「気持ちよく」老後を過ごせる退職金のさまざまな受け取り方
Finasee / 2024年10月21日 11時0分
Finasee(フィナシー)
今回は、これまで退職金の受け取りに関する相談を受ける中で、私が考えさせられた視点や多角的な考え方から学んだことについてご紹介します。退職金の受け取り方、ひいては老後のよりよい暮らし方、生き方に悩む方の少しでもお役に立つヒントとなれば幸いです。
確定給付企業年金(DB)の受け取り方について、独自の選択をされた印象的な方が二人いらっしゃいました。
受取総額は減ってしまうのに…“予想外の理由”で一時金受け取りを選んだケースいよいよ退職が近づき、確定給付企業年金(DB)の受け取り方についてご相談に来られたご夫婦がいました。大手企業に長年勤められ、約2800万円ある確定給付企業年金(DB)についての相談でした。
これまで相談を受けた多くの方は「少しでも税金がかからないように退職金を受け取りたい」という方がほとんどでした。
基本的に退職金の受け取りには、勤続年数(企業型DCやiDeCoの場合は拠出年数)に応じて一定額まで税金がかからない、「退職所得控除」という税制的に優遇された仕組みがあります。
退職金にかかる税金は以下のように計算します。
出所:著者作成勤続年数が20年以上になると退職控除額が大きくなる仕組みです。しかも控除された残りの金額を2分の1にしてから税額を計算するため、実際の税負担は比較的少なくなりますが、「税金は1円でもかかってほしくない」という方が多いように感じます。
1点覚えておいていただきたいのは、「税金がいくらになるか?」という質問についてです。ファイナンシャルプランナー(FP)に聞けば分かるとお思いの方もいらっしゃるかも知れませんが、FPが具体的な税額を計算することは税理士法に抵触するためできません。、有料・無料を問わず、業務として禁止されているためご注意ください(税理士資格を持つFPは可能)。
退職金にかかる税金については、税理士に計算を依頼するか、計算ツールなどを使うもしくは、ご自身で計算する方法もあります。念のため、退職所得控除の早見表をご紹介いたします。この金額までなら退職金に税金はかかりません。ただし、企業型DC(確定拠出年金)など、他の退職金がある場合は影響を受けるのでご注意ください。
出所:著者作成おさらいはここまでとしてご相談者の話に戻ります。ご夫婦からは、「約2800万円の確定給付企業年金(DB)を一時金で全額受け取っても、将来に影響がないか?」というご相談でした。
税金や年金(分割)受け取りによる総額増加も理解されていた相談者は勤続37年で、全額を一時金で受け取る場合、退職所得控除額(1990万円)を超えるため税金がかかることは理解されていました。また、確定給付企業年金(DB)を年金のように分けて受け取った方が受取総額は増えることも理解されていましたが、一時金での受け取りを希望されていました。
ご希望をもとにキャッシュフロー表(ライフプランシミュレーション)を作っていくのですが、預貯金などもかなりお持ちであり、一時金で急いで受けらないといけないほど困っている状況ではないようでした。
そこでお節介かもしれませんが、2つのシミュレーションを提示しました。1つはご要望どおり一時金で受け取るパターン、もう1つは確定給付企業年金(DB)を一時金と年金の組み合わせで受け取るパターンです。
一時金で受け取った場合、一時金と年金を組み合わせた場合よりも90歳時点で約400万円少なくなるシミュレーション結果となりました。
どちらの方法でも90歳時点で資金が枯渇しない健全な結果でしたが、シミュレーションを見た結果、ご夫婦は安心され、自信を持って一時金での受け取りを選ばれました。
最後に一時金を選ばれた理由を伺うと、「会社が嫌いというわけではないが、きれいに会社生活を終え、静かに暮らしたい」ということでした。
確定給付企業年金(DB)を最大限活用したケースもう1人は、「しっかりと活用したい」という印象的な方がおられました。外資系の会社で働いてこられ、退職一時金が1000万円、確定給付企業年金(DB)が2000万円という状況でした。
結論として、この方は確定給付企業年金(DB)の約7割を年金として受け取られる選択をされました。年金として分割で受け取ると、公的年金と併せて「雑所得」となり、毎年の課税対象となるため、所得税や住民税が増える可能性があります。
この方の場合も、確定給付企業年金(DB)を年金(分割)で受け取った方が、総額は若干多くなるシミュレーション結果でした。
当初は全て一時金として受け取る予定だったのですが、相談を重ねていくうちに考え方に変化が出てこられました。
きっかけはもちろんキャッシュフロー表の結果です。2000万円を20年間で受け取るプランを選んだ場合、毎月約10.4万円、総額で約2496万円を受け取ることができる試算でした。年金として受け取ることで企業年金で運用され、相談者さんのDBの場合は利率2.3%の恩恵を受けることができるそうです。
これまで運用らしい運用をされたことはなかったので、全額を一時金で受け取っても預金にしておくのはもったいないと考えており、年金として受け取ることで「運用しているようなもの」と判断されました。
確定給付企業年金(DB)は、年金資産の運用や企業の業績が著しく悪化した場合には給付減額の可能性もありますので、この金額が必ず受け取れるとは限らないことを説明し、最終的にこの方は、2000万円のうち25%にあたる500万円を一時金として、残り1500万円を年金として受け取る選択をされました。月額は約10.4万円から約7.8万円に減少しましたが、20年間受け取れる予定で、かなり安心していらっしゃいました。
今回は確定給付企業年金(DB)の受け取り方についてご紹介しました。退職金の受け取りについては、いかに資産を「増やす」「残す」という考えも1つかと思います。しかし、退職後は第2の人生の始まりともいわれます。せっかくですから、老後を気持ちよく過ごす、という視点も大事に、自分らしい受け取り方を考えていただければと願っています。
FPかえる(尾上堅視)/ファイナンシャルプランナー
2005年個人投資家として日本株式への直接投資や投資信託を用いた資産形成をスタート。その後、証券会社や運用会社などへ取材を行うライターとして活動し、2010年家計の総合相談センターの相談員(FP)となり現在に至る。個人投資家の金融リテラシーの向上、お金と仲良くおつきあいする方法を広く伝えるため活動中。
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