1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. 経済

「また粉ミルクをあげてる」“母乳信者”の義母に悩まされ…主婦が直面した「無慈悲な体の異変」とは?

Finasee / 2024年10月15日 17時0分

「また粉ミルクをあげてる」“母乳信者”の義母に悩まされ…主婦が直面した「無慈悲な体の異変」とは?

Finasee(フィナシー)

昼下がり。洗濯機が脱水を終えた音を鳴らした瞬間に、リビングの陸人が泣き出した。ついさっき、ようやく寝かしつけたのに。萌は思わず出そうになったため息をのみ込んでリビングに向かった。

「陸人~、どうしたのぉ」

萌は陸人をベッドから抱き上げ、優しい言葉をかける。ミルクはさっきあげたばかりだし、においを嗅いでみる感じはオムツでもない。泣いている理由が分からなかったが萌は困惑することもできず、陸人をあやし続ける。生まれてまだ4カ月の陸人は当然手の掛かる存在だ。だが、同時に愛くるしい存在でもある。

萌と夫の真也は長い間、不妊で悩んでいた。長い不妊治療の末、結婚してから6年目、32歳のときにようやく第1子を迎えることができた。もちろん初めての子どもなので何もかもが手探りだ。ネットで情報を集め、同じように子育てをするママたちのおすすめに倣いながら子育てに励んでいる。懸命にあやしたかいがあって、再び眠りに就いた陸人を慎重にベッドへ寝かせ、中断していた家事を再開する。

ここ最近、子供を持つ親の大変さを身にしみて感じるばかりだ。友達の子育ての愚痴を聞いていたときは、そんなことで悩めるのがうらやましいと思った。自分ならもっと効率的にできるとすら思っていた。だが実際にやってみると、何一つ思った通りにはいかないし、子供がかわいいと言うだけでは耐えられない状況があるのも分かる。だからこそ、義母の暁子が手伝いに来てくれることを、萌はとてもありがたく思っている。

「いつもすいません。陸人はついさっき寝たところで」

玄関で靴を脱ぐ暁子から荷物を受け取る。紙袋のなかにはいくつもの食品保存容器が入っていた。

「わ、これ煮物ですか? ありがとうございます」

「いいのいいの。作りすぎちゃったから、それに育児で忙しいと料理なんて手を抜きがちなんだから、たまにはこういうものもしっかりと食べないと。洗濯ものの途中だったのね。あとは任せて、萌さんはちょっと休んでなさい」

暁子は家に上がるや早速洗面所へと向かい、洗濯機から洗濯かごへと洗った洋服を詰め替えていく。暁子の家事は手際がよく、本当に助かる。萌は暁子の言葉に甘えてソファに腰を下ろした。思えば朝からほとんど座っていなかった。ふくらはぎをもみほぐしながら、SNSを眺める。フィードに出てきたインフルエンサーは陸人と同じくらいの赤ん坊を連れて、友人たちとおしゃれなカフェでランチをした写真を上げていた。動きづらそうなタイトワンピースに、上品なメイクにネイル。赤ん坊だってブランドもののロンパースを着ている。一方、萌はと言えば、化粧もせず、動きやすさ重視のスエットに襟のよれたTシャツ姿。美容院にもネイルサロンも、もう半年以上行けていない。

「また粉ミルクをあげてる」

久しぶりに美容院くらい行こうかと毛先の枝毛を眺めた矢先、陸人が爆発したように泣き声を上げる。時計を見れば15時を回っている。陸人のミルクの時間だった。萌は立ち上がり、哺乳瓶にミルクを用意する。ミルクを飲み始めると陸人はすぐに泣きやんだ。夢中で飲む姿を見ているだけで、萌は思わず頰が緩んでしまう。

「あ、また粉ミルクをあげてる」

声がして振り返ると、そこには洗濯ものを干し終えた暁子の姿があった。暁子はしかめ面で萌がミルクをあげている様子をにらみ、あからさまなため息をついた。

「萌さん、私はいつも言ってるでしょ。子供には母乳が一番なんだって。どうして、そんな粉ミルクなんてあげるの? 陸人のことがかわいくないの?」

萌は内心で深くため息をつく。暁子がこうして家事を手伝ってくれることはとてもありがたい。子育てをしていく上で、人手が多いことはとても助かるし、暁子は手際よくてきぱきとやってくれている。それは認めた上で、困っているのが授乳に関してだ。暁子は毎回、母乳で授乳することを求めてくるのだ。

「お義母(かあ)さん、毎回言ってますけど、私は母乳が出にくい体質なんですよ。だから粉ミルクを使ってるんです」

「あのね、それはあなたの体調管理に問題があるの。しっかりと食事を取って、早寝早起きを心掛ければ、母乳は出るようになるって言ってるでしょ。あなたの不摂生で、陸人が粉ミルクなんて飲まされてかわいそうじゃない。体質体質って、そんな便利な言葉で母親の怠慢を正当化しないでちょうだい」

そうはいっても陸人の世話をしていれば自分の食事はどうしたって二の次になってしまう。それに、暁子は昼間の陸人しか知らないが。陸人は夜泣きがひどかった。早寝早起きの規則正しい生活なんてできるはずもない。

「粉ミルクをどうしてそんなに敵対視するんですか? 今は粉ミルクだって母乳とほぼ同じ成分が使われてるんですよ」

暁子の表情がどんどん真顔になっていく。暁子は怒りが募るほど、表情から感情がなくなっていくのだ。

「子供っていうのはね、昔から母乳で育てるものなの。それは決まってるの。真也だって母乳を飲ませたおかげで、元気に育ったんだから。粉ミルクは無駄なお金もかかるんだし、今すぐに止めて、ちゃんと母乳に切り替えなさい!」

暁子が声を張り上げると、びっくりした陸人が泣き出してしまった。

「あぁ、よしよし、泣かないで~、びっくりしたね~」

萌が陸人をあやし始めると、暁子もそれ以上は何も言わなかった。しかしなかなか泣きやまない陸人を腕に抱きながら、萌のなかにはもやのような、しこりのような、居ずまいの悪さが残った。

夫に相談するも…

「ねえ、お義母(かあ)さんにまた粉ミルクのことを言われたんだけど……」

仕事から帰宅した夫の真也に、愚痴をこぼす。夕食の煮物をつまみながら、真也は困ったような顔をする。

「母さんも、しつこいよな。別に陸人の体調には何の問題もないんだろ?」

「うん、ちゃんと4カ月検診も受けたけど、お医者さんは順調に育ってるって言ってくれてたのよ」

「そのことは母さんに言ったのか?」

萌は頰づえをついて、ため息をつく。

「当たり前じゃない。元気に育ってるのがお義母(かあ)さんには見えてないのかしら? 母乳にこだわりたい気持ちは分からないでもないけど、今と昔じゃ粉ミルクの質だって全然違うのにね」

「ホントだよなぁ」

まるでひとごとのような真也の相づちに萌はいら立ちを覚えた。

「ねえ、真也からもお義母(かあ)さんに言ってよ。手伝ってくれてることに感謝してるけど、ミルクのことは私たちに任せてくださいって」

「あ、ああ。もちろん。言うよ。今以上にキツい言い方をするようになったら、俺からもちゃんと注意するからさ」

しかし、真也は暁子に対して、何も注意してくれることはなく、暁子の母乳へのこだわりは日に日に厳しくなっていった。粉ミルクが子供に与える悪影響など、真偽不明の偏った情報を調べてきてはプリントアウトした紙の束を押し付けてくる。萌はそのたびに自分の体質のことを話し、何度も同じ説明を繰り返したが、効果はなかった。もちろん暁子だってただ嫌みを言っているわけではないことは分かっている。陸人を思っての発言だと理解できるからこそ、強く否定することも難しかった。

そんな日々が続いていたある日、萌は自身の体に異変が起こっていることに気付いた。

風呂上りに髪をといたブラシに、常軌を逸した量の髪がからまった。思わず鏡を見ると、おでこの少し上のあたりに親指の爪程度の地肌が見えていた。

●ストレスで髪が抜けてしまった萌。義母を納得させることはできるのか……? 後編「母親として情けない」義母の“母乳信仰”で円形脱毛症に…理不尽な義母を黙らせた「意外な人物」】にて、詳細をお届けします。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

梅田 衛基/ライター/編集者

株式会社STSデジタル所属の編集者・ライター。マネー、グルメ、ファッション、ライフスタイルなど、ジャンルを問わない取材記事の執筆、小説編集などに従事している。

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください