しなくてはいけないので、何にお金を使うか、その優先順位を考える習慣ができました。結果として自分が一番大切にすること、譲ることができないことからお金を使うようになりました。私の場合甘いもの好きなので、少し高めのケーキを時々買うことには優先してお金を使いました。その代わり衣服は新しく買わないなど工夫をしましたが、不思議とストレスはなく楽しく過ごせました。
・消費による幸せをより実感できるようになった
食事に関しては、これまであまり考えずよく外食をしていたのですが、努めて自分で料理をするようにしました。基本は自炊をし、たまに行きつけの飲食店で外食をしました。するとその店に行くことが今まで以上に楽しみになり、いつも注文して食べ慣れていたはずの料理がこれまでより格段においしく思えました。
・料理する楽しみができた
年金額の範囲で暮らすようにしてからは節約のため自炊することが多くなりましたが、レパートリーを増やすためにNHKの料理番組を見たり、食材を買うためにスーパーに行ったりするのが楽しみになりました。そして作ったものを子どもが美味しいと言って食べてくれるのでそれも励みになりました。
***これらのメリットは言葉を変えると「今まで見えていなかった楽しさを見つけることができた」ということかもしれません。
それは「お金は大きく使わなければ大きな楽しみを得られない」という考え方から、「見逃していた小さなことに大きな楽しみ、幸せを見つけていく」という考え方に変わったということです。この考え方の変化によって本来持っていた自分の価値観や大切なこと好きなことがあぶり出されてきた、そんな印象を持ちました。
光熱費の削減は難しいが、食費は支出を抑えられる支出の面で気付いたこととして、大きく変えられないものは光熱費でした。反対に削減しやすかったのは食費です。基本的に自炊にして外食はできるだけしない方針で支出を抑えました。
私はシングルファーザーなので食事を作ることに元々抵抗はないのですが、それでも意識して食材ロスを減らし、作り置きを活用し、調理に工夫を加えると、安い食材であっても健康に良いものをシンプルに美味しく作れることができると確信しました。こうして工夫した結果、食費にかかった金額は月平均5万円程度でした。
また、補足として、住宅ローンは年金受給前に完済を目指す方が多いと思われるため、今回は返済したものとして計算しました(実際には住宅ローンが残っているので、年金で不足する分は個人事業主の収入で支払っています)。また、子どもが独立しているため教育費はかかっていないことも付け加えておきます。
年金生活でもファイナンシャル・ウェルビーイングは実現できる最初は18万円の年金で生活ができるのか心配していましたが、問題なく生活を送ることができました。そしてこれは大きな自信と安心につながりました。仮に個人事業主としての収入が途切れても年金だけで生活できるということが確認できたからです。
Indeed社の「『シニア世代の就業』に関する意識調査」によると、「働きたい」「働く必要がある」と回答した人は60代で約60%、70代では約41%です。シニア世代は意欲を活かして働くことで年金以外の収入も得られるので、それらを余裕資金に回すことができます。そうすると生活費は年金で補い、余裕資金を旅行や遊び、趣味など、自分が大切に思っていることに使うことができます。
「年金だけでも生活ができる」という自信は貴重です。不安はその実態を知らないことから生まれますが、年金の範囲で暮らす工夫を覚えれば、老後資金への過度な心配はなくなります。そうすると、老後は自分の価値観に基づき、本当に使いたいことにお金を使うことができます。
「ファイナンシャル・ウェルビーイング」はお金に関する幸せな状態と定義されます。今回の実験で自分が大切に思っていることにお金を使い、幸せを発見することができました。まさにこれはファイナンシャル・ウェルビーイングを実現したことになるのではないでしょうか。
髙橋 伸典/セカンドキャリアコンサルタント・モチベーション総合研究所代表・東京定年男女の会主宰
1957年生まれ。57歳で早期退職するも、多くのつまずき、苦労を経験する。しかし試行錯誤を重ねることで乗り越え、リスクなく独立する道をつかみ取る。東京都主催の東京セカンドキャリア塾、各自治体などでセミナーを行う。雑誌やウェブメディアでは、セカンドキャリアに関する寄稿の実績多数。著書に「定年1年目の教科書」(日本能率協会マネジメントセンター)がある。
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