ネット証券は、SBI&楽天の二強時代が続くのか―投信販売の変遷から考える“これから”【10月4日・投資の日に寄せて】
Finasee / 2024年10月4日 8時0分
Finasee(フィナシー)
個人の投資環境は、どれほど変わったのか
10月4日、「証券投資の日」にちなんで、個人が投資を行う際のプラットフォームでもある証券会社と、その周辺環境がどのように変わってきたのかを、振り返ってみましょう。
「貯蓄から投資へ」というスローガンが掲げられたのは、2001年のことです。詳細なデータがなかったので、やや前後してしまいますが、1999年度時点の個人金融資産の総額は1420兆円。2003年度が1411兆円でした。そして、個人金融資産に占める金融資産別の構成比を見ると、2003年度は以下のようになっています。
現金・預金・・・・・・55.3%
債券・・・・・・2.5%
投資信託・・・・・・2.4%
株式等・・・・・・8.4%
保険・年金等・・・・・・26.8%
その他・・・・・・4.6%
では、直近の構成比はどうなっているでしょうか。2024年6月末時点の数字を見てみましょう。
現金・預金・・・・・・51.0%
債券・・・・・・1.3%
投資信託・・・・・・5.8%
株式等・・・・・・13.6%
保険・年金等・・・・・・24.6%
その他・・・・・・3.7%
まだ、相変わらず現金・預金の占める比率が過半であることに変わりはありませんが、投資信託や株式等のリスク資産の比率がやや上昇しています。
前述した「貯蓄から投資へ」のスローガンが掲げられた2001年当時の日経平均株価は、まさにバブル崩壊とデフレ経済の突入によって下落の一途をたどっている最中でした。
ちなみに2001年3月の日経平均株価は1万3000円水準で、2003年4月には7603円まで下落。2007年2月にかけて1万8300円まで回復したものの、2008年のリーマンショック、その後の民主党政権における経済失政を受けて株価の低迷が長期化し、ようやく上昇トレンドに転じたのは、2013年以降のアベノミクスによる大金融緩和が行われてからでした。そして2024年2月には念願の最高値更新となり、7月11日には4万2426円まで上昇しています。
個人金融資産に占めるリスク資産の比率が上昇した一因は、この12年間、株価が右肩上がりで上昇を続けたからと考えられます。
1998年の銀行窓販解禁、2011年前後のネット証券台頭…シェアの変遷こうした株式市場の環境変化に加え、個人が投資をする窓口である証券会社をはじめとする金融機関も、大きく変わりました。
まず、個人が投資を行う際の間口が大きく広がりました。
たとえば投資信託。かつては証券会社でしか販売していませんでしたが、1998年12月からは銀行の窓口でも販売されるようになりました。
投資信託協会の「販売態別純資産残高の状況」によると、公募投資信託の純資産残高において、2007年10月には証券会社が46兆5320億円であるのに対し、銀行は35兆1499億円まで肉薄し、そのシェアは42.79%にもなりました。
何しろ銀行には個人の預金口座があり、そこに毎月の給料が振り込まれます。その預金から投資信託への乗り換えが進み、銀行窓口での投資信託販売は堅調に伸びていきました。それに対して証券会社は決定的な打ち手がないまま、投資信託のシェアを銀行に奪われていったのです。
今も、銀行は投資信託を取り扱っていますが、現時点では再び証券会社に販売の主流が移ってきました。2011年前後から徐々に証券会社のシェアが上向き始め、2012年1月には証券会社の60.25%に対して銀行は39.15%、2016年12月には証券会社の70.05%に対して銀行は29.26%、2024年3月には証券会社の80.00%に対して銀行は19.35%というように、証券会社のシェアが伸びていったのです。
この背景には、やはりインターネット証券会社の台頭が大きかったと考えられます。
1999年に株式売買手数料が自由化されたのと同時に、インターネット証券会社が次々に立ち上がってきました。
それまで株式売買手数料は固定化されており、どの証券会社も一律でした。そのため、売買金額100万円以下に適用される手数料率は1%という高い料率でしたが、それが自由化されたことによって、支店を持たず、ローコストオペレーションが可能なインターネット証券会社を中心に、手数料引き下げ競争が始まりました。
これによって、個人の株式取引の多くを取り込んだインターネット証券会社は、次の主戦場を投資信託に移します。系列にかかわらず、投資信託のマーケットプレイスという立ち位置で、さまざまな投資信託会社のファンドを扱い、かつローコストオペレーションの徹底化によって、個人が投資信託を購入する時、当然のように払っていた「購入時手数料」を無料化するなど顧客利便性を高め、投資信託の購入窓口として利用者を増やしていきました。
インターネット証券も淘汰が進み、SBI&楽天の二強状態にしかし、インターネット証券会社を中心に激化した手数料の引き下げ競争は、個人の株式売買におけるコスト負担を大幅に軽減しましたが、一方でサービスを提供する証券会社は薄利多売を強いられ、厳しい生き残り競争にさらされました。一時は多数あったインターネット専業の証券会社も淘汰が進み、この競争を生き残った一部のインターネット証券会社に、口座開設が集中しました。
2024年6月時点の口座開設数で見ると、SBI証券(SBIネオトレード証券、FOLIOを含む)の1293万6000口座、楽天証券の1133万口座が断トツで、対面最大手である野村證券の552万4000口座を大きく上回っています。
ちなみにインターネット専業では2024年6月時点で、第3位にあるマネックス証券が262万7000口座ですから、インターネット証券会社はSBI・楽天の二強時代といっても間違いではないでしょう。
そして、株式売買手数料の引き下げに加えて、前述した投資信託の購入時手数料無料化や商品ラインナップの拡充が進み、インターネット証券会社は個人が投資する際のプラットフォームという立ち位置を確立したのです。
一方、対面型の証券会社は、こと個人向けサービスに関しては高齢者向け、あるいは富裕層向けサービスに舵を切る動きが見られます。
9月11日のブルームバーグ通信の記事によると、野村総合研究所が作成したデータをベースにした分析で、投資信託の残高シェアは銀行等と非ネット証券の合計で8割近くを占めているということでした。金融資産の多くを高齢者が保有していることからすれば、当面はその資産管理、ならびに次の世代へのスムーズな資産承継が、対面型証券会社のメインのビジネスになっていくでしょう。
また、先に触れた口座数で考えれば、インターネット証券会社と対面型証券会社の競争は「勝負あり」の感があるものの、このままインターネット証券の独走が続くかどうかは、まだ何とも言えません。
たとえばスマホ証券。口座開設申し込み、入出金、取引といった、投資に関する一連の手続きをすべてスマートフォンで完結できる証券会社が、これから台頭してくる可能性があります。特に10代、20代はスマートフォン世代であるだけに、スマートフォンを介しての取引での顧客利便性を高めた証券会社が、次の覇権を握ることになりそうです。
投信というものの“骨格”は変わらないが、購入窓口である販社には変化が必須最後に投資商品の変遷についてですが、株式や債券、さらにはこれらをパッケージングした投資信託の商品性は、これまで根本的なところで大きくは変わってきませんでしたし、それはこれから先も同じだと考えます。
もちろん、ブロックチェーンがかつてのインターネットのように一般的に普及し、株式や投資信託、債券など、有価証券の価値がブロックチェーン上に記録され、デジタルアセットとして流通する時代は来ると思います。
でも、それはあくまでも取引・流通の仕方が変わるだけで、株式や債券、投資信託といった投資商品の基本的な役割、商品性が、根本からガラリと変わるわけではありません。
せいぜい、投資信託の投資対象の範囲が広がり、たとえば現在は運用資産の15%まで組み入れが認められている未上場株式の上限が撤廃される、といったことが将来的に起り得るかも知れませんが、さまざまな投資対象をパッケージにし、運用会社が個人の代わりに運用して得た利益を、受益権の持ち分に応じて配分するという、投資信託の基本的な骨格が大きく変わるようなことにはならないでしょう。それは株式や債券も同じです。
今後10年で「貯蓄から投資へ」の流れが定着するのかどうか。
過去の経緯からすると、それは投資商品そのものの魅力というよりも、その購入窓口となる証券会社などの金融機関が、どこまで顧客利便性を高められるかにかかっています。
ただ、ブロックチェーン技術が一般的に普及した時、ひょっとしたら個人が投資商品を購入する窓口としての金融機関の役割は、終わりを告げるのかもしれません。
鈴木 雅光/金融ジャーナリスト
有限会社JOYnt代表。1989年、岡三証券に入社後、公社債新聞社の記者に転じ、投資信託業界を中心に取材。1992年に金融データシステムに入社。投資信託のデータベースを駆使し、マネー雑誌などで執筆活動を展開。2004年に独立。出版プロデュースを中心に、映像コンテンツや音声コンテンツの制作に関わる。
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