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日本初の敵対的TOBはなぜ失敗したのか? 仕掛け人が語る合理性なき逆風の数々

Finasee / 2024年10月9日 18時0分

日本初の敵対的TOBはなぜ失敗したのか? 仕掛け人が語る合理性なき逆風の数々

Finasee(フィナシー)

株主の利益を最大限に追及する「モノ言う株主」。

モノ言う株主たちによる敵対的買収がメディアを騒がせることもあり、「強欲」「カネの亡者」とネガティブな印象がつきまといます。一方で近年、モノ言う株主たちが主張してきた企業統治(ガバナンス)の透明性、PBR1倍割れ改善などが実現されてきています。

新NISAが始まり、多くの方が新たに個人投資家となりました。株主となった立場では、これまでのイメージが変わってくるかもしれません。今回は村上ファンド創業メンバーの一人である丸木強氏の著書『「モノ言う株主」の株式市場原論』からモノ言う株主の投資哲学を紹介します。(全4回の1回目)

※本稿は、丸木強著『「モノ言う株主」の株式市場原論』(中央公論新社)の一部を抜粋・再編集したものです。本稿の情報は、書籍発売時点に基づいています。

日本の敵対的TOBはなぜ難しかったのか

振り返ってみれば、日本で初めて敵対的TOBを行ったのは、かつて私が創業メンバーだった村上ファンドでした。同ファンドにとってもほぼデビュー戦で、対象企業は不動産会社の昭栄(現・ヒューリック)、2000年のことです。

当時、同社の時価総額は50億円ほどでしたが、キヤノン株や多くの賃貸用不動産等を保有し、その資産総額は時価総額の何倍もありました。つまり、株価は明らかに割安で評価されていたわけです。

同社の社長は代々富士銀行(現・みずほ銀行)の出身者で、いわゆる芙蓉グループの富士銀行、安田生命、安田火災などとキヤノンが大株主でした。村上氏は事前に昭栄の大株主に話をしましたが、各社ともに「反対」とも「応募する」とも明確には答えなかったようでした。ただし当の昭栄は、我々がTOBを発表した翌日に「反対」を表明。かくして「敵対的」の構図になってしまったわけです。

ところが、TOBを公表したとたんに昭栄の株価は急騰します。我々が公開買付け価格として提示した額より高い価格がついたため、我々のTOBへの応募株数はわずかでした。結局、このTOBは失敗に終わります。

このとき私が実感したのは、日本における敵対的TOBの難しさです。政策保有株主=安定株主は、それまでの株価より高い価格を提示するTOBであっても、ほぼ応募してくれません。なんとなく予想はしていましたが、やはりそのとおりでした。

その状況は、最近まではあまり変わっていませんでした。敵対的TOBが成立する可能性があるとすれば、自分たちだけですでに30~40%の株を取得している場合、もしくは株主構成が分散していて、特に外国人の株主比率が高い場合、あるいは経営陣に不祥事があった場合などに限られました。

少なくとも今までは、敵対的買収者の場合は公開買付け代理人となる証券会社も限られ、買収者のアドバイザーにはならないと公言している証券会社、金融機関、弁護士事務所なども多かったのです。

「同意なき買収」は増えるのか

しかし、2023年8月に経済産業省が発表した「企業買収における行動指針」では、「敵対的買収」を「同意なき買収」との呼称に変えました。背景には、企業買収を活性化させて成長を促そうという意図があります。仮に買収する側とされる側の経営者が「敵対」していても、買収によって企業価値が向上する可能性があるなら真摯に対応すべきで、過度な買収防衛は控えなければならない、買収される側の経営者が「同意」しなくても、最終的に是非を判断するのは株主である、というわけです。

この「指針」に呼応するように、2023年7月にニデックがTAKISAWAに対して同意を得ないまま買収を提案。結局TAKISAWAの取締役会は同9月に同意し、友好的買収になりました。このように事前の同意がなくても、対象会社の取締役会が買収公表後に同意すれば、友好的買収としてスムースにいくようになるでしょう。

また同12月には、すでにエムスリー(医療関係者向けの専門サイトなどを運営する企業)との間で友好的買収に同意していたベネフィット・ワン(福利厚生・人事サービス)に対し、第一生命がより高い公開買付け価格での「同意なき買収」の意図を公表。結局、2024年2月には、第一生命がベネフィット・ワンを友好的に買収することになりました。今後は、こうした事業会社どうしの買収戦は増えていくかもしれません。

注視すべきは、対象会社の取締役会が「同意なきまま」で買い手が大手事業会社ではない場合です。今まで大手の証券会社、銀行、弁護士事務所等は、(買い手が大手事業会社などの既存の顧客ではないかぎり)敵対的買収者側には付きませんでした。実際、独立系のファンドが敵対的買収を行おうとしても、彼らの多くはアドバイザーになることを拒否してきました。「指針」がその行動をどう変化させるかは、今後の「同意なき買収」の増減にも影響を及ぼすでしょう。

また株主の変化にも期待したいところです。買収対象会社の政策保有株主のみならず、一部の国内の機関投資家は、これまで敵対的買収によって時価より高い価格で売却できる機会があっても無視してきました。そこに合理性がないことに、そろそろ気づいてもらいたいものです。

●第2回は【「本業はイマイチでも、不動産は安定しているから…」はNG。上場企業が不動産賃貸業に手を出してはいけないワケ】です。(10月10日に配信予定)

「モノ言う株主」の株式市場原論
 

著者名 丸木 強

発行元    中央公論新社

価格 924円(税込)

丸木 強/ストラテジックキャピタル代表取締役

東京大学法学部卒業後、野村證券株式会社にて、主に日本企業や政府関係機関の資金調達案件の引受、大型民営化企業のIPO、邦銀への資金注入に際しての政府関係機関のアドバイザー、米国企業の日本の上場子会社に対する公開買付代理人などの業務を担当。1999年、株式会社M&Aコンサルティング(後のMACアセットマネジメント)の創業メンバーの一人として、日本初となるアクティビストファンドの運用に従事。2012年に株式会社ストラテジックキャピタルを設立、代表取締役に就任、同年12月からアクティビスト戦略のファンド運用を開始。国際コーポレート・ガバナンス・ネットワーク(ICGN)メンバー

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