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せっかく繰り上げた年金が“4年半”受け取れない⁉ 60代主婦が見落としていた「年金制度の落とし穴」

Finasee / 2024年9月20日 11時0分

せっかく繰り上げた年金が“4年半”受け取れない⁉ 60代主婦が見落としていた「年金制度の落とし穴」

Finasee(フィナシー)

<前編のあらすじ>

麻耶さん(仮名・60歳)は、数年会社に勤めたあとに結婚し、その後は専業主婦として過ごしてきました。夫の雅史さん(仮名・63歳)と二人暮らしをする中で、年金制度に関心を持ち始めます。

主婦仲間の間でも年金の繰上げ受給がたびたび話題になる中、麻耶さんは繰上げによる減額率が0.5%から0.4%に引き下げられたことを知り、ちょうど60歳になった時に繰上げ受給することを決意しました。

ところが、繰上げ受給開始から6カ月後、雅史さんが心筋梗塞で突然亡くなってしまいます。麻耶さんが遺族厚生年金の相談のために年金事務所に行くと、職員から「遺族厚生年金の方が高いので、こちらを選択することになります」と説明を受けました。

●前編:【年金を早めに受け取り、元気なうちに楽しむはずが…60代主婦の老後計画を狂わせた「まさかの原因」】

65歳までと65歳以降の年金の受け取り方

既に老齢年金(老齢基礎年金・老齢厚生年金)を繰上げ受給していたところ、夫・雅史さんの死により、再び年金事務所に訪れることになった麻耶さん。遺族厚生年金の案内がされましたが、その際、窓口の職員から今後65歳までの年金と65歳以降の年金に分けて説明を受けました。

65歳までの年金はどうなる?

まず、雅史さんの死亡により、麻耶さんは遺族厚生年金を受けられることになりますが、こちらを受け取ると65歳までは繰り上げた老齢年金は支給停止になります。

年金事務所の職員は「65歳まで繰上げをした老齢年金と今回発生した遺族厚生年金はあわせて受給できません。どちらか選択になります」と説明します。

雅史さんが亡くなったことで遺族厚生年金120万円に中高齢寡婦加算(年間61万2000円)が加算されて合計180万円以上支給されることになりますが、これは麻耶さんが繰上げした老齢年金70万円弱より高い額です。よって、金額の高い遺族厚生年金を選択して受給します。その結果、60歳6カ月の麻耶さんは、せっかく繰上げした老齢年金をここから65歳まで受け取れないのです。

この点は、繰上げ請求時に窓口で説明はされていたのですが、当時麻耶さんは夫が他界するなど夢にも思っていなかったため、気にも留めていませんでした。

65歳以降の年金はどうなる?

続けて、65歳以降の年金の説明がされます。65歳になると遺族厚生年金から中高齢寡婦加算がなくなります。そして、減額された老齢基礎年金と老齢厚生年金、遺族厚生年金はあわせて受給できますが、遺族厚生年金については老齢厚生年金相当額(繰上げ減額後)を差し引かれて受給することになります。

このように65歳前と65歳以降で年金の内訳が大きく異なります。

繰上げしていなかったら…

「繰上げしやすくなったと聞いて繰り上げたのに受け取れないなんて……」と衝撃を受けた麻耶さん。

年金事務所から帰った麻耶さんは、窓口で渡された受給見込額(老齢年金・遺族年金両方)を使って、遺族年金を含めた上での逆転年齢を自分で計算してみました。すると、繰上げしなかった場合と繰上げした場合の生涯の受給累計額は、なんと66歳10カ月頃には逆転するというまさかの結果に。

遺族厚生年金発生から65歳までの4年半、繰り上げた老齢基礎年金や老齢厚生年金が受け取れないことが大きく響き、このような結果となりました。

麻耶さんは「80歳10カ月だったら別にいいかと思っていたのに、60代後半で逆転してしまうなんて……」とショックを隠せません。

繰上げ受給は他の年金との関係に注意!

2022年4月に繰上げの減額率は1カ月あたり0.5%から0.4%に改正され、その点繰上げしやすくなったのは事実でしょう。しかし、今回のケースのような遺族年金との調整など、繰上げについてのその他の注意点は特に変わっていません。繰上げの減額率ばかり注目しがちですが、こうした点は時に見落とされがちです。

繰上げ後、何が起きるかわかりません。今回の遺族年金との調整など、繰上げの減額率以外の注意点について、自身に該当しそうな点も理解したうえで繰上げする必要があると言えるでしょう。

※プライバシー保護のため、内容を一部脚色しています。

五十嵐 義典/ファイナンシャルプランナー

よこはまライフプランニング代表取締役、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP®認定者、特定社会保険労務士、日本年金学会会員、服部年金企画講師。専門分野は公的年金で、これまで5500件を超える年金相談業務を経験。また、年金事務担当者・社労士・FP向けの教育研修や、ウェブメディア・専門誌での記事執筆を行い、新聞、雑誌への取材協力も多数ある。横浜市を中心に首都圏で活動中。※2024年7月までは井内義典(いのうち よしのり)名義で活動。

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