さえない中国株価…その根本的な要因は何で、ポートフォリオに中国株が入っている場合はどうしたらいいか
Finasee / 2024年9月20日 17時45分
Finasee(フィナシー)
中国国家統計局が7月15日に発表した、2024年上半期(1~6月)の実質GDP成長率は、前年同期比5.0%でした。政府目標は5.0%前後とされているので、一応はそれを死守したことになりますが、2024年第1四半期(1~3月)の前年同期比5.3%に対して、第2四半期は4.7%に減速しています。
年間を通じて、政府目標である5.0%成長を維持できるかどうかは、少し微妙です。野村総合研究所のレポート「世界経済の中期見通し:中国経済が世界経済の重石に」(4月25日 木内登英氏)によれば、2024年の実質GDP成長率は4%台まで低下することを見込んでいます。
振り返ってみると、多少の上下はあるものの、中国経済が10%台の高成長を維持していたのは、2010年くらいまでのことです。
それ以降の実質GDP成長率は10%に乗せることなく、徐々に低下傾向をたどっていきました。2021年は8.45%と高めの数字が出ていますが、これはコロナ禍の反動で、2020年の実質GDP成長率は2.24%まで落ち込んでいました。それと同様に、2023年は5.24%でしたが、これも2022年に行われたゼロコロナ政策によって経済活動が大きく制限され、同年の実質GDP成長率が2.99%まで落ち込んだことの反動といっても良いでしょう。
そして2024年は、コロナ禍による経済活動の制限が一切、2023年中には行われていなかったので、反動高には期待できません。そのため、2024年下半期には中国経済を巡るさまざまな問題点が生じ、経済成長率は政府目標である5.0%を下回ると見られています。ちなみにIMFによる2024年4月時点の推計値によると、2024年の実質GDP成長率は、4.6%とされています。
経済がスローダウンした時、それが景気のサイクルによるものであれば、時間の経過と共に回復へと向かいます。
しかし、問題なのは構造的な変化によってスローダウンしている時です。そして中国の場合、今起こっている経済活動のスローダウンは、まさに後者によるものと考えられます。ここが最も懸念されるところです。
余剰労働力×安い賃金による「世界の工場」もいよいよ限界が2010年以降、なぜ中国経済の実質GDP成長率が10%に乗らなくなったのでしょうか。
中国経済が10%成長を続けていた時期、中国は「世界の工場」と呼ばれていました。それは人口が極めて多かったので、余剰労働力を活かして安い賃金で働かせ、安い製品を世界中に輸出していたからです。欧米各国、日本も含めて多くの先進国の企業は中国に製造拠点を設け、安い人件費で安価な製品を製造し、そこから世界中に輸出し続けました。2020年前後まで世界的にディス・インフレの状態が長きにわたって続いたのは、こうした流れで中国を通じ、世界中に安い製品が輸出され続けたおかげとも言えるでしょう。
しかし、それもいよいよ限界を迎えつつあります。
まず中国の安価な労働力を支えてきた、農村部の余剰労働力が枯渇してきたことが挙げられます。当然、余剰労働力が減れば、賃金は値上がりしていきます。それは、中国が世界の工場として、安い製品を輸出しにくくなったことを意味します。
しかも、農村部の余剰労働力が減っただけでなく、中国全体の人口が、かつての一人っ子政策の弊害によって、減少し始めたのです。中国国務院の数字によると、中国の人口は2024年の14億2500万人程度から、2035年には14億人、2050年には13億人に減少すると計算しています。
それでも今後10年は14億人の人口は維持される見通しですが、これまでひたすら人口増を続けてきた国が人口減少に転じるのは、極めて大きな構造転換です。
地政学リスクにより、外資マネーが退避しているこれに加えて、先進国が中国に製造拠点を設け、そこから世界に安価な製品を輸出するという、これまで世界的なディス・インフレ要因だったビジネスモデル自体が、機能しにくくなってきました。その原因は中国の地政学リスクです。
三菱UFJリサーチ&コンサルティングの経済レポート「空回りする中国の外資誘致策」(9月6日 丸山健太氏)によると、「直近2024年4~6月期の中国の対内直接投資(ネット)は▲148億ドルと、外資企業の撤退や資金回収が新規投資を上回った。四半期ベースで遡及可能な1998年以降、流出超は2023年7~9月以来2度目で、流出超過額は過去最大を記録した」とされています。
また同レポートでは、日本からの対中直接投資とその実行、回収の数字がグラフで示されていますが、それによると対中直接投資の実行額は2021年をピークにして減少に転じているのと同時に、2019年以降は投資の回収額が増加傾向にあることを示しています。
これまで中国経済の成長を支えてきた外資が、中国への投資を控えているだけでなく、回収にかかっているのです。
こうした中国への投資マネーの流れが逆転しつつあることも、中国経済に対して長期的・構造的に大きな変化をもたらす恐れがあります。それは決してポジティブな影響ではなく、ネガティブなものになるでしょう。
そして目先的な危機としては、不動産市況の悪化も無視できません。恒大集団(エバーグランデ)や中国碧桂園(カントリーガーデン)など不動産業者の経営難に見られるように、不動産市況の悪化が中国経済の先行き懸念を強めています。
ポートフォリオに中国株がある人はどうすればいいかこれらの要素から見て、中国経済が踊り場に来ているのは確かでしょう。ただ、それでも保有しているポートフォリオに中国株が入っている場合は、投資比率は下げるにしても、組入比率をゼロにしないことをお勧めします。
今は厳しい経済環境を反映してさえない中国株価ですが、どこで反転・回復するかは誰にも分かりません。
そもそもポートフォリオは、「起こらないかもしれないけれども、万分に1でも起こるかもしれないリスク」に備えて分散投資するためのものです。今は厳しい状況にある中国株ではありますが、いつ反転に転じるのかを考慮すると、全売却するのは止めた方が良いと思います。
鈴木 雅光/金融ジャーナリスト
有限会社JOYnt代表。1989年、岡三証券に入社後、公社債新聞社の記者に転じ、投資信託業界を中心に取材。1992年に金融データシステムに入社。投資信託のデータベースを駆使し、マネー雑誌などで執筆活動を展開。2004年に独立。出版プロデュースを中心に、映像コンテンツや音声コンテンツの制作に関わる。
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