実は頼りになる味方! 確定拠出年金(DC)加入者は「コールセンター」をフル活用してみよう
Finasee / 2024年9月30日 12時0分
Finasee(フィナシー)
8月の株価下落に際して、確定拠出年金(DC)コールセンターにはいつにも増して加入者からの電話が入っていました。どんな問い合わせが多かったのかというと、「ご自身の保有資産と残高を知りたい」というものです。
残高の問い合わせが多い理由残高通知は、年1回以上発行することが法定化されていますが、レコードキーパー※が書類を作成して郵送という作業を経るため、加入者の手元に届くのは作成から1カ月近く時間が経ってからとなります。加入者専用のWEBサイトには、日々の基準価額が反映されていますが、DC口座番号やパスワードが分からなければ、アクセスができません。そこで市場が大きく動いた場合など、現時点の残高を確認したい加入者からコールセンターに問い合わせが入ることになります。
残高を確認した加入者の方は、次に「このまま投資信託を持っていていいのでしょうか?」と質問されます。DCの運営管理機関には投資アドバイスが禁止されているため「いい」「悪い」という回答はできませんが、質問された方の年齢やリスクの捉え方から現状を再確認いただけるような情報を提供します。
例えば30代であれば、「受け取りまで時間があるので、積立投資なら値段が高い時には少なく、安い時には多く購入できるメリットがあります」。50代後半であれば、「年代が上がっていくにしたがって株式割合を減らすなど、リスクを抑えた運用に変えていくことが一般的です」といった具合です。
「コールセンター」というと、クレーム対応や注文受付のイメージがありますが、DCコールセンターの場合はさまざまな疑問や相談にも応じているわけです。
※加入者の情報を包括的に管理している企業。日本のDCの場合は4社に集約されている
iDeCoの普及で企業型DCに関する質問も増加一方で、時期によらず多い質問は手続き面と移換についてです。企業型DCのある企業を退職し、何らかの手続きが必要という認識はあるがよく分からないという方が多いのが現状です。
iDeCo(個人型確定拠出年金、イデコ)の普及によりDC制度が定着してきた感はありますが、逆に企業型DCとiDeCoが同じ法律で成り立っている制度であるという点は浸透していないようにも思われます。そのため、ご自身で調べても分からなくなってしまうことが多いようです。
同様にiDeCoの普及により増えている問い合わせが年末調整関連です。企業型DCのマッチング拠出をしている方からの「年末調整の書類はどうやって受け取りますか?」という質問が増加傾向にあります。企業型DCの場合、年末調整や確定申告などの税の手続きは不要です。問い合わせをされる加入者の方の発想は、次のようなものではないかと思われます。
・iDeCoとマッチング拠出の税優遇メリットは同じ
↓
・iDeCoは掛金を給与天引きにしていない限り、自身で税の手続きが必須
↓
・マッチングも年末調整が必要なのではないか?
特に2022年10月の法改正以降、企業型DCの加入者であってもiDeCoに加入することが可能となったため(※)、問い合わせが増加しています。企業型DCの担当者の方々には、マッチング拠出は税の手続きが不要であることを加入者の皆さんに再度、周知いただけると幸いです。
なおiDeCoの加入者が年末調整や確定申告に使う書類(小規模企業共済等掛金払込証明書)は、例年10月末から郵送がスタートします。昨年からは、マイナポータルが使える場合は小規模企業共済等掛金払込証明書を電子データで受け取ることが可能になりました。
※企業型DCでマッチング拠出をしておらず、拠出額が毎月の拠出限度額内である場合
法改正により増える問い合わせコールセンターが忙しくなりそうな法改正があります。2024年12月から確定給付型の制度のある事業所にお勤めの方は、iDeCoの拠出限度額が変更になります。具体的には下記のとおりです。
5.5万円 -(企業型DCの事業主掛金額+他制度掛金相当額)≧2万円→2万円以下
5.5万円 -(企業型DCの事業主掛金額+他制度掛金相当額)<2万円→その金額以下で5千円以上千円単位
この「他制度掛金相当額」は、確定給付型の制度の事業主負担分を毎月の掛金に置き換えた金額のことで、規約で決まっています。会社員の場合、他制度掛金相当額は加入する確定給付企業年金(DB)ごとに異なるため、一概にはいえません。公務員の場合、他制度掛金相当額は下記のとおり公示されています。
・私立学校教職員共済:7000円
・石炭鉱業年金基金:9000円
・国家公務員共済組合:8000円
・地方公務員共済組合:8000円
例えば、地方公務員であれば、5.5万円-8000円=4.7万円となり、2万円よりも大きいため、iDeCoの拠出限度額は2万円となります。
今回の法改正前から公務員のiDeCo加入率は高く、全員の拠出限度額が上がるため拠出を増やしたいという要望も多いようです。そのため、9月から国民年金基金連合会が事前受付を開始しました。10月末までにiDeCoの受付金融機関に書類が届けば、2025年1月引き落とし分から掛金引上げとなります(申込多数の場合は10月末を前に終了という注意書きもあります)。
相談機能を生かしたい「受取方法」DCは、制度導入から20年以上が経過したため、「受取方法」に関する問い合わせも増えてきました。例えば、次のようなものです。
・いつから受け取れるのか?
・公的年金と同じタイミングで受け取るのか?
・一時金と年金はどう違うのか?
・受け取り方で税金が違うのか?
「受取方法」で問い合わせされる方の場合、「誰に聞いたらいいのか分からない」という状況にあるようです。そのため58歳ぐらいから、60歳以降のライフプランを立てることが重要です。
・仕事のリタイア時期
・公的年金の受取時期
・支出の見込み
上記の項目について60歳以降の収入と支出をイメージすることで、DCも含めた退職金制度をどう活用するのかを決めることができます。DC制度の普及に伴い、現役時代の「いかに運用するか」だけではなく、「どう受け取っていくのか」を考える必要性が高まっています。現に野村證券のDCコールセンターにも受取方法に関する相談が多数寄せられています。
津田 弘美/野村證券株式会社 確定拠出年金部
社会保険の専門出版社において、企業年金分野の編集記者として厚生労働省記者クラブ等に所属。厚生年金基金の隆盛期から企業年金2法の成立等を取材。その後、野村年金サポート&サービス(現在は野村證券に合併)に入社。確定拠出年金の運営管理業務に10年以上にわたり従事し、投資教育の企画立案、事業主サポート等を担当。業務の傍ら、横浜国立大学大学院において、理論と実務の両面から企業年金制度についての考察を行う。横浜国立大学大学院国際社会科学研究科博士課程後期課程修了(経営学博士)。
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