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「どれだけあなたのためにお金を使ってるか」連絡は既読スルー、帰りの遅い息子にシンママが放った「取り返しのつかない一言」

Finasee / 2024年10月16日 17時0分

「どれだけあなたのためにお金を使ってるか」連絡は既読スルー、帰りの遅い息子にシンママが放った「取り返しのつかない一言」

Finasee(フィナシー)

時刻は夜の11時を回ろうとしていた。リビングのテーブルに座って里奈はスマホの画面を見てため息を吐く。「今日は遅くなるの?」と大学生の息子・孝にチャットを送ったが、既読がついただけで返事は返ってこない。コンロの上のフライパンに用意してあるハンバーグはもう完全に冷え切って、白い脂が浮いている。孝はここ最近、帰りが遅い。バイトやサークルで忙しいのは分かるが、帰ってきても寝てるばかりで、まともに会話した記憶すらあやふやだ。

里奈は仕方なく先に風呂に入ったが、風呂から出てもまだ孝は帰ってきていなかった。先に寝てしまおうかと思ったころ、ようやく玄関の鍵が開く音がした。出迎えに向かった玄関で、里奈を見た孝はただいまも言わずにすぐに目線をそらし、部屋に戻ろうとする。

「ねえ、ご飯できてるけど?」

「いいよ。友達と食べてきたから」

ぶっきらぼうな物言いに、里奈はわずかにいら立った。

「あのさ、大学行って、バイトとかサークルが忙しいっていうのは分かるけど、チャットの返事くらいできるでしょ。孝の分のご飯だって準備してるんだからね」

「……別に食えって言われたら、食うよ。でも、その前に着替えさせて」

孝は部屋に戻っていった。大学生なのだからいつまでも母親にべったりなのもどうかと思うが、1年生のころはよく夕方過ぎに帰ってきて、一緒に夕飯を食べていた時期もあった。しかし2年生に上がってから、孝は急に家に寄りつかなくなってしまった。アルバイトが忙しいと言っていたが、毎日こうだと疑いたくもなる。仮に本当にアルバイトで遅くなっているのだとしても、できることなら学業に専念してほしいと思うのも親心だ。

里奈はあまりその部分を責めることができずにいた。夫の洋祐は、孝がまだ14歳のときに亡くなっている。原因は交通事故だった。保険金や賠償金も支払われたし、里奈自身も懸命に働いて孝を育ててきた。だが、生活が豊かであるということは全くない。学資積立や奨学金などいろいろな方法を駆使することで、ようやく大学に通わせることができている。一般家庭と比べて、生活水準は決して高くないだろう。

取り返しのつかない言葉

温め直したハンバーグを部屋着に着替えた孝の前に置く。孝は何も言わず、黙々と食事をしていた。

「ねえ、最近は楽しい? バイトばっかりで大変じゃないの?」

「……別に普通だよ。もう慣れたし」

「バイトはピザ屋だっけ。今度、うちでもピザ作ってよ。お母さん、食べてみたいから」

「俺、配達専門だから」

孝の返事はとにかくつれなかった。いろいろと話をしたいだけなのに、孝は全く乗ってきてくれない。

里奈は洋祐がまだ生きていたときのことを思い出す。孝は洋祐と仲が良かった。親子のときもあれば、友達のように楽しそうに話していることもあった。きっと今も洋祐が生きていれば、孝の心情を察して、悩みや困っていることに手を差し伸べたりしたのだろう。だが、里奈にはそれができなかった。

見た目はどんどん洋祐に似ていくが、内面は全く違う。里奈には孝が何を考えているのか全く分からなかった。

「ねえ、バイトも大事だとは思うんだけどさ、授業はどうなの? ちゃんと出てるの?」

沈黙がつらくて言葉を継いだ。しかしどこか説教っぽくなってしまう。

「出てるって。同じことを何回も聞いてこないでよ」

「来年からは就活も始まるんでしょ? ちゃんと将来のこと、考えてるの?」

こんなことを言いたいわけではなかった。そんな里奈の心情を見透かしているように、孝は何も返事をせず食事を続けた。

「黙ってないで、答えてよ」

チャットを無視されたいら立ちもあった。里奈の口調は思わず鋭くなってしまった。すると孝は乱暴に箸を机に置いた。黙って部屋を出ようとするのを里奈は呼び止める。

「ちょっと、待ちなさいよ。お母さんに将来のことをちゃんと話しなさいよ。お母さんには聞く権利があるでしょ!」

「ちゃんと考えてるよ。母さんには関係ないだろ」

孝は立ち止まって面倒くさそうに吐き捨てる。

「私が、どれだけあなたのためにお金を使っているか、考えてくれたことある⁉」

里奈は言い終えた瞬間に、しまった、と思った。お金のことだけは孝に心配させないと決めていたはずだった。

「そんなに嫌なら、止めていいよ。これからは俺がバイトして、自分の金で通うから」

そう言い残し、勢いよく扉を閉めてリビングから出ていった。

里奈は頭を抱えた。親として最低なことを言ってしまったと後悔するが、遅かった。机に突っ伏した里奈の目に、棚の上に飾ってある家族3人で撮った写真が映る。今の状態は当然の罰なのかもしれない、と里奈は思った。

洋祐が生きていたころは幸せだった。3人でいろいろなところに遊びに行った。しかし1人になってからは、孝を育てるために懸命に働いてきただけだった。いつも家を空け、父親を失って寂しい思いをしている孝に寄り添った記憶すらない。仕事は言い訳だった。里奈だって、洋祐を失ったことがつらかった。立ち止まれば悲しみに足を取られてしまうと思った。

思えば、そのときからずっと、孝との距離は開いていたのかもしれない。

息子までも交通事故に…

それから、孝とはろくに話せないまま1週間がたった。孝は相変わらずバイトざんまいで帰りは遅い。3回に1回くらいは連絡も返ってくるようになったが、文面はいつも素っ気ない事務連絡だ。里奈は仕事終わりにスーパーで買い物をし、車に乗り込む。家に帰ろうとエンジンをかけようとしたとき、かばんに入れていたスマホが震えた。職場からだと嫌だなと思いながら取り出すと、見ず知らずの番号からだった。

「……もしもし」

「下条里奈さんでよろしかったですか?」

電話の相手は女性だった。

「ええ、はい。下条ですが、どちらさまですか……?」

「○○大学病院、救命救急センターの吉川です」

「え……⁉」

思わず携帯を落としそうになった。

「今すぐ病院に来てください。下条孝さんが交通事故に遭われて……」

続く言葉はうまく聞き取れなかった。交通事故と言われた瞬間、里奈の頭は真っ白になっていた。

●夫に続き息子までもが交通事故に……。孝の容体は? 後編「これ以上、母さんに迷惑をかけられない」交通事故で夫を亡くし…シンママが思わぬ事から知った「切なすぎる息子の本音」】にて、詳細をお届けします。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

梅田 衛基/ライター/編集者

株式会社STSデジタル所属の編集者・ライター。マネー、グルメ、ファッション、ライフスタイルなど、ジャンルを問わない取材記事の執筆、小説編集などに従事している。

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