「このままでは“全落ち”!?」「息子がグレたらどうしよう」。中学受験を前に、二転三転した家族の運命
Finasee / 2024年9月30日 20時0分
Finasee(フィナシー)
<前編のあらすじ>
小野田健斗(41歳)は、息子の悠人(11歳)の中学受験に向けた模擬試験の結果に頭を抱えていた。試験本番まで半年もない今の段階で、志望校すべてに合格圏外の判定だった。5年生までは、いくつもの学校に合格可能な成績を残していたのに、肝心の6年生になってから月を追うごとに成績が下がっていた。
小野田としては、無理に付属中学に入れなくてもよいという考えだったが、妻の麻美が付属中学にこだわっていた。
●前編:【“お受験” 成功者のアラフォー男性が、わが子の中学受験に「複雑な思い」を抱く意外な理由】
「ジュニアNISA」が続いた8年間で…小野田は、自身の経験があったので、お受験の必要性を感じなかった。むしろ、子どもの間は、子どもの時間を体験することが大事だと感じていた。小野田は小学校から一貫校に入ったおかげで、子どもらしい子どもの時代を知らないという思いがあった。このため悠人のお受験には反対した。ところが、麻美は悠人を小学校から一貫校に入れたいと強く願っていたというのだ。まるで小野田が父親から聞いていたようなことを、麻美も自身の父親から聞かされて育ったという。そして、子どもにきちんと教育を受けさせるのは『親の務め』と固く信じていた。
小野田は、『親の務め』として悠人に十分な教育を受けさせたいと考え、子どものために資産形成する「ジュニアNISA」が始まった2016年1月から悠人のために毎月3万円を日経平均株価に連動するインデックスファンドに積立投資していた。非課税期間の5年間が経過した後、引き続き非課税口座を使うロールオーバーをして、「ジュニアNISA」が使用可能な2023年12月まで合計288万円を積み立てた。その間に株価が上昇したおかげで、2023年12月末時点の評価額は約423万円になっていた。
2024年1月から新NISAが始まった関係で「ジュニアNISA」は廃止されたが、積み立てた資産は、そのまま投資収益が非課税になる「継続管理勘定」で保有し続けていた。2024年になって一段と株価が上昇したため評価額は約486万円になっている。この継続管理勘定の資金はこのまま、悠人が18歳になるまでキープしていればよいと思っていた。例えば高校を卒業する時に、海外留学したいという希望を持ったとしても、それに応えてやれる資金の準備はしておきたかった。
(出所)投資信託協会のファンドデータを使って筆者作成。2016年1月末~2024年8月末
「エリート」だと思った男の行く末麻美は、父親から学歴のないことの不利益を幼いころから聞かされて育った。両親の期待に応えようと勉学に励み、都内でトップクラスの大学に合格した。学生時代に小野田と知り合った時、小野田が大学付属の小学校から上がってきた「内進生」であることに魅力を感じ、大学を卒業してからも付き合いが続いたのも同じ理由からだという。麻美は「私は、エリートの妻になりたかった」と言った。そして、「あの会社を辞めてしまうなんて思いもしなかった」と苦笑いした。自分の人生の計画がめちゃくちゃになったというのだ。小野田は一瞬冷や汗をかいたが、そのあと麻美は明るい顔で「それでも、前と変わらないように暮らしていけているし、あなたは前よりも朗らかになった。どちらかというと今の方が好きかな」と言った。
小野田は麻美に、悠人のために用意したお金と、その使い方について自分の考えを話した。「子どものためにできるだけのことをしてやりたいと思う気持ちは同じだ。ただ、生きていく道を1つに決めることはないと思う。受験もチャレンジさせればいいと思うけれど、たとえ不合格になったとしても、それが何ほどでもないということも教えよう。大事なことは、目標を持つこと、その目標に向かって努力すること。そして、簡単にはあきらめないことだ。悠人が何をして生きていきたいのかなんて、今の悠人にわかるはずもないだろうが、それを見つける手助けをしてあげよう。そのくらいが、僕たちにできることだと思う」と自分の考えを伝えた。
一難去ってまた一難?「ゆとり」の接し方が子供の「油断」にNISAの積み立ての話をきっかけに、子育ても含めた夫婦の会話をもったことで、麻美は悠人にイライラすることはせず、ゆったりと接するようになった。
ただ、悠人の成績は戻らなかった。受験に対する両親の思いが変化したことを敏感に感じて油断をしたのか、悠人の生活態度まで変わってきた。小野田は「なるようにしかならない」「いざとなれば公立中学に行けばいい」と放任の考えだったが、麻美は悠人が心配でならなかった。悠人の今の成績では、“中学受験全落ち”もありうる。「このまま悠人がグレてしまったらどうしよう」と考えると朝方まで眠ることもできないような日が続いて、ついには体調を崩して寝込んでしまった。
麻美が寝込んだことに一番びっくりしたのは悠人だった。母親が食事を準備し、家事全般を引き受けてくれていることが当たり前だと思っていた悠人は、突然、すべての家事がとどこおって、家の中が暗くジメジメしてきたことにいたたまれない思いがした。悠人は麻美が寝込んだ理由が自分にあることは十分に感じていたので、ベッドに横たわる麻美の枕元で生活態度を改めることを誓った。
麻美は悠人に「心配かけてごめんね」と笑顔を見せ、悠人を両親ともに大事に思い応援している気持ちを伝えた。悠人は、その言葉を聞いて自分が両親の期待や信頼を失ってしまったわけではないことを知った。そして、両親から期待を寄せられていることが悠人にとって喜びだということをかみしめたのだった。
最後は、家族で笑う日々に…悠人はなんとか第三希望の私立中学に合格した。麻美の枕元で誓った通り、生活態度を改め、遅まきながら勉強をやり直した結果だった。
体調を戻した麻美と、小野田は再び話し合った。小野田は、悠人のための資産形成が一段落したため、今度は自分の口座で資産作りをはじめていた。「今いくら稼げるかも大事だが、資産も運用して増やすことで資産にも稼いでもらうことができる。1人で2人分の稼ぎ手を持っていると考えると、いろいろと可能性が広がるよ」と麻美に言った。
「麻美もカフェをやりたいと言っていたじゃない。何とかやりくりして今まで仕事を続けてきたけど、カフェのオーナーになるという夢はあきらめたの?」と真顔で聞いた。麻美は「いや、そんなことないけど…」と言い返した。
二人は最近にはなかったと思うほど、それからの人生の計画について話し続けた。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
風間 浩/ライター/記者
かつて、兜倶楽部等の金融記者クラブに所属し、日本のバブルとバブルの崩壊、銀行窓販の開始(日本版金融ビッグバン)など金融市場と金融機関を取材してきた一介の記者。1980年代から現在に至るまで約40年にわたって金融市場の変化とともに国内金融機関や金融サービスの変化を取材し続けている。
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