1週間の生活費が1000円…妻の親友の”結婚式の祝儀を渋る”ドケチ夫が「倹約をはじめた理由」
Finasee / 2024年10月21日 17時0分
Finasee(フィナシー)
広々とした都内、2LDKのマンションのリビングの椅子に座り、真悠は頭を抱えていた。机の上に広げた真悠の財布には、1000円札が1枚しか入っていない。夫の慧佑から生活費を渡される25日までは、あと1週間ある。つまり残り1週間、1000円で生活をしないといけないということだ。
冷蔵庫には野菜が少し残ってはいるけれど、メインの材料となる肉や魚はもうほとんど残っていなかった。この分は確実に買い足しをしないといけないだろう。自分の朝、昼のご飯は諦めるにしても、夜ご飯だけは準備しないといけなかった。
慧佑に正直に話して、生活費を追加してもらおうか?
脳裏に浮かんだ案を真悠はすぐに消した。そんなことできるわけがなかった。あのケチな夫が財布からお金を出す姿は、思い浮かべることすら難しい。残り1週間の過ごし方を考えているうちに、だんだんと真悠のなかで怒りが湧いてきた。髪がぼさぼさになるのもいとわずにかき乱す。
「あぁ、もう、なんでこんなことになったのよ……!」
真悠と慧佑が結婚したのは5年前。真悠が28歳、慧佑が32歳のときだった。慧佑は商社に勤めていて、給料もかなり良かった。さらに真面目な性分からか、お金がかかる趣味もなくとても堅実な生活を送っていた。
慧佑となら安心した生活を送ることができると思い、真悠はプロポーズを受け入れた。慧佑は思った通り、将来に向けての資産形成を丁寧に計画していたし、貯金だって申し分なかった。けれど、順風満帆に見えた結婚生活に最初のケチがついたのは、真悠が仕事を辞めたときだった。
真悠の母が専業主婦だったこともあってか、昔から夢はお嫁さんだった。友達に話すと目を丸くされることも少なくないけれど、家で夫の帰りを待つ主婦というのが、真悠の妻としての理想像だった。
結婚する前から寿退社をすると伝えていたこともあって、真悠は結婚した翌月に仕事を辞めた。しかし慧祐は本気だと思っていなかったらしく、「信じられない」と猛反対にあった。とはいえ、辞めてしまった以上時間を巻き戻すことはできない。しぶしぶ諦めたかに見えた慧祐だったけど、そこから度の過ぎた倹約生活がスタートしてしまったというわけだった。
毎月、渡される生活費は3万円。家賃だけは慧祐の口座から直接引き落とされているものの、生活費の3万円から食費や光熱費、医療費などを払わないといけない。毎月をしのぐのがやっとで、真悠が自由に使えるお金なんてほとんど残らなかった。
現在、慧佑の年収は800万ほどあり、同じような収入のある夫婦ならかなり良い生活ができるはずだ。それなのに慧佑はそれを許さない。極限まで出費を減らし、余ったお金は全て貯金と投資に回している。もちろん、真悠自身、慧佑の真面目で堅実な部分を好きになったのだけど、ここまで生活が苦しいのは完全に予想外だった。
こんな結婚生活を望んだわけじゃないのにと、わずかな所持金を見た真悠はもう一度髪をかき乱した。
友人とランチに行くにも夫の許可が必要だった「はい、これ、今月分ね」
無事に1週間をやり過ごし、慧佑は生活費を仏頂面で渡してくる。枚数をあっさり確認し終えた真悠は生活費を財布に入れた。
「先月、ギリギリだっただろ。明らかに晩飯のおかずが減ってたからな。今月はちゃんと計画通りに使うように頼むよ」
慧佑から小言を言われても、今日の真悠はいら立ったりしない。いつもより気分が良かった。久しぶりに友人からランチのお誘いを受けたのだ。もちろんこの出費も渡された生活費の中から出さないといけないのだけど、1度のランチ費用くらいなら何とかなるだろう。3万円を手にした月末の真悠は、いつも有頂天だ。
「あさってさ、友達とランチに行くけど、いいよね?」
とはいえ、こうして毎回、慧佑に許可を取らないといけないのは悩みの種でもある。だって慧佑は、こういうとき決まって顔をしかめるのだ。
「……またか。そうやってぜいたくをしているから、月末に苦しくなるんだぞ」
「うん、分かってるよ。ちゃんと計画通りにするからさ」
真悠は不満を押さえつけながら、笑顔を作っておく。
妻の親友への祝儀を渋る夫そうして迎えたランチの日。友達と会えたことは楽しかった。節約ご飯じゃないランチはとてもおいしかったけれど、真悠には悩みの種がまた1つ増えていた。
どうして少し楽しく生きていきたいだけなのに、こんなにもお金がかかるのだろうか。けれどこの悩みに関しては、自力ではもうどうすることもできない。夜、慧佑に話をすることにした。
「この間さ、ランチに行くって言ってたじゃない」
「ああ」
慧佑は新聞の経済欄を読みながら、適当な相づちをしてくる。
「今日、行ってきたの。そしたらその子がね、結婚するってことになって」
「……で?」
慧佑はもう真悠が何を言い出すのかを理解している。知ってて聞かれるのはいい気分じゃないけれど、背に腹は代えられないから真悠は口を開く。
「私も式に出たいから、ご祝儀とか、洋服代を出してもらってもいいかな?」
慧佑はため息をつきながら、新聞を折りたたむ。
「……どうしても出席しないといけないものなのか?」
「だって、親友の結婚式なのよ。出席したいじゃない」
慧佑は腕を組み、しばらく考えてうなずく。
「分かった。祝儀は3万だな。それは出そう」
「あと、ドレスとかヘアメイクもしたいんだけど……」
「それは勝手にしろ。俺は知らん」
「でも式に参加するためのドレスは昔のもので、今はもうだいぶ痩せちゃって体形に合わないし、ヘアメイクだって皆しっかりとしていくものなの。それはマナーだから」
「いつも行ってる美容室に頼めば良いだろ?」
女心が分からないとか、そういうレベルではないんじゃないだろうか。人として、というと大げさかもしれないけれど、慧祐にはそういうマナーや思いやりとか、そういうものが決定的に欠けていた。
「あんな、激安カットのお店でそんなことできるわけないでしょ。あそこは最低限のことしかやってくれないんだから……!」
真悠は思わず声を荒らげる。けれど慧佑は冷めた目線を真悠に向ける。
「あれこれと理由をつけて、単なる浪費をしたいだけにしか聞こえないな」
その瞬間、真悠のなかでたまっていたものがはち切れた。
慧佑の倹約は度を過ぎている。どうしてそこまで徹底するのか、さすがにもう分かっていた。仕事をしていない真悠への当てつけだ。慧祐は、自分の稼ぎで真悠が悠々自適に暮らすのが許せないのだ。慧佑が働いてくれていることへの負い目もあって、これまでずっと我慢していたけれど、もうさすがに限界だった。
「私はさ、普通にお友達の結婚式を祝いたいだけなの!」
大声を出した真悠に慧佑は驚きつつも、言い返してくる。
「俺はいつも、将来のためにお金をためるのが大事だと口酸っぱく言ってるのに、真悠だって全然理解してくれないだろ……!」
「分かってるよ。分かってるから、文句も言わずにやってきたじゃん。でも、将来のことが大切なのも分かるけどさ、私は今の生活だって楽しくやりたいよ。別にぜいたくな暮らしをしたいってわけじゃなくてさ、たまのランチとか、友達の結婚式とか、それくらいの楽しみがあったっていいじゃんか!」
慧佑は眉間を指で押さえる。
「……いいか、老後には月30万の生活費が必要と言われている。病気をすればもっとかかるかもしれない。そこに老人ホームの入居費用が必要となると、金はどれだけあっても足りないんだよ。そんな話は結婚前からしていて、真悠も了承していたはずだ」
「そうだね。結婚前はデートに連れて行ってくれたり、外食だってしてた。もっと普通だったから、私だって理解できた。でも、結婚してから、一緒に遊びに行くこともなくなった。こんなの節約じゃないよ。単に私と出歩くのが面倒くさいだけでしょ!」
真悠は積年の不満を慧佑にぶつけた。それに対して慧佑はあきれたようなため息を吐き、これ以上もう話すことはないと言わんばかりの態度でリビングを出て行ってしまった。
このとき真悠は、2人の間に決定的な溝が生まれたような気がした。
●ドケチ過ぎる夫にもう限界……。夫が変わってくれる方法はあるのだろうか? 後編【「自分の稼ぎで暮らす妻が許せない」“マネハラ”をするドケチ夫、結婚して分かった「決定的な価値観の違い」】にて、詳細をお届けします。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
梅田 衛基/ライター/編集者
株式会社STSデジタル所属の編集者・ライター。マネー、グルメ、ファッション、ライフスタイルなど、ジャンルを問わない取材記事の執筆、小説編集などに従事している。
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