耐えがたい異臭…飼育崩壊の隣人に我慢の限界、猫が増えすぎた「驚きの理由」
Finasee / 2024年10月11日 17時0分
Finasee(フィナシー)
<前編のあらすじ>
郁美(42歳)と夫の宗司(41歳)は、リノベーションされたマンションに引っ越してきて三カ月になる。築年数は古いものの、ホテルのように洗練された内装を郁美はとても気に入っていた。
しかし夏になると、隣人の貴理子という50代風の女性の部屋から漂ってくる悪臭に悩まされ続ける。エレベーターで偶然会った貴理子へとやんわり探りを入れてみるが、歯切れの悪い答えで、結局原因は分からずじまいだった。
夫に相談し、管理会社に連絡するが、一向に解決する兆しもない。いよいよ我慢の限界に達した郁美は、貴理子の部屋へ突撃することに決めた。
●前編:「何かが腐ったみたいな…」隣人との“異臭トラブル”に耐えかねた末、40代在宅主婦がとった「あり得ない行動」
ニオイの正体は…郁美は思い切って貴理子の部屋のインターホンを押した。控えめな性格の貴理子に強く物を言うのは心苦しいが、このままでは自分の生活が台無しだ。チャイムから数秒後、ドアが静かに開いて貴理子が顔を出した。いつもの柔らかな笑顔を浮かべているが、どこかぎこちなさも感じる気がした。
「こんにちは、丹羽さん。どうかされました?」
郁美は一瞬ためらったが、深呼吸して本題に入った。
「すみません、こんなこと言うのは心苦しいんですが、ずっと気になっていたことがあって……お宅から漂ってくる臭いが、最近本当にひどくて。何か原因があるんでしょうか? 私もう、耐えられないんです」
郁美が必死に伝えると、貴理子の表情が固まった。
「それは……本当にごめんなさい。最近、掃除が行き届いていなくて……」
貴理子が苦し紛れの言い訳を始めたそのとき、部屋の中から「ミャーミャー」と鳴く声が聞こえてきた。よく聞くと何かをガリガリと引っかくような音も混じっているようだった。
「今の、何の音ですか?」
「え? あ、あの……ちょっとテレビがつけっぱなしで……」
貴理子はとぼけた顔で笑ったが、そんなことで引き下がる郁美ではない。
「そんなわけないですよね? 明らかに部屋の中に何かいますよね? 」
郁美は、半開きのドアに頭を入れて中をのぞき込んだ。部屋の奥からは、強烈なアンモニア臭が一気に押し寄せてきて、郁美は思わず息を止め、手のひらで口と鼻を覆った。窓を開けたときに部屋に入ってくる臭いとは比べ物にならないひどさだった。
「何の臭い……」
郁美がつぶやくや、「みゃぁ」とか細い声が聞こえた。半開きになっていたリビングの扉の隙間から茶色と白のしま模様がのぞく。
「猫……?」
「あぁ、はい」
目を見開いて固まっていた貴理子だったが、廊下を通って歩み寄ってきた猫を抱きかかえると、観念したように郁美を部屋へ招き入れた。
室内は、郁美の予想以上に雑然としていた。破れて剝がれかけた壁紙、無数の引っかき傷が残る柱、汚れたままの猫トイレ――
そして何より、数えきれないほど大量の猫たち。
「猫が……こんなに……」
ソファの上、日の当たる窓際、床のあちこちに猫がいた。おとなしい子もいれば、活発に動き回っている子もいて、正確な数は数えられない。目に見える範囲だけで、10匹以上の猫がいた。
「ごめんなさい……本当に、ごめんなさい」
貴理子が再び謝る。
郁美は言葉を失ったまま、辺りを見回した。部屋のあちこちに猫用の毛布やおもちゃ、床にちらばったキャットフード、そして何より部屋全体に漂う強烈な臭い。大量の猫たちが原因を作っているのは、もはや疑いようがなかった。これが世に言う飼育崩壊という状態なのだろうか。
困っている者を見捨てられない「ねえ、貴理子さん……どうして、こんなにたくさん猫がいるんですか……?」
言葉を選びながら郁美が尋ねると、貴理子はうつむいたままポツリポツリと話し始めた。
「この子たちはみんな、元は野良なんです。最初は1匹だけでした。雨の日に捨てられていた子猫を見つけて……どうしてもそのまま見捨てることができずに拾ってしまったんです」
郁美はあきれながらも、黙って貴理子の話に耳を傾けた。
「最初は本当に1匹だけのつもりだったんですが、かわいそうな捨て猫や野良猫を見ると、つい世話を焼きたくなってしまって……連れて帰った猫たちは、いつのまにか増えてしまうし、どうにかしなきゃと思っていたんですけど、気が付いたら手に負えなくなってしまっていて……」
郁美はその話を聞いて、少し同情する気持ちが湧いた。お人よしで困っている者を見捨てられない。そのくせ、不器用で人に頼るのが苦手。郁美には、貴理子のような人物に心当たりがあった。
それは父だ。虫も殺せないほど優しい性格の父は、いつも抱えなくていい面倒事を抱えていた。母は「損な性分だ」と愚痴っていたけれど、郁美はそんな父が嫌いになれなかった。貴理子に対しても、先ほどまでのような怒りの気持ちはない。決して悪意を持って猫を増やしていたわけではないことが分かったからだ。しかし、それでもこの状況は明らかに異常だ。臭いも我慢はならない。速やかに改善しなければと思った。
「でも、貴理子さん、このマンションはペット禁止ですよね? 臭いもひどいし、他の住民にも迷惑がかかっていると思います」
郁美は冷静に、しかし力強く言った。貴理子は肩を落とし、無言でうなずいた。
「はい、自分でも分かってはいるんです。でも、具体的にどうすればいいか分からなくて……」
郁美はしばらく考えた後、優しく言葉を続けた。
「まず、臭いの対策をしましょう。それで……猫たちの新しい飼い主を探しましょう。やっぱり、ここで飼うのは難しいですよ」
「分かりました……臭い対策、ちゃんとやります。それに、この子たちの新しい家も探します」
貴理子は、郁美の言葉に大きくうなずくと、必ず現在の状況を改善すると約束してくれた。
貴理子の真剣な表情に少し安堵した郁美だったが、それだけでは終わらなかった。
それぞれ、新しい生活へ数週間後、マンションの他の住人からの通報で、貴理子がペットを飼っていることが管理会社に伝わることとなった。即刻退去とはならなかったものの、貴理子はオーナーから厳重に注意を受けた。そして、今飼っている猫たちの飼い主を速やかに見つけること、退去時には原状回復費用を支払うことを約束させられたという。
ちなみに猫たちの里親探しのために与えられた猶予は2カ月。期限を過ぎても部屋に残っている猫は、保健所に引き取ってもらうことになったらしい。
その話を聞いた郁美は心が揺れた。保健所が動物を引き取る場合、殺処分になる可能性もある。契約違反を犯していたとはいえ、貴理子は猫たちを大切にしていた。その猫たちの幸せを考えれば、2カ月という猶予期間が短すぎることは明らかだった。
「あのね宗司、私……猫たちの里親探しを手伝いたい」
郁美は悩んだ末、宗司に自分の考えを告げることにした。人に頼み事などできなさそうな、おっとりした性格の貴理子1人で、あの大量の猫たちを里親に出せるとは到底思えなかったからだ。
「やっぱりね。郁美ならそう言うだろうと思った。せっかくだから僕も手伝うよ」
こうして郁美と宗司は、猫たちの里親探しを手伝うことになった。郁美はWEBデザイナーとしての腕を生かし、猫の特徴や性格が伝わる温かみのあるチラシをデザインした。宗司はプロのカメラマンとして、猫の一瞬のしぐさや表情を見事に捉えた写真を次々に撮影した。あっという間に、かわいい猫たちがいっぱいの優しいパステルカラーに彩られた里親募集チラシが出来上がった。
完成したチラシや猫たちの写真は、郁美と宗司がそれぞれSNSで拡散した。貴理子は、地域のスーパーマーケットやペット用品の販売店、動物病院にも直接足を運んで、チラシを掲示してもらえるよう交渉した。
思ったよりも多くの人たちが関心を寄せてくれたおかげで、タイムリミットの2カ月を迎える頃には、ほとんどの猫に新しい飼い主が見つかった。最後まで里親が見つからなかった数匹の猫は、猶予期間ぎりぎりで、保護猫活動を行っている地域の団体に引き取ってもらうことになった。
貴理子の猫たちはみんな無事に、次の生活へと巣立っていった。
「これで、少しは落ち着けるわね」
静かになった貴理子の部屋を見て、郁美は笑顔でそう言った。爪のあとや使われなくなったトイレなど、猫たちが暮らしていた痕跡だけが残る部屋は少し寂しいが、貴理子も心の重荷が少し軽くなった様子でほほ笑んでいた。
「本当に何とお礼を言ったらいいか……あなたのおかげであの子たちも私も助かりました。ありがとう、郁美さん」
「いえいえ、お隣さんですから……」
真っすぐに感謝を向けられると、郁美は少し気恥ずかしくなった。
「そうだ。何匹か引き取ってくれた人のなかに、猫カフェのオーナーさんがいて、良かったら今度遊びに来てくださいって誘われてるんです。貴理子さんも一緒にどうです?」
「それは、すてき。またあの子たちに会えるのね」
郁美は貴理子と猫カフェに行く予定を立て、カレンダーに入れた。開いている窓からは秋風がそよぎ、ほんの少しキンモクセイの甘い香りがした。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
梅田 衛基/ライター/編集者
株式会社STSデジタル所属の編集者・ライター。マネー、グルメ、ファッション、ライフスタイルなど、ジャンルを問わない取材記事の執筆、小説編集などに従事している。
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