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夫婦で悠々自適な老後を過ごすはずが…70代男性から“老後資金3000万円”を奪い去った人物の正体

Finasee / 2024年10月17日 17時0分

夫婦で悠々自適な老後を過ごすはずが…70代男性から“老後資金3000万円”を奪い去った人物の正体

Finasee(フィナシー)

<前編のあらすじ>

窪田理宇さん(仮名・42歳)の父親は海外で長く単身赴任をしてきた元商社マン。現役時代はビジネスエリートとして忙しい日々を過ごしていましたが、家族との時間も大切にしていたため母親との関係も良好でした。そんな両親は窪田さんにとって「理想の夫婦」そのものでした。

しかし10年前に母親が急逝してしまい、父親は1人暮らしを始めます。最初こそ家にこもりがちでしたが、半年もたつと元気を取り戻し、その様子に窪田さんも安心していました。

しばらく年月がたった頃、兄から窪田さんに電話があり「父親が面識のない女性に3000万円貢いだ」という衝撃的な事実を聞かされます。

●前編:【見知らぬ女性に3000万円送金した父に子ら絶句…元商社勤務の70代男性が起こした人生最大の“不祥事”】

急いで会いに行くと憔悴した父親が…

博多でコンサルの仕事をしている私の元に、兄から「オヤジが国際ロマンス詐欺の被害にあったらしい」という電話が入ったのは2カ月ほど前のことでした。

父は元商社マンで、リタイアしてから11年になります。定年退職して1年もたたないうちに母がくも膜下出血で急死し、以降は都内のマンションで1人暮らしをしていました。

母の死はショックだったようですが、もともと明るく活動的なタイプなのでやがて元気を取り戻し、友人たちとゴルフを楽しんだりしているようでした。炊事や洗濯なども一通りこなせるので、一時は毎週のように様子を見に行っていた私も、遠いことと忙しいことを理由に近年は実家から足が遠ざかっていました。

そんな矢先の詐欺被害。しかも、父のスマホに連絡しても留守番電話につながるばかりだったので、意を決して当日の航空券を購入し、急遽自宅に戻りました。

父は都内の自宅にも不在でした。父から渡されていた家のスペアキーで中に入りイライラしながら待っていると、22時過ぎに疲れた顔の父が帰ってきました。

どうやら警察で事情を聞かれていたようでした。焦燥し切った父は、私の姿を見て思わず涙ぐんでいました。

夕食も取っていなかったようなので、2人でデリバリーの寿司をつまみながら、父に事の顚末(てんまつ)を聞きました。

自称38歳・内科医RURUの巧妙な手口とは

きっかけは2年ほど前、父のSNSに届いたメッセージでした。

父はその前週、友人たちと秩父でカヤックを楽しみ、その時の画像をSNSに上げていたようです。メッセージには「私は秩父の出身で子供の頃からカヌーで遊んでいたので、望郷の念にかられてご連絡してしまいました」と書いてあったそうです。

RURUさんというユーザーネームのその女性は、自分は38歳の内科医で、日本のNGO(非政府組織)を通じてアフリカの紛争地域に派遣されていると名乗りました。

父の出身地も埼玉で、秩父のすぐ近くです。郷里やカヌーの話で盛り上がり、それから週に数回、メッセージをやり取りするようになったようです。

10年前に亡くなった母は元看護師で、「十分な医療が受けられない地域の子供たちを救いたい」と自ら志願して海外に派遣され、そこで駐在員だった父と出会っています。父が、母と同じ医療従事者で、同じような志を抱いて渡航したというRURUさんに親近感を抱いたのは想像に難くありません。

やがてRURUさんは、父に薬品や医療器具が絶対的に足りず、治療したくてもできないといった悩みも打ち明けるようになります。そして、現地の若手医師の有志で、日本から寄付を募る活動を始めたと言って、父にも寄付を求めてきました。

父は元商社マンで紛争地の医療事情について生半可な知識があっただけに、RURUさんの“窮状”に共感してしまったのだと思います。要請に応えて何度か100万円単位で送金したようでした。

そうこうするうち、RURUさんのメッセージには、「私は3歳の時に事故で父を亡くしていて、実の父の記憶がほとんどありません。最初は窪田さんに父の面影を求めていたのですが、窪田さんの優しさや、私の全てを包み込んでくれるような懐の深さに接するうちに、いつの間にか窪田さんを男性として意識するようになりました」などという“愛の告白”もどきの文章も混じるようになっていたのです。

恐らくは父も、“過酷な紛争地で、日々、病やケガに苦しむ子供たちを救うために奮闘する若い女性医師”に昔の母の姿を重ね、次第にRURUさんに惹かれていったのではないかと思います。

壮大な夢を語られ、追加で2000万円送金してしまう

やがて、RURUさんは父に帰国時期が近づいてきたと伝え、「帰国したら真っ先に窪田さんの所に飛んでいきます♥」というメッセージを送ってきました。そして、「帰国後は今の医師仲間と医療設備の整ったクリニックを開設したい。そして、日本で十分な医療を受けられない外国人の子供たちを診療する道筋をつけたい」という壮大な夢を語ったのです。

施設の賃料や医療器具の購入費、看護師・検査技師などの人件費で当面億単位の資金が必要になり、出資してくれる人を探している。自分は医師だけれど儲けにはならない仕事ばかりしてきたので全財産をはたいても2000万円がやっと。これまで何度も支援してもらいながら厚かましいお願いとは重々承知しているけれど、窪田さんからも出資していただけたらとてもありがたい。

第三者の私から見れば、よくもいけしゃあしゃあとそんな嘘八百が並べられたものだと思いますが、当事者の父にとってはそうでなかったのです。

父はRURUさんのほら話を信じて、何と2000万円も送金していたのです。

これが銀行経由の送金だったら、どこかでチェックが入って阻止できたのかもしれません。RURUさんは最初から送金には暗号資産を使うよう指示してきたといいますから、実に計画的かつ巧妙な手口です。

そうして父は、先に寄付していた分と合わせて3000万円近い大金をまんまと奪われてしまったのです。

およそかつてのビジネスエリートらしからぬ、何とも間抜けな顛末です。

しかも、父はRURUさんのことを信じ切っており、警察が摘発した国際ロマンス詐欺グループのアカウントや口座から父にたどり着くまで、全く無自覚だったというのだからあきれます。これでは、兄に「色ボケ爺」とののしられても仕方ないでしょう。

国際ロマンス詐欺グループは複数の日本人と外国人から構成されていたらしく、一部は海外で身柄を拘束されたものの下っ端ばかり、振り込まれたお金の行方は不明です。警察からは、取り返すのは難しいだろうと言われました。“RURUさん役”を務めたのがどんな人かも分かっていません。

父はRURUさんへの淡い恋心を認めつつも、自分の身に起こったことが信じられないようです。兄や私だけでなく、親戚や友人、知人に合わせる顔がないと自宅マンションに引きこもっています。

直接尋ねたことはありませんが、父の場合、月額40万円近い年金を受け取っていて、金融資産だけで億は下らないはずですから、今回のことは相当な痛手ではあるものの、尾羽打ち枯らして自宅を売却しなければならないような事態にはならずに済みそうです。

しかし、精神的なショックはあまりにも大きく、間もなく72歳になる父がこの試練から立ち直れるのか心配です。

とはいえ、私自身はここ数年忙しさにかまけて面倒を見られなかった贖罪(しょくざい)の気持ちもあり、今は傷心の父を支えていきたいと思っています。

※個人が特定されないよう事例を一部変更、再構成しています。

森田 聡子/金融ライター/編集者

日経ホーム出版社、日経BP社にて『日経おとなのOFF』編集長、『日経マネー』副編集長、『日経ビジネス』副編集長などを歴任。2019年に独立後は雑誌やウェブサイトなどで、幅広い年代層のマネー初心者に、投資・税金・保険などの話をやさしく、分かりやすく伝えることをモットーに活動している。

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