来場者が参加型で共有「ファイナンシャルウェルビーイング」と「金融経済教育」の最前線、J-FLEC初の官民イベント共催
Finasee / 2024年10月3日 12時0分
Finasee(フィナシー)
金融知識に自信がある人は1割強にとどまる
税金、社会保障制度、年金など、生活に不可欠な金融知識に自信がある人はわずか1割強。2022年7月に公表されたJ-FLECの調査で明らかになった結果だ。J-FLECの安藤聡理事長は「調査では『金融経済教育を受けた』と認識している人が7.1%。さらに『金融知識に関して自信がある』と答えた人は1割強にとどまる。年齢別、地域別にも正答率に差があることから、日本では金融経済教育が絶対的に不足しているのではないか。こうした課題認識のもとに4月にJ-FLECが官民一体の組織として発足した」とJ-FLEC誕生の経緯を説明。
さらに米国では、金融経済教育を受けたという人が約20%もいることに言及。自身の駐在経験を引き合いに、米国では家族のみならず友人や同僚ともお金の話をオープンにする環境がある一方、日本はその逆で、周囲とお金の話をすることははばかられる風潮にあると指摘した。
その現状を打破するために必要とされるのが金融経済教育の普及だ。J-FLECでは年齢層別に必要な金融リテラシー(お金に関する知識・判断力)に関する資料を公表しており、個人では各自で金融リテラシーのチェックに活用できるほか、企業では効果的な従業員教育のための参考教材として活用できる内容となっているという。
講師派遣やセミナー開催で地域や学校を通じて幅広い世代への働きかけが進む一方、企業の従業員、いわゆる職域への金融経済教育も欠かせない。企業における従業員の金融リテラシー向上の意義について、三井住友フィナンシャルグループ伊藤文彦取締役 執行役専務は「従業員に対しての金融経済教育をしっかり提供することが企業へのエンゲージメントやモチベーションの向上につながる」と語った。
企業戦略として重視されつつある人的資本経営に触れた安藤理事長は、「経営者は人的資本経営を推進しなければ従業員のモチベーション向上、その結果として企業価値を高めることはできない」とコメント。従業員が求める企業研修についてのアンケート結果では、DXと資産形成が挙げられたとして、「投資のための勉強というより、税金など生活上必要な知識が不足していて生活上、若干不安があるということで、やはり金融経済教育の機会提供が一つのテーマ。小学生、中学生、高校生には学習指導要領に金融経済教育が盛り込まれており、すでにスタートしている。こうした世代が社会人になっていけばますます社会は豊かになっていくのではないか」と期待。一方で約7%しか金融経済教育を受けていないとの現状に、「全世代の方に教育の場を提供していくことが使命」と力を込めた。
会場ではスマホを利用した金融リテラシーに関するクイズが行われるなど、参加型のコミュニケーションを促す工夫が凝らされていた。
人的資本経営とファイナンシャルウェルビーイングの最前線後半は「人的資本経営におけるファイナンシャルウェルビーイングの位置づけと具体的な取組」と題して企業トークセッションが行われた。スピーカーにNEC企業年金基金常務理事 兼 NEC人材組織開発統括部 シニア年金プロフェッショナル本間智克氏、株式会社パソナグループ 常務執行役員HR本部長金澤真理氏、早稲田大学大学院 早稲田大学ビジネススクール教授入山章栄氏を迎え、NECとパソナにおけるFWBおよび金融経済教育への取り組み事例に学んだ。
左から早稲田大学ビジネススクール入山章栄教授、NEC本間智克氏、パソナグループ金澤真理氏NECでは「選ばれる会社」となるための人とカルチャーの変革を推進、柱の一つとして働き方に関する項目を据え、FWBの実現を目指している。社会の流れや価値観の変化に合わせ、キャリアやライフプランに応じて個人の自立という観点を重視。退職金制度を従来の確定給付企業年金(DB)から企業型確定拠出年金(企業型DC)へと18年かけて転換した。FWBの実現に向けて、具体的にはDC年金の拡充と社員向け資産形成サービス「Shines」の提供に注力。グループの資産運用コンサルティング企業Japan Asset Managementの知見を活かし、NECグループの人事制度、退職金制度を考慮したアドバイスを受けられるサービスを今年1月から本格稼働。土日祝日や終業後の対応や、家族の利用も可能なサービスで、「大変好評を博している」と本間氏は語る。
パソナでは社会的にウェルビーイングの機運が高まる中、「こころ・からだ・きずな」をテーマ、「自分の未来は自分で創る」をコンセプトに社員の自立型キャリア形成を推進している。金融経済教育については福利厚生制度のカフェテリアプランにあるが認知度は低く、活用されていなかった。反面、社内アンケートの結果からはマネープランのニーズが高いことが分かり、強化するため教育コンテンツを設計。ライフデザインセミナーを多様なサービスと連携、ライフステージに応じて選択できるウェブコンテンツとして対象者を広げるとともに、社内のFP(ファイナンシャルプランナー)有資格者を活用した相談窓口を設置。「資産形成に興味はあるが行っていない層に一歩踏み出してもらう施策を強化していく」と金澤氏は力を込めた。
入山教授が来場者同士の話し合いを呼び掛け、参加型セミナーに充実の学び社員が自らの人生を主体的に歩むために、金融経済教育は欠かせない要素の一つだ。「知らない」ということによる機会損失を防ぐためにも、企業には積極的な情報提供や啓発活動が求められる。経済的な余裕がメンタルの健康や企業へのロイヤリティにつながるという研究結果もあり、企業へのエンゲージメントを高めるためにも金融経済教育、ひいてはFWBを高める施策が不可欠だ。
今回のイベントの特徴として、来場者を巻き込む参加型の仕掛けが随所に凝らされていたことが挙げられる。スマホを利用したクイズや質問の募集のみならず、企業トークセッションでは入山教授から、「周りの人と感想を話し合ってください」と参加者同士が交流を持つ時間も設けられた。受け身で聞くだけでなく、自らが主体的に関わることで多くの学び、気づきを「自分事」として参加者が企業に持ち帰り、実践につなげることが期待できそうだ。
企業がFWBや金融経済教育に注力することは、今後の人材獲得、育成をはじめとした成長戦略においてより重要な要素となることは間違いない。その継続的な取り組みが社員に浸透し、結果として企業価値の高まりにつながっていく。企業がFWBや金融経済教育に注力し、社員の自立を支援することは時代のスタンダードになっていくはずだ。
Finasee編集部
「一億総資産形成時代、選択肢の多い老後を皆様に」をミッションに掲げるwebメディア。40~50代の資産形成層を主なターゲットとし、投資信託などの金融商品から、NISAや確定拠出年金といった制度、さらには金融業界の深掘り記事まで、多様化し、深化する資産形成・管理ニーズに合わせた記事を制作・編集している。
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