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「これ以上、母さんに迷惑をかけられない」交通事故で夫を亡くし…シンママが思わぬ事から知った「切なすぎる息子の本音」

Finasee / 2024年10月16日 17時0分

「これ以上、母さんに迷惑をかけられない」交通事故で夫を亡くし…シンママが思わぬ事から知った「切なすぎる息子の本音」

Finasee(フィナシー)

<前編のあらすじ>

里奈(47歳)は最近、大学生の息子の孝(20歳)が何を考えているのか分からなかった。家にはほとんど寄り付かず、バイトやサークルざんまいの日々を過ごしていて、里奈からの連絡も既読スルーをする始末。

父親は孝が中学生のときに交通事故で亡くなっていた。父親と仲の良かった孝は、父親ならばもっと腹を割って話すこともできたのかもしれない……と思うものの、里奈にはうまくできなかった。

そんな矢先、息子がピザ配達のバイトの途中で交通事故に遭ったと連絡が入った……。

●前編:「どれだけあなたのためにお金を使ってるか」連絡は既読スルー、帰りの遅い息子にシンママが放った「取り返しのつかない一言」

思い出す悪夢のような時間

6年前、洋祐が事故に遭ったと電話をもらったとき、里奈は仕事をしていた。電話先の看護師は、できるだけ早く病院に来るようにと念を押した。病院に駆けつけた里奈が声を掛けると、まるで到着を待っていたかのように息を引き取った――。そんな記憶が、里奈の脳裏を駆け巡っていた。

孝まで交通事故で失うことになってしまったら、もう何を目的に生きていけばいいのか分からない。病院についた里奈は看護師の後に続いて孝のもとへ向かう。心臓が早鐘を打ち、呼吸が浅く荒くなる。看護師に案内された部屋に入ると、簡易ベッドの上には腕にギプスをはめた孝の姿があった。こちらを見る孝を確認し、里奈はその場で泣き崩れた。安堵の涙だった。

落ち着くのを待っていた看護師に支えられ、用意された椅子に座る。そこから医師の話を涙を拭きながら聞く。腕を骨折しているが、入院の必要はないということだった。どうやら、孝はバイトで原付きを走らせているときに、運転を誤って転んでしまったらしい。誰かを傷つけたりしたわけでもないので、その点も本当に良かったと里奈は胸をなで下ろした。

「本当に良かった……」

落ち着いた里奈は孝の存在を確かめるように手を握った。最近の孝なら拒絶されていたはずだが、孝にその素振りは見えなかった。

「……あなたがもし、いなくなったらと思うと、もう本当に不安で」

里奈がそう声をかけるのだが、孝の表情は浮かなかった。

「それじゃ、……帰ろうか」

里奈は立ち上がり、孝のトートバッグを持ち上げる。バイト中の事故だったが、連絡を受けた店長が一足先に荷物を運んできてくれたらしく、大学のテキストに加えてバイトの着替えも詰め込まれたバッグはずっしりと重い。

「自分で持てるよ」

「いいからいいから。けが人は甘えてればいいの」

里奈は医師にもう一度礼を言って、病院を後にした。

これ以上、母さんに迷惑をかけるわけにはいかない

「バイト着、洗濯しちゃうからね」

家に着いた里奈はそのままトートバッグを洗面所まで運び、閉じられていたスナップを外す。

「あ、ちょっと待って」と、慌てた孝が洗面所に駆けつけたときはもう遅く、バイト着を取り出した里奈の目には、その奥に入っていた海外留学と書かれたパンフレットが見えていた。

「……何これ?」

里奈が手にしたパンフレットを見て、孝はしまったという顔をする。

「海外留学って何? どういうこと?」

「……何でもいいだろ。勝手に見るなよ」

「勝手にじゃないでしょ。海外留学の話なんて私が聞いてないわよ?」

里奈は自分の口調がまた強くなっていることに気付き、深呼吸をした。

「どういうこと? ちゃんと話して」

しかし、孝の口は重く閉ざされている。

「あなたが何をしたいのか、ちゃんと知っておきたいの。そうじゃないと、こっちだって応援できないでしょ?」

「海外留学を考えてたんだよ、前から……」

「どうして?」

孝は首筋をかく。

「英語、勉強したいと思って。翻訳とか、興味あるから……」

「そうだったんだ」

「やっぱり日本で勉強するだけじゃ限界があって、いろいろ考えたけどやっぱ留学費用って高いし。でもうちの大学、オーストラリアの姉妹校との1年間の交換留学のプログラムがあるから、それなら学内の審査に通れば、100万くらいで行けるんだ。そんくらいなら、俺のバイト代でもなんとかなるかなって思って」

「じゃあ、最近バイト頑張ってたのって……」

孝はうなずいた。里奈は何も気づいていなかった。孝が具体的に考えて留学のために行動していたことも、翻訳の仕事に就きたいと思っていることも、何ひとつ。

「でも、もう、無理だね……」

「何でよ?」

「だってもうこれじゃ、しばらく働けないから……。審査に通っても、金払えないよ」

孝の目には涙が浮かんでいた。里奈は唇をかんだ。

「何で相談してくれなかったの」

里奈が吐き出した言葉に、孝は苦しそうに眉間にしわを寄せた。

「母さんに言ったら、また迷惑をかけると思って」

「迷惑……?」

「もう、これ以上、母さんに迷惑をかけるわけにはいかないだろ。母さんは俺のためにずっと頑張って働いてくれてきたじゃん。だから、留学費用まで出してなんて言えねえよ」

隠されていたことにはショックを覚えたが、それ以上に、親として失格だと自分を責めた。金銭的なことについて、孝は里奈のことを気遣っていたのだ。里奈はけんかをしたときに、思わず学費のことを言ってしまったことを、余計に悔やんだ。

息子のことが分からないと思っていた。しかし孝は昔と変わらず、優しい性格のままだった。

「お金なんて、気にしなくていいのよ。留学くらい、全然なんとかなるんだから」

「でも、費用は……?」

里奈は孝を安心させようと笑みを浮かべた。

「孝が小学生の時から、洋祐と2人でコツコツためてた学資積立があるの」

「……それは知ってるよ。それで大学に入学できたんでしょ?」

里奈は首を横に振る。

「ううん。まだ満期金は受け取ってないの。私立の大学は学費が高いから、もしものときに取っておこうと思って。だから入学費用は洋祐の保険金と私が働いたお金から出してるの」

孝は驚きの表情になる。

「え……?」

「だから、留学費用は十分、準備できるよ」

「……うん」

里奈は背中を軽くたたく。その瞬間、安堵したからか、孝の目から涙がこぼれる。母親に泣いているところを見られるのも嫌だろうと思い、里奈は孝を抱きしめる。抱きしめてから、これも嫌だっただろうかと思ったが、孝はそのまま動かなかった。

ひと回り大きくなった背中

それから半年後、骨折も完治した孝は無事にオーストラリアへの留学を勝ち取った。里奈も休みを取って、空港へとやってきていた。

「1年かぁ、寂しくなっちゃうね」

冗談めかして言うと、孝は思いのほか申し訳なさそうに眉尻を下げていた。

「大丈夫。夏休みとかにはちゃんと帰ってくるから」

「いいよ、無理しないで。向こうでできる友達と遊んだりもするでしょ。気のすむまでとことん英語漬けになっておいで。あ、もちろんホームシックになったらいつでも帰っておいでね」

里奈は孝の肩をたたく。いつの間にか、身体も心もすっかりたくましくなっている。

「ありがとう。母さん」

「いってらっしゃい」

「うん、いってきます」

スーツケースを引きながら歩き出した息子の後ろ姿を、笑顔で見送る。ほんの少しだけ、そのいとしい背中の輪郭がにじんだ。

複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

梅田 衛基/ライター/編集者

株式会社STSデジタル所属の編集者・ライター。マネー、グルメ、ファッション、ライフスタイルなど、ジャンルを問わない取材記事の執筆、小説編集などに従事している。

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