経済圏に属さない“独立系”の松井証券―厳しい口座獲得競争を戦うための“武器”は…
Finasee / 2024年10月22日 11時0分
Finasee(フィナシー)
SBI証券、楽天証券が2強といわれて久しいインターネット証券。しかし、株式委託手数料自由化のきっかけを作ったのが松井証券であることをご存じだろうか。
長らく日本株に特化してきたからか、競争が激化する証券ビジネスにおいて一歩、後れを取ってしまったかに見えたものの、ここに来て映像コンテンツを武器に再び注目を浴びている。
抜群の登録者数※1、再生回数を誇る映像コンテンツの裏話や成功の秘訣(ひけつ)について投資メディア部シニアプロフェッショナル・コンテンツプロデューサーの武藤正樹氏に、そしてこれからの投信ビジネス戦略をマーケティング部副部長の種田真二氏に聞いた。
※1 松井証券のYouTube動画チャンネル登録者数は、10月8日時点で37.5万人。
***
――松井証券といえば、真っ先にユニークなYouTubeコンテンツを思い浮かべる個人投資家は多いはずです。そのなかでも、とりわけ有名なのは、お笑いタレント・マヂカルラブリーを起用した、「資産運用!学べるラブリー」シリーズだと思いますが、立ち上げるきっかけ、キャスティングの狙いなどについて伺えますか。
武藤正樹氏(以下、武藤) 動画コンテンツ制作を担当する前は、マーケティング部で会場での自社セミナーの開催・運営を担当していました。ただ、会場でのリアルセミナーはコストがかかりますし、何よりも人手が必要です。そう何度も開催できるものではありませんし、初心者から経験者まで集まるなかで、どこに話の焦点を合わせれば良いのかが分かりにくい。これらの課題を解決する何か良い手はないかと考えている時にコロナ禍があり、リアルセミナーの開催そのものが難しくなりました。そこで思いついたのがYouTubeを活用した動画コンテンツの配信でした。
証券会社が開催するリアルセミナーは、大体2パターンに分かれます。ひとつは本当の初心者向け、もうひとつはマクロ経済などに関する上級者向けで、両者のレベルには天と地の差があります。そして、その間を埋めるコンテンツが求められている割には存在しないため、ブルーオーシャンなのではないかと考えました。また、金融に関するテーマは難しそう、とっつきづらいと思われがちなので、それらを簡単に表現する方法を模索しました。そこで浮かんだのが、お笑いでした。
お笑いにはツッコミが存在します。つまり、金融機関側が提示したとっつきづらいテーマや内容に対して、お客さまの目線からツッコミが入ることで、動画にもかかわらず双方向的な構成がなされます。マヂカルラブリーさんの場合、そのツッコミの能力に長けていると感じたため、動画コンテンツ制作の企画を持ち掛けました。
投資メディア部シニアプロフェッショナル・コンテンツプロデューサー 武藤正樹氏――武藤さんご自身も出演者として登場されています。出演するにあたって、何か心がけていることはありますか。
武藤 コンテンツ企画者としての自分と、出演者としての自分は別モノであると考えています。出演者の自分は金融知識や松井証券の商品・サービスを説明する人という立ち位置で、それを観てくださっている人たちに対して、どうすれば分かりやすく伝わるかということに心を砕いています。
おかげさまで、この動画コンテンツもシーズン14まで続いていますが、シーズン1の内容は、今、見返してみるとセミナーの延長線だったと感じます。セミナーで話していることを、マヂカルラブリーさんを交えて楽しく解説するという建付けではありましたが、双方向的な構成がまだまだ弱かったと思います。シーズン2からは個人投資家のテスタさんにも出演いただき、学校形式でよりバラエティー色を強めた内容にしましたが、それにより出演者としての自分の意識も高まったように思います。収録ではアドリブが入ることが多いのですが、他の出演者の方の動きを見ながら、観ている方に楽しんでもらうために自分はどう動いたらよいか? と、頭をフル回転させています。
――実際の口座開設や預かり資産に、動画コンテンツはどのような影響を及ぼしていますか。
武藤 YouTubeの再生回数や登録者数が増えたところで、それが新規口座開設や預かり資産の増加に直接的な影響を計測する手段が乏しかったので、昨年からの取り組みとして会員限定動画をスタートさせました。動画コンテンツを観ていただいた方を中心にして、口座開設につながったかどうかが分かるようになっていて、KPIとして設定されています。視聴できる方を限定してしまうという点は心苦しくはありますが、企画を継続させていくためには、どうしても成果を明確にしていく必要があります。 そのかいあって、現時点ではそれをクリアできるだけの成果が上がっています。
――他の金融機関でも、最近は動画コンテンツを制作する動きはありますが、どのような点で差別化できていると考えていますか。
武藤 やはり、実際にお客さまと接するなかで、“どういうことが求められているのかを起点にして”コンテンツを制作している点だと思います。
タレントさんを使うことによって、より多くお客様と接点を持ちたいというのが、恐らく多くの金融機関の発想の起点だと思うのですが、私たちがタレントさんに出演してもらっているのは、あくまでも企画の内容をより良くするための味付けのひとつという考え方です。お笑いやタレントさんの出演がなくても成立するコンテンツをつくるのが大前提で、それをより面白く、分かりやすく伝えるための手段として、お笑いの要素を組み込んだり、タレントの方々にご出演いただいたりしています。
――「どういうことが求められているのかを起点にして」とのことですが、具体的にたとえば、どのようなことが求められているのでしょうか。
武藤 たとえばオール・カントリーやS&P500のインデックスファンドで積立投資をしている人がいるとします。当然、投資信託である以上、マーケットに応じて基準価額が変動するわけですが、積立投資ならば教科書的には「投資を続ける」になります。また、個別株であれば、引き続き保有したり、損切りしたりするなど、投資の目的に応じてどういった行動が適切なのかが変わります。ただ、教科書通りの内容を伝えていくだけではなく、我々のような証券会社やテスタさんのような投資家の目線を合わせて提供することが価値と考えています。
――さて、話を投資信託に移していきたいと思います。松井証券といえば、日本株のイメージが強い印象を受けます。そのなかで近年、「収益源の多様化」を掲げていますが、多角化を進めるなかで投資信託の位置づけは、どのようなものでしょうか。
種田真二氏(以下、種田) 私たちが投資信託ビジネスに参入したのは2016年ですから、かなり後発でした。それまでは日本株ビジネスに注力していましたが、15年前、20年前に比べて、日本株以外から投資を始める人が増えていると感じています。
松井証券の投資信託サービスでは、最低100円から購入できますし、購入手数料もかからないので、投資の入門版として親しみやすく感じてもらっていると思います。今年1月から開始した新NISAのスタートもきっかけになり、投資を始める方が急増しました。特に投資信託の積み立てによる資産形成を始められるお客さまは、最初の預かり資産は小さいかもしれませんが、長いお付き合いをさせていただくことになりますから、当社の将来にとっては非常に重要になります。
NISAによる資産形成の大切さは、昨年からメディアでも積極的に取り上げられるようになって、先述の通り、口座数も伸びています。ただ、投資を行っていない人が世間ではまだまだ大多数を占めています。今は第1段階目で、これからさらに投資を始める方が増えていくでしょうから、投資信託を投資の入り口として、資産形成に対する興味を高めていただけるようなサービス開発、情報提供などに注力していきたいと思います。
マーケティング部副部長 種田真二氏――現状、インターネット証券会社は口座数※2で見ると、SBI証券、楽天証券が2強です。そんななか、松井証券の強みや独自性はどこにありますか。
種田 意思決定のスピードです。他の大手インターネット証券会社は何かしらのグループに属し、どうしても親会社の意向が絡んできますから、判断を下すまでのプロセスが煩雑になりがちです。
この点、我々はいわゆる“独立系”の証券会社なので、承認プロセスが極めてシンプルです。その結果、他の会社に先立って、新しいサービスや商品を打ち出すことができます。
たとえば昨年(2023年)11月に、業界最高の還元率を誇る「最大1%貯まる投信残高ポイントサービス ※3」を開始した時も、検討からサービス発表まで短期間に行い、サービスを開始しました。
また、同じ時期に、NISA口座における米国株式の取引手数料無料化を他社に先駆けて発表しました。
近年ではポイント付与によってお客さまを囲い込み、“経済圏”を形成する動きもありますが、大事なのは口座の稼働率です。新規口座を獲得しても、取引してもらえないのでは何の意味もありません。その点で問われるのは、「お客さまが投資を続けてくださるサービスや取引環境を提供すること」だと考えています。
また、投資信託を販売してもなかなか収益化できないという声もありますが、それはお取引いただくための入り口であり、重要なのは長期で考えていくことです。それこそ日本株、米国株、FXなどさまざまな取引商品がそろっていますので、投資信託で資産形成に関心を持っていただき、その次の段階で他の投資商品にも目を向けていただければと考えています。
今後も松井証券に口座を開いてみようと思ってくださるお客さまを増やすため、松井証券ならではの利便性を一段と高めるサービスなどを提供していきますので、ご期待いただければと思います。
※2 2024年6月時点口座数で見るとSBI証券(SBIネオトレード証券、FOLIOを含む)は1293万6000口座、楽天証券は1133万口座、3番手であるマネックス証券は262万7000口座であるなか、松井証券は157万4000口座である(千未満は切り捨て/各社の公表資料より)。
※3 「最大1%貯まる投信残高ポイントサービス」は、低コストのインデックス投信からアクティブ投信まで、全ての銘柄で業界最高の還元率で松井証券ポイントが貯まるサービス。松井証券で投資信託を保有し、毎月エントリーをするだけで年間最大1%のポイントが貯まる。
Finasee編集部
「一億総資産形成時代、選択肢の多い老後を皆様に」をミッションに掲げるwebメディア。40~50代の資産形成層を主なターゲットとし、投資信託などの金融商品から、NISAや確定拠出年金といった制度、さらには金融業界の深掘り記事まで、多様化し、深化する資産形成・管理ニーズに合わせた記事を制作・編集している。
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