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「私たち、財布代わりにされてたの?」タワマンの闇…お茶会費1万円を生活費に充てたボスママの「うそで塗り固めた生活」

Finasee / 2024年10月7日 17時0分

「私たち、財布代わりにされてたの?」タワマンの闇…お茶会費1万円を生活費に充てたボスママの「うそで塗り固めた生活」

Finasee(フィナシー)

<前編のあらすじ>

佳織(36歳)が暮らすタワマンでは、最上階に住んでいる英里菜が主催するママグループのお茶会が毎週開催されていた。会費は1万円。高すぎる上に、一流企業に勤めている夫や子供や高額アクセサリーの自慢をされるだけの時間は佳織にとって苦痛でしかなかったが、同じマンションの付き合い上、仕方なくお茶会に参加し続けていた。

他のママ友たちも不満を持っていたようで、英里菜がいないところで、料理が1人1万円もするのは疑問で、彼女が参加費を着服しているのではないかとのうわさがたつ。

そんなある日、息子の佑が毎日公園で会っている「おじさん」が、英里菜の夫だということが分かった。

●前編:タワマン最上階で“参加費1万円の高額お茶会”を主催するボスママの「人には言えない秘密」

真実を突きつけられた英里菜

次のお茶会の日、最上階にある英里菜の豪華なリビングルームは、いつも通りきらびやかに飾られていた。しかし、そこに集まったママ友たちの表情は、いつもとは少し違っている。普段なら英里菜の派手な自慢話に相づちを打ち、笑顔で会話を続けるはずの彼女たちが、今日はどこか静かに、緊張感を漂わせていた。

「まあ、聞いてよ。最近また主人が昇進の話をしてて、もう少ししたら今度は海外勤務になるかもしれないって……」

英里菜はいつもの調子で話しているが、輪のなかからぼそりと聞こえた声がその声をさえぎった。

「海外って、公園の間違いじゃないんですか」

その瞬間、部屋の空気がピリッと引き締まるのが分かった。英里菜は一瞬だけ固まったが、すぐに取り繕うようにほほ笑んだ。

「何のこと? ていうか、今誰が言ったの?」

英里菜はわずかに引きつった笑みでママ友たちを見渡すが、ママ友たちは佳織も含めてだんまりだった。

「ちょっとなになに、みんなおかしな空気よ。全く、ひがまれるのも困っちゃうわね。変なうわさがたって」

少しずつ英里菜の表情には焦りが浮かんでいく。追い打ちをかけるように、別のママ友が口を開いた。

「でも、うちの子も、公園で英里菜さんの旦那さん見たって。総合商社の管理職ってそんなに油を売ってて平気なの?」

きっとここまで食い下がられるとは思っていなかったのだろう。英里菜は目を泳がせて、次の言葉を探しているようだった。

「は? 何言ってるの。そんなわけないでしょ。うちの旦那は……」

明らかにしどろもどろになる英里菜に、佳織たちの不信感は高まっていく。

「あの、私もいいですか?」

やがて耐えきれなくなった佳織は手を挙げた。このお茶会から解放されるためには、これが最初で最後のチャンスかもしれないと思った。

「ずっと不思議に思ってたんですけど、毎回1万円も払ってるのに、あの料理の内容じゃどう考えても合わないんじゃないかなって。領収書とか、内訳、見せてほしいんです」

佳織が言い終わった瞬間、英里菜は凍り付いたようにぴたりと動きを止めた。唇はきつく結ばれ、しばらくの間、英里菜は言葉を発しなかった。やがて、英里菜のきれいにメイクした顔に一筋の汗が流れた。身体が小刻みに震えていた。

「そんなものあるわけないじゃない! 言いがかりをつけるのもいい加減にしてよ!」

英里菜が立ち上がり、佳織をにらみ付ける。だが佳織をかばうように、ママ友たちから声が上がる。

「でも変よね。確かに高すぎるもの」

「あの程度のマカロンであの値段なんてねぇ」

「説明する責任があるんじゃない? 英里菜さん」

口々に英里菜を糾弾する声が上がった。英里菜は奥歯をかみしめ歯ぎしりをした。

「もう何なのよ! あんたたち、私のおかげで散々いい思いしたじゃない。ほら、このバッグは誰にもらったの! このネックレスも! イヤリングも! 散々うちに来ておいて、あんたたちも同罪よっ!!」

英里菜は顔を真っ赤にしてわめき散らしたが、佳織は冷静だった。

「じゃあ、本当は1万円もかかってないんですね?」

「そうよ! 手間賃として少し多めにもらってただけよ! それを生活費に使って何が悪いの⁉ うちは毎回、場所を提供してるんだから、それくらい別に良いでしょ⁉」

英里菜が叫ぶや、室内はぴたりと静まり返った。

「……やっぱり、そうだったんですね」

「え、じゃあなに。私たち、ただの財布代わりにされてたの?」

「もう信じられない! 使い込んだ会費、全額返してもらうわよ!」

次々とママ友たちが非難の声を上げ始める。その中には、英里菜のおこぼれをもらっていた取り巻きたちの姿もあった。もはやこの場に英里菜の味方は誰一人としていなかった。

1人で謝罪に来た英里菜の夫

お茶会はそのままお開きになり、鷲尾家はそのひと月後に引っ越していった。その後、お茶会が開催されることは二度となかった。

引っ越し前には、余分にプールしていた会費として封筒に包んだ4万円を持って、英里菜の夫が謝罪しに来た。なんでも、夫は今年の初めに身体を壊し、くだんの総合商社を退職していたそうだ。しかし仕事を辞めただなんて恥ずかしいと、英里菜の命令で毎日働きに出るフリをしてマンションを出ていた。初めのほうはカラオケや漫画喫茶で時間をつぶすようにしていたが、お金がかかるとして禁止され、行き場のなくなった夫はあの公園にたどり着いたらしい。

佳織はとうてい足りない4万円を受け取り、英里菜の夫を見送った。たった1人でやってきて、妻の代わりに何度も頭を下げる夫を見ていると、佳織はいたたまれない気持ちになってしまい、かける言葉すら見つけられなかった。

とはいえ、英里菜がいなくなったことで、マンションの雰囲気は大きく変わった。お茶会は当然なくなり、以前のような住んでいる階や夫のステータスでマウントを取りあうようなこともなくなった。すれ違えばあいさつくらいはするし、子供が同じ学校に通っている以上顔を合わせることも多いが、必要以上に関わろうとはしなかった。おそらくは佳織も、他のママ友も、第2、第3の英里菜が現れるのを恐れているのかもしれない。

「ただいまぁ」

玄関の扉が開いて、佑が学校から返ってくる。ぼんやりしていた佳織は立ち上がり、佑を出迎える。

「学校どうだった?」

「別に普通。それよりおなか減っちゃった」

佑に言われて、佳織はもうそんな時間かと時計を見る。

「それじゃあ、ご飯の準備するからそれまで宿題やっておいで」

佳織はそう言って、エプロンをつけた。ジーンズにTシャツ。アクセサリーはつけず、髪は無造作に束ねているだけ。

着飾らなくても、佑の成長を見守りながら過ごす日々には輝きが満ちていることを、佳織は知っている。

複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

梅田 衛基/ライター/編集者

株式会社STSデジタル所属の編集者・ライター。マネー、グルメ、ファッション、ライフスタイルなど、ジャンルを問わない取材記事の執筆、小説編集などに従事している。

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