“お受験” 成功者のアラフォー男性が、わが子の中学受験に「複雑な思い」を抱く意外な理由
Finasee / 2024年9月30日 20時0分
Finasee(フィナシー)
小野田健斗(41歳)は、息子・悠人(11歳)の成績表を見て、ため息をついた。妻の麻美(39歳)から成績表を見せられた当初は、夏の成績表よりも明らかにレベルダウンしている内容に怒りが込み上げてきたが、妻からもさんざん絞られたであろう悠人のうつむいた姿を目の前にして何と言ってやればよいのかわからなかった。
自分自身が付属小学校からエスカレーター式に大学まで進学した小野田にとって、中学受験は無縁だった。最初は、親と同じ学校を選ぶ必要もないとお受験を見送ったものの、麻美の強い希望に根負けする形で、悠人の中学受験への準備を始めることになったのだった。それから3年が経過し、いよいよこの冬、悠人の受験が迫っていた。
名門一貫校で感じた「ヨソモノ」扱い小野田がその小中高大学一貫の学校に小学校から入学したのは、父親の強い希望からだった。父親は技術屋として、そのスキルを認められて社会人としての地位を得ていったが、学閥どころか学歴もなく、その歴史ある財閥系企業の中で出世するほどに疎外感を味わい、砂をかむような会社員人生を送った。
そこで、息子には自分と同じ思いをさせたくないと、国内でも多くの人が一流と認めるその学校に進学させたいと願った。残念ながら長男は受験に失敗し、次男は大学進学時にその学校に入学し、三男である健斗は小学受験を突破することができた。長男、次男で至らなかったことを改善した結果が、健斗の成功につながったと父親は大喜びだった。
ところが、そこで学んだ小野田は学内で「ヨソモノ」として区別されている自分を感じ続けていた。同級生は祖父母の代から、その学校で学んでいるような子供ばかりだった。小野田の知識や学習能力については一目置くような態度だったが、仲間の輪からはことごとく除外されていた。小野田は、そのことを父親に話したものの、父親には「大事なことは卒業することだ」と諭され、長く味気ない学生生活を送った。
望んだわけはない「世界金融危機」と「大震災」そして、希望する大手企業グループの主要企業の1社に就職することができたものの、入社して3年と経たずに「リーマン・ショック(世界金融危機)」を迎え、大規模なリストラが断行された。小野田たちのような社歴の短い若手社員は一律で給与の20%カットが行われ、非正規社員は契約の打ち切り、中堅以上の社員の半数には給与水準が格段と下がる子会社への出向などが命じられた。その結果、社員の退職が相次いだ。小野田が世話になっていた先輩社員も退職し、小野田の帰属意識は霧散した。
「リーマン・ショック」による縮こまるような日々がようやく一段落したと思えた2011年3月、東日本大震災が起こった。自宅に帰る電車が止まってしまい、自宅に向かって歩いて帰るうちに、小野田は会社勤めがつくづく嫌になった。とはいえ、働かないと食べていけない。あれこれ思い悩んだ末に独立色の強い保険の代理店を始めた。
保険や資産運用については大学時代のサークル活動でかじったことがあった。小野田は、自らの決断が価格の上昇や利回りの向上という、確認できる数値に跳ね返る金融サービスの世界は好きだった。銀行や証券会社に就職するつもりはなかったが、さまざまな就職情報を調べる中で一番やってみたいと思えたのが「ファイナンシャルプランナー」という職業だった。日本では独立した業としては成立していなかったが、それに最も近い職業が保険代理店だった。
教育をめぐり、夫婦で掛け違う「親の務め」小野田が保険代理店を始めた頃、第二次安倍内閣が発足し、「アベノミクス」の株価上昇によって国内の景気も明るくなってきた。小野田はその頃から注目されだしたIFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー)をめざして投資信託の販売資格を取得し、保険代理店と兼業することにした。その結果、保険代理店の経営も安定し、やっていく自信が持てるようになった。学生時代に知り合い、その後、交際していた麻美に結婚を申し込むことができた。まもなく悠人が生まれた。そして、悠人の教育を巡って夫婦の考えが大きく異なることを知って小野田は愕然とした。それは……。
学歴にこだわる妻と、自分の経験からのびのび過ごしてほしいと望む夫。下がり続ける息子の成績に、ついには!? 後編【「このままでは“全落ち”!?」「息子がグレたらどうしよう」。中学受験を前に、二転三転した家族の運命】にて、詳細をお届けします。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
風間 浩/ライター/記者
かつて、兜倶楽部等の金融記者クラブに所属し、日本のバブルとバブルの崩壊、銀行窓販の開始(日本版金融ビッグバン)など金融市場と金融機関を取材してきた一介の記者。1980年代から現在に至るまで約40年にわたって金融市場の変化とともに国内金融機関や金融サービスの変化を取材し続けている。
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