タワマン最上階で“参加費1万円の高額お茶会”を主催するボスママの「人には言えない秘密」
Finasee / 2024年10月7日 17時0分
Finasee(フィナシー)
佳織は、ママ友たちが集うお茶会に出席していた。アンティークのティーセットに、ハイブランドの食器とそろいのカトラリー。3段のケーキスタンドに並ぶのは、写真映えを意識した色とりどりの軽食やスイーツ。半円状のソファの中心に座る英里菜は、最新のファッションやアクセサリーの話題でママ友たちの注目を集めていた。
「英里菜さん、そのブレスレット、すてき」
「あら、気づいた? 来年発表予定の新作なのよ。ほら、うちってエグゼクティブロイヤルメンバーでしょ。だから特別にパーティーに招待されて、そこでね」
英里菜はそう言いながら、手首に輝くゴールドのブレスレットを見せびらかすように腕を伸ばした。
「わあ、とってもステキ!」
「英里菜さんって、いつもセンスがいいですよね。うらやましい」
取り巻きのママ友たちが口々に英里菜を持ち上げると、彼女はますます自信に満ちた笑顔を浮かべる。佳織はそんなやり取りを聞きながら、いつも黙ってほほ笑むことしかできない。
専業主婦の佳織は、首都圏にある高層タワーマンションで、夫と8歳の息子・佑と一緒に暮らしている。長年の夢がかなった憧れの毎日が待っていると思っていたのに、佳織は今、窮屈さを感じている。
その原因は他でもない、このお茶会だ。お茶会は毎週火曜日に、最上階の英里菜宅で開催される。会費は、なんと毎回1万円。ブランドやステータスに興味のない佳織は、その空間にいることが苦痛でしかなかったが、タワマンという狭いコミュニティー内での立場を考えると、嫌でも参加せざるを得ない。
英里菜はこのマンションの実質的な「ボス」のような存在。彼女に気に入られなければ、マンション内での居場所は失われる。過去に英里菜と衝突して、子供ともどもコミュニティーからはじかれ、引っ越しを余儀なくされたママ友がいたことも、佳織はよく知っていた。
「ねえ、佳織さん。そのワンピース、ほんとにお気に入りなのね?」
会話が一段落したとき、ふと英里菜の目が佳織に向いた。英里菜は、何度も同じ服を着ている佳織を皮肉たっぷりにからかったのだ。
佳織が着ているのは、シンプルなベージュのワンピース。やや華やかさには欠けるが、上品なシルエットが気に入っていたため、過去のお茶会でも何度か着てきていたことがあったかもしれない。
ママ友たちの視線が一斉に佳織に集中し、誰もがどう反応するかを見守っていた。佳織の心臓は激しく鼓動し、顔が熱くなるのを感じた。
「えぇ、そうなんです。ついこればっかり着ちゃって......」
佳織は、作り笑いを浮かべて答えたが、英里菜はその様子には全く関心を示さずに会話を続けた。
「そうなの。でも地味だし貧乏くさいと思わない? そうだ、良かったらこの前旦那がパリで買ってきたワンピースがあるの。でも柄が気に入らなくてね。あげるわ」
英里菜はそう言って立ち上がり、しばらくすると本当にワンピースを持って戻ってきた。着替えるように言われ、佳織は半ば強引に脱衣所へと向かわされる。佳織は断り切れず着てみるが、身長170cmの英里菜に対し、佳織は153cm。当然似合うはずがなかった。
「あら、ちょっと丈が長いみたい。私が着たときはひざ丈だったんだけど」
英里菜はけらけらと楽しそうに笑い、銀座の高級店のマカロンを1つ頰張る。他のママたちの何人かもそれに同調して笑い、佳織と同じようにコミュニティー内で低く扱われているママたちは苦笑いを浮かべる。今日は自分が標的ではないことに安堵しながらも、おびえている表情だった。
佳織は唇をかんだ。英里菜に恥をかかされたことが腹立たしいのに、ここで強がることもできない自分に、さらに自己嫌悪が募った。
会費1万円への疑念「ごきげんよう、また来週よろしくね」
お茶会が終わると、にこやかな笑みを浮かべた英里菜が、ママ友たちを玄関まで見送った。ようやく愛想笑いを解除できた佳織は、重い気持ちのままマンションの共有エリアへと向かった。すると、そこにはすでに何人かのママ友たちが集まっていた。英里菜とその取り巻きがいないことを確認すると、彼女たちは一気に表情を緩め、声を潜めて話し始めた。
「ねぇ、今日もまたあの話してたわよね。『うちの主人、管理職だから忙しくって〜』とか。もう聞き飽きたわ」
1人がそう言うと、他のママ友たちも苦笑を浮かべてうなずいた。
「ほんと、それ! あと、あの高級ブランドのジュエリーね! いったい何個目よ? 毎回違うのつけてるけど、どこにそんなお金があるのか不思議で仕方ないわ」
「でしょ? 料理もさ、正直あれで1万円ってどうかと思うのよ。まあ、おいしいのは認めるけど、レストランで食べるほうがずっと満足感あるわ」
声を抑えているつもりでも、ママ友たちの話はどんどんヒートアップしていった。佳織もまた、英里菜のお茶会に対する不満が少しずつ募っていたことで、無意識に口を開いていた。
「私も思った。あの料理にかかってるコストって絶対おかしいよね。なんだか、会費を自分のために使ってるんじゃないかって疑っちゃいそう……」
その一言で、場の空気は一気に変わった。ママ友たちは佳織の言葉を待っていたかのように、一斉にうなずき、声を上げる。
「そうよ! 私もそれ思ってたのよ! あんなにお金かけてるふりして、実際は私たちを利用してるんじゃないかって……」
「ねぇ、実際のところ、英里菜さんの旦那さんって、本当にあの会社で部長なの? 最近、全然姿を見かけないって聞いたけど……」
別のママ友が疑念を口にすると、みんなが一瞬静かになった。英里菜の夫は誰でも知っているような総合商社の管理職だという。以前は朝、子どもの送り迎えをするときなどにエントランスで見かけることがあったが、最近ではほとんど姿を見かけなくなっていた。
ママ友たちはそのあとも「実は別居しているんじゃないか」「旦那さんがよそで浮気して帰って来ないんじゃないか」と好き勝手にうわさ話に花を咲かせた。まるで苦く気だるいお茶会の口直しとでも言わんばかりに小1時間ほどおしゃべりした後、誰かが「そろそろ夕飯の支度をしないと」と言い出したのをきっかけに、その場はお開きになった。
公園で会うおじさんの正体ある日、家族で夕飯を囲んでいると、ふと息子の佑が箸を止めて口を開いた。
「ママあのさ、最近、よく公園で会うおじさんいるでしょ?」
「おじさん? あー、ずっとベンチに座ってるっていう男の人? その人がどうかしたの?」
佳織は斜め上を見上げて、佑との会話の記憶をたどった。そう言えば、少し前に佑はいつも同じ公園の同じ場所にいる「おじさん」の話をしていた。
「おじさん」は、佑たち小学生が学校から帰って遊びにいく時間にはすでに公園に来ていて、夕方子供たちが帰る時間になっても、まだベンチに腰かけたままだという。公園に住んでいるのではないかと子供たちの間でうわさされていた「おじさん」を、佳織は最初、不審者ではないかと思って警戒したが、自分から子供たちに近づいたり、話しかけてきたりしないと佑が言うので、すっかり頭から抜けてしまっていた。
「あの人、鷲尾くんのお父さんなんだって」
「え? 英里菜さんの旦那さんってこと? 」
佑の発言に、佳織は思わず低い声が出た。
「佑、その話、誰から聞いたの?」
佳織が前のめりになって尋ねると、佑は中断していた夕食のおかずに箸を伸ばしながら言った。
「うーんと、友達から聞いた。この間、鷲尾くんが公園でおじさんに話しかけてて、『お父さん』って呼んでたんだって」
「そうなんだ……」
息子の話が正しければ、英里菜は佳織たちにうそをついていることになる。佳織はお茶会終わりのうわさ話を思い出し、その日の夜、英里菜が入ってないママ友のSNSグループに息子の話を投下した。話はすぐに盛り上がり、同じように見たことがあるという声も次々に上がった。
『来週のお茶会で問い詰めてみようよ(笑)』
誰かが言ったひと言が悪意に満ちていたのは明白だったが、散々おもちゃのようにいじられてきたのだからと、佳織はみんなと同じようにサムズアップのマークを押した。
●英里菜の夫は毎日公園で時間をつぶしている? 果たして真相は……。後編【「私たち、財布代わりにされてたの?」タワマンの闇…お茶会費1万円を生活費に充てたボスママの「うそで塗り固めた生活」】にて、詳細をお届けします。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
梅田 衛基/ライター/編集者
株式会社STSデジタル所属の編集者・ライター。マネー、グルメ、ファッション、ライフスタイルなど、ジャンルを問わない取材記事の執筆、小説編集などに従事している。
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