この夏お米が消え、新米も値上がり見込み…! なぜお米は不足するのか。そして、お米の“値段”を決めているのは誰なのか
Finasee / 2024年9月10日 11時0分
Finasee(フィナシー)
どこに行っても「お米がない…!」
ここ数週間、お米がスーパーマーケットの店頭から消えたといった類いのニュースを、よく見聞きします。完全に消えてなくなることはないにせよ、実際ニュースなどで流れてくるスーパーマーケットの店頭でのインタビューなどを見ると、確かにお米が品不足に陥っているような気がしてきます。
実際に数字を見てみましょう。農林水産省がとりまとめている「民間在庫の推移(令和6年7月末)」によると、2024年7月末時点のお米の在庫は82万トンで、前月に比べて33万トンの減少となりました。基本的にお米の民間在庫は9月、10月にかけて、その年の新米が本格的に出回ってくるため増加しますが、7月、8月は新米が出回る直前なので、大底になります。
確かに、過去の7月の民間在庫を時系列でみると、今年7月が相対的に少ないのは事実です。ちなみに過去の7月の民間在庫は、以下のようになります。
2018年・・・・・・102万トン
2019年・・・・・・99万トン
2020年・・・・・・119万トン
2021年・・・・・・138万トン
2022年・・・・・・142万トン
2023年・・・・・・123万トン
2024年・・・・・・82万トン
このように見ると、確かに2024年の民間在庫である82万トンは、例年に比べて少なくなっています。
また月別に民間在庫の推移を見ると、2022年9月から2023年8月にかけて、民間在庫は前年同月比でマイナスが続きました。2023年9月は前年同月と同数で、プラスマイナス・ゼロでしたが、2023年10月から再びマイナスに転じ、それが直近の2024年7月まで続いています。
なぜお米がないのか…需給それぞれで考える米の民間在庫が減少する要因は、単純化すれば2つに絞られます。何かの理由で米の生産が減るか、需要が盛り上がるかです。
生産について見てみましょう。この7月の民間在庫は昨年のお米の出来具合が影響するはずです。そこで2023年産水稲の作況指数を見ると、全国の作況指数は101でした。つまり「平年並み」です。お米の供給側を見れば、民間在庫が大幅に減る要素が見当たりません。
ちなみにかなり昔の話になりますが、1993年は冷夏の影響により、いわゆる「平成の米騒動」と言われる状況になりましたが、この時の作況指数を見ると、全国が74でまさに大不作でした。特にこの年、北海道の作況指数は46,青森が28、岩手が30というように、東北から北海道で壊滅的なダメージを受けたことが分かります。
それから比べれば、2023年の作況指数である101は不作でも何でもなく、民間在庫が大幅に減った理由として、供給側には特に大きな問題はなかったと見るのが妥当でしょう。
加えて言うなら、先にも触れたように、お米の民間在庫が前年同月比でマイナス続きになったのは今年7月に限った話ではなく、2022年9月からほぼ毎月のように続いていますが、2022年の作況指数は100だったので、これまた供給側に問題があったとは考えられません。そうなると、民間在庫の減少を引き起こした原因は、需要側にあったと考えられます。
とはいえ、これは基本的な認識として把握しておきたい点ですが、主食用米の需要量は年々減少傾向にあります。1996年当時の主食用米の需要量は年間944万トンでしたが、2022年のそれは年間691万トンです。多少の上下動はありますが、2013年以降はほぼ一貫して減少傾向を示しています。基本的なトレンドとして、米の需要は減少しているのです。
そうであるにもかかわらず、どうしてこの夏になって急に、米不足が心配されるようになったのでしょうか。
米の全体需給を見ると、生産量と総需要量は過去、大きく上下が入れ替わるのと同時に、生産量の増減がかなり激しく変動しています。
たとえば1967年産米の総生産量は1445万トンであるのに対し、総需要量は1248万トンで、大幅余剰でした。
このように、総生産量が総需要量を大幅に上回る年が、1968年産米、1975年産米、1977年産米、1984年産米、1986年産米、1994年産米とある一方で、1971年産米は総需要量1186万トンに対し、生産量は1089万トンと大幅不足でした。それと同様、1980年産米、1988年産米、1991年産米も不足で、特に1993年産米は、総需要量が971万トンであるのに対し、生産量は783万トンに止まりました。ちなみに直近では2003年産米が、総需要量891万トンに対し、生産量は779万トンで、大幅不足になっています。
ただ、2004年産米以降の生産量を見ると、増減幅が非常に狭まっているのが分かります。かつ生産量と総需要量の差が小さく、たとえば2022年産米にいたっては、生産量が807万トンであるのに対し、総需要量は806万トンです。つまり生産量と総需要量がほぼ完全バランスに近い状態にあると考えられます。ちなみに「総需要量」は主食用だけでなく、飼料用や加工用などの数量も含まれています。
このように総需要量と生産量がタイトにバランスしている状況下では、ちょっとした原因で生産量が減ったり、総需要量が増えたりすることで、米不足に陥る恐れが生じてきます。インバウンド需要による米の消費増や、宮崎県の地震によって南海トラフ地震への警戒感が高まり、お米の買いだめに走る人が増えるといった、イレギュラーな事象が起こると、一時的にしても需要が高まり、米不足に対する不安が生じ、それがお米の価格を押し上げる状況も起こり得るのです。
お米のプライスメーカーは実質、JAグループとはいえ、お米の価格は完全な市場の需給バランスで決まるわけではない点にも、留意しておく必要はあるでしょう。
かつては「政府管理米」が主体で、お米の価格は政府が決めていましたが、徐々に農業者が販売できる「自主流通米」の比率が高まり、1990年には政府管理米の比率が2割を切ってきました。
そのため、1995年には食糧管理制度が廃止され、原則として農業者が自由にお米を販売できるようになったのですが、それでも現状、まだ完全な自由競争にはなっていません。豊作で米価が安くなると、農水省が余ったお米を買い上げて価格を調整することが、行われています。
また、お米を自由に販売できるとはいえ、完全自由にお米の価格を決められるわけではありません。お米の流通の5割を占めるJAグループや、経済農業協同組合連合会が、農業者からお米を集荷する時に支払う代金となる「概算金」を決めているからです。
これから市場に出回ってくる2024年産米ですが、出荷が早い鹿児島の概算金が、前年に比べて60キロあたり6000円値上がりしました。言うまでもなく、直近の需要増を反映しての価格決定だと思われますが、正直なところ、なぜ6000円の値上がりなのかが、よく分かりません。一般的にお米のプライスメーカーは、お米の流通の5割を占めるJAグループですが、そこがどのような基準でお米の価格を決めるのかが不透明だという批判は、よく聞かれます。
その意味で、8月13日に大阪の堂島取引所で始まった「コメ指数先物」は、需給を反映したお米の価格という点で、その不透明性を払拭することが期待されています。
鈴木 雅光/金融ジャーナリスト
有限会社JOYnt代表。1989年、岡三証券に入社後、公社債新聞社の記者に転じ、投資信託業界を中心に取材。1992年に金融データシステムに入社。投資信託のデータベースを駆使し、マネー雑誌などで執筆活動を展開。2004年に独立。出版プロデュースを中心に、映像コンテンツや音声コンテンツの制作に関わる。
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