「円高→日本株は売られる」が“よく見る展開”だったのに…ドル円140円台でも日本株の調子がいい“意外な理由”
Finasee / 2024年9月27日 18時55分
Finasee(フィナシー)
米国がいよいよ利下げに。しかも0.5%の引き下げ…
9月18日、米国の中央銀行であるFRB(連邦準備制度理事会)が、政策金利を0.5%引き下げました。これによって米国の政策金利の誘導目標は、4.75%~5%になります。
米国の市中銀行は連邦準備銀行に、預金残高の一定割合を「準備金」として預託することが義務付けられています。この準備金が不足している銀行は、逆に準備金が余っている他の銀行から一時的に資金を借り入れ、準備金を預託します。この貸し借りに適用される金利が、FFレートです。そして連邦準備銀行は、公開市場操作によってFFレートを、FRBが決定した誘導目標に誘導します。
FRBがFFレートの誘導目標を引き上げると、世の中全体が金融引き締めとなり、景気過熱やインフレを抑制しつつ、長期金利を上昇させます。反対にFFレートの誘導目標を引き下げると金融緩和となり、景気を刺激させるのと共に物価下落に歯止めをかけ、長期金利を低下させます。
では、これまでFFレートはどのように推移してきたのでしょうか。FRBが公表している、FF市場における取引金利の加重平均値である実効FFレートで見てみましょう。
極めて長期の推移を見ると、1954年11月の0.83%から1981年1月の19.08%まで、途中の上下動はあるものの、上昇トレンドをたどった後、2014年2月には0.07%まで低下しました。
そして2019年4月には2.42%まで上昇しましたが、新型コロナウイルスの世界的感染拡大によって、2021年5月には0.06%まで低下。2022年3月から徐々に水準を切り上げ始め、2023年8月には5.33%まで上昇しました。
ちなみにFFレートの誘導目標は、2022年3月に0.25%~0.50%に引き上げられた後、10回にわたって引き上げられ、2023年7月に5.25%~5.50%となり、そこから2024年7月まで変わらず、同年9月に4.75%~5.00%へと引き下げられたのです。
このように過去の推移を見ると、今回の利下げは4年半ぶりになります。しかも、FRBが金利の上げ下げをする際には0.25%幅が通常のところを、今回は0.50%幅の利下げでした。これが意味することは何なのでしょうか。
そもそも2022年の春先から、10回にわたってFFレートの誘導目標を引き上げてきたのは、インフレが加速したのに加えて、想定していた以上に景気が強かったからです。
消費者物価指数の前年同月比は、2022年9月に8.2%まで上昇していましたが、2024年7月には2.9%、同年8月には2.5%まで低下してきました。
また、景気の動向に大きく影響する雇用統計の数字を見ると、非農業部門雇用者数の前月比は、2023年1月に51.7万人増と大きく跳ね上がった後は、大体15万人増から30万人増で安定的に推移していたのが、2024年7月は11.4万人増、同年8月は14.2万人増というように、やや低迷してきました。それにともなって失業率も、2024年4月まで3%台だったのが、同年8月には4.2%まで上昇してきています。
米国ではGDPの7割を個人消費が占めるので、雇用情勢が景気に大きく影響するのは言うまでもありません。したがって、雇用情勢にやや陰りが見え、かつ消費者物価指数が落ち着き始めた今が、いよいよ利下げのタイミングということなのでしょう。
マーケットは、今回の利下げを好感しています。たとえばNYダウを見ると、8月30日に4万1585.21ドルをつけて高値を更新した後、9月11日には3万9993.07ドルまで調整しましたが、そこから再び最高値を更新して上昇を続けています。ちなみに9月24日には4万2281.06ドルの高値をつけました。
米国の利下げを受けて、日本株は上昇した一方、日本の株式市場はどうでしょうか。
米国株式市場との連動性が強い日本の株式市場にとって、米国株価の上昇はポジティブです。日経225平均株価を見ると、米国で利下げが発表された翌日、9月19日は735円高となり、その後も上昇して24日には3万8427円をつけています。直近安値が9日の3万5247円なので、この間に9%の上昇率となりました。
確かに、7月11日につけた最高値、4万2426円にはほど遠いのが現状ですが、単純に8月5日のボトムからの上昇率では、日本株は米国株を上回っています。
8月5日のNYダウの底値は3万8499ドルで、9月24日の終値が4万2208ドルですから、この間の上昇率は9.63%です。
対して日経225平均株価の8月5日底値が3万1156円で、9月24日終値が3万7940円ですから、この間の上昇率は21.77%にもなります。
日本の金利は上げていく方向。つまり日米の金利差は縮まり円高に話は前後しますが、米国が利下げを行う一方、日本は今後、どのような金融政策を取っていくのでしょうか。
日銀の金融政策の決定に関わる田村直樹審議委員は9月12日、岡山市の講演会で「物価の安定に向けて政策金利を少なくとも1%程度まで段階的に引き上げる必要がある」という考えを示しました。
日本の政策金利は「無担保コール翌日物金利」です。その誘導目標は7月31日の日銀金融政策委員会で引き上げられ、0.25%となりました。これを2026年度までの見通し期間の後半までに1%程度まで引き上げるということです。
米国が利下げを行う一方、日銀が利上げに向けて動くとなれば、日米の金利差は縮小します。米ドル/円は7月3日に1ドル=161.95円まで米ドル高・円安が進みましたが、この一番の理由は、日米金利差の拡大にありました。
ということは、逆に日米金利差が縮小するとなれば、米ドル安・円高圧力が強まるはずです。実際、米ドル/円は日米金利差の縮小を先取りして織り込むかのように、米ドル安・円高が進み、9月16日には1ドル=139.58円をつけました。
しかし、日銀が政策金利を1%程度まで引き上げるとしても、それは2026年度に向けての話ですし、米国の0.5%利下げはサプライズでしたが、今後、FRBがどこまで利下げを継続するつもりでいるのかは、まだ見えてきていません。
たとえ円高になっても、日本株は堅調に推移これらの点を総合的に考えると、現時点において、米ドル/円や株価がどの方向に進むのかを結論づけるのは難しいのですが、1ドル=161円台から140円割れまで米ドル安・円高が進むなか、日本の株価が底堅く推移している点には、注目したいと思います。
前述したように、日経平均株価は米ドル安・円高が進むなか、8月5日のボトムから9月24日までで、21.77%も上昇しました。本来、ここまで米ドル安・円高が進めば、「円高で業績が悪化する」といった見方が強まり、日本株は売られやすくなるというのが、これまでの流れでした。
ところが、日経225平均株価はボトムから大きく回復しています。
基本的に円安は、日本企業の購買力を削ぎます。1ドル=161円まで米ドル高・円安が進むなかで、それを痛いほど実感したのは、恐らく企業セクターでしょう。それが米ドル安・円高へと修正されれば、日本企業の購買力が強まります。円が強くなれば、海外企業の買収も自由に行えるなど、経営の選択肢が広がるのです。
そう考えると、米国の利下げと、それに伴って進んだ米ドル安・円高は、むしろ日本企業にとってポジティブな材料であり、それが日本の株価上昇につながっていると見ることができます。
鈴木 雅光/金融ジャーナリスト
有限会社JOYnt代表。1989年、岡三証券に入社後、公社債新聞社の記者に転じ、投資信託業界を中心に取材。1992年に金融データシステムに入社。投資信託のデータベースを駆使し、マネー雑誌などで執筆活動を展開。2004年に独立。出版プロデュースを中心に、映像コンテンツや音声コンテンツの制作に関わる。
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