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「焦って結婚しなければよかった」婚活で出会った“東大卒夫”のあり得ないモラハラ…アラフォー妻の「苦渋の決断」

Finasee / 2024年10月4日 17時0分

「焦って結婚しなければよかった」婚活で出会った“東大卒夫”のあり得ないモラハラ…アラフォー妻の「苦渋の決断」

Finasee(フィナシー)

キッチンに立つ春菜の手は、緊張で少し震えていた。今夜の夕飯に落ち度がないことを確認しつつ、手の中にあるメモを何度も読み返した。メモには、今までに夫・孝輔から受けた指摘が春菜自身の手で細かく記されている。

具体的な内容は、「肉より魚料理が好き」「野菜のゴロゴロ感が嫌い」といった孝輔の好き嫌いに関するもの。あるいは「一汁三菜を基本としたバランスの取れた献立であること」「品数は奇数であること」「だしは市販の物ではなく必ず自分でとること」「野菜は可能な限り国産の上質なもの」といった、献立や原材料についてのものまであった。

春菜はメモの内容を心の中で何度も繰り返し、グリルで魚を焼きながら、火加減を注意深く調整した。以前、孝輔に「焼き加減が悪い」としかられたことが頭をよぎる。ちょっとした焦げや、油の量まで厳しく指摘されたことを思い出すと息苦しくなった。

テーブルの上に並ぶのは、すでに完成した野菜の小鉢。いずれも、なるべく細かく刻んで食感を柔らかくしておいたし、味付けも薄味にならないよう孝輔の好みに合わせて入念に調整できている。

「これで大丈夫……なはず」

自分にそう言い聞かせながらも、春菜の心は落ち着かない。味が薄い、品数が足りない、野菜の切り方が雑――。少しでもミスがあれば、彼の目が冷たく細められ、固い声がヤリのように自分に向けられることを春菜は身をもって知っているからだ。

時計を見ると、もうすぐ孝輔が帰ってくる時間だった。間もなく玄関ドアの開く音が、まるで警報のように春菜の頭の中に鳴り響いた。

出会いは婚活イベント

アラフォーになり結婚に焦っていた春菜が孝輔と出会ったのは、1年前の婚活イベントだ。東大卒のエリートで、現在は自分で会社を経営している彼は、顔立ちもスタイルも洗練されていて完璧。知的で自信に満ちたその姿に、春菜はあっという間に心を奪われた。加えて孝輔は人当たりがよく穏やかで、春菜の両親にも常に礼儀正しく、にこやかに接してくれた。そのかいあって両親も孝輔に好印象を持ち、春菜たちは大勢に祝福されて夫婦になることができた。

ところが、結婚して一緒に暮らし始めてすぐに彼の「完璧主義」の本性が現れた。最初は、ほんのささいなことだった。「料理の味が薄すぎる」「掃除の仕方が甘い」といった指摘だ。

「春菜には僕の自慢の妻でいてほしいんだ」

笑顔で言われるたびに、春菜は自分が未熟であることを恥じた。そして、彼に認めてもらおうと必死に努力した。孝輔の指摘をまとめたメモは、その典型だろう。

しかし、孝輔の「助言」は次第に「指導」へと変わり、要求はどんどん厳しくなっていった。家事全般はもちろん、春菜の言葉遣いや姿勢までも口出しするようになった。春菜は徐々にストレスを募らせていったが、実家の田舎はおいそれと頼れるような距離にはなく、孝輔の会社経営ををサポートするため結婚を機に仕事を辞めていたこともあり、どこにも逃げ場がなかった。

「ところで、その人たちとは今後も付き合いを続けるつもり?」

夕食の片付けを終えた春菜がリビングのソファに腰を下ろすと、孝輔は突然スマホから顔を上げて言った。春菜は驚いて思わず孝輔の顔をまじまじと見つめた。

その日、春菜は友人と久しぶりに会っていた。みんなでランチを楽しみ、話に花を咲かせてきたばかりだったのだ。そのことを孝輔に話したのは、楽しい時間を共有したいという思いからだったが、まさか友達付き合いに口出しされるとは思っていなかった。

「え、もちろん彼女たちは友達だから……どうしてそんなこと聞くの?」

恐る恐る尋ねると、孝輔はさも当然と言いたげな声で続けた。

「だって春菜の友達、どう考えてもレベルが低すぎるんだよ」

「レ、レベルって……?」

春菜は戸惑いながら孝輔の真意を探ろうとしたが、彼の表情は変わらなかった。

「さっき話してただろう? 確か、1人はいまだに飲食店でアルバイトをしてるとか、もう1人は高卒のシングルマザーだとか。そんな連中と付き合って、君は何を得られるの? 低レベルな人間と一緒にいると、君の価値も落ちるよ。人は付き合う相手で決まるからね」

孝輔の言葉はナイフのように鋭く、春菜の胸に突き刺さった。彼はいつもこうだ。よく知りもしない春菜の友人たちの仕事や私生活を、あたかも自分より劣っているかのように断じるのだ。そして、そのたびに春菜の世界は狭められていく気がした。

「でも、私たちは昔からの友達だし、それに彼女たちは……」

和食屋でアルバイトをしている友人は、去年脱サラしたばかり。将来自分の店を開くために、今は知り合いの店で修行中だ。もう1人の友人は、夫の浮気が原因で離婚した。家庭の事情で大学には行けなかったそうだが、資格職に就いて立派に子供を育てている。そういう個々の事情を知りもしないで、彼女たちを見下してしまう孝輔が悲しく思えた。春菜は必死に反論を試みたが、孝輔はすでに話を終えたかのようにスマホに視線を戻していた。

「昔の話は関係ないよ。今の君は僕の妻なんだから、もっと品のある人たちと付き合うべきだ。そうでないと、僕も恥をかくことになる」

結局、春菜は何も言い返せなかった。孝輔の言葉には有無を言わせない響きがあったからだ。

彼の言う「恥」とは何だろう?

ただ気の合う友人と過ごすことが、そんなに大きな問題なのだろうか。春菜の心には重たい澱(おり)が積もっていった。

友人たちとの楽しかった時間が、孝輔の冷たい言葉に塗りつぶされてしまったようだった。

春菜の実家は農家だった

いつもの息苦しい夕食を終えて顔を上げると、孝輔が冷たい視線をこちらに向けているのが分かった。

「春菜、話がある」

その声色に、春菜の心臓が跳ねた。孝輔の声には、いつもの冷淡さに加え、何か決定的なものが含まれているようだった。春菜は皿を片付けながら、平静を装って夫の顔を見る。

「どうしたの?」

「今夜の料理、ひどかったよ」

その一言は、春菜の身体を硬直させた。まるで突然頭から氷水をぶちまけられたかのようだった。何度も試行錯誤して、メモを見ながら時間をかけて作った料理。それを全否定された瞬間、春菜の喉は締め付けられるような感覚に包まれた。

「……そ、そんなことないでしょ? だしもちゃんと効かせたし、野菜だって細かく刻んだ。孝輔が好きな味付けにしたつもりだったんだけど……」

声が震えながらも、春菜は必死に言い訳を並べた。しかし、孝輔は春菜の言葉をまるで聞いていないかのように、冷たく笑った。

「前にも言ったよね? 君の料理は食べる気がしないんだ。この1年、少しでも君の料理が上達するように助言してきたけど、これ以上はもう無駄だと判断したよ」

孝輔から淡々と語られる言葉は春菜の心を引き裂くようだった。何も言い返せない春菜に向かって、孝輔はさらに続けた。

「今後はキッチンに立たなくていい。家事代行サービスを頼んだから、料理はすべて彼らに任せる。それなら君も無駄な労力を使わなくて済むだろう」

「え……でも私、料理をするのは割と好きだし、知らない人が家に来るのはちょっと……」

やっと絞り出した言葉も、支配者である孝輔の前ではあまりにもろかった。

「好きかどうかは関係ない。大事なのは結果だよ。君は僕の期待に応えられなかった。それだけの話だ」

「でも......」

思わず口を開いたが、その後は続かなかった。唇をかみしめる春菜に孝輔の言葉は容赦なく降り注いだ。

「毎度君の実家から送られてくる野菜も邪魔だ。見た目も味も悪いし、田舎臭くて食べられたもんじゃない。今回届いた分は僕が処分しておいたから、今すぐ実家に電話して、2度と送ってこないよう伝えてくれ」

その言葉は、春菜の心をこれでもかと打ちのめした。春菜の実家は農家だ。毎月実家から送られてくる野菜は、両親が丹精込めて育てたもの。だが孝輔は、それを「処分しておいた」と簡単に言ってのけたのだ。彼が春菜の気持ちや実家を軽く見ている何よりの証拠だ。言い返さなければと思った。しかし開いた口は震え、言おうと思った言葉は喉の奥のほうでほどけてしまった。

「……分かった」

春菜は蚊の鳴くような声でつぶやくと、震える手でスマートフォンを取り出し、実家の固定電話を呼び出した。

●結婚してから姿を現した夫の「本当の顔」。春菜はDV夫から逃れることができるのだろうか……? 後編「両親になんて伝えたら…」実家から送られた野菜を勝手に処分する“完璧主義のモラ夫”を黙らせた「まさかの訪問者」】にて、詳細をお届けします。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

梅田 衛基/ライター/編集者

株式会社STSデジタル所属の編集者・ライター。マネー、グルメ、ファッション、ライフスタイルなど、ジャンルを問わない取材記事の執筆、小説編集などに従事している。

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