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「自分の稼ぎで暮らす妻が許せない」“マネハラ”をするドケチ夫、結婚して分かった「決定的な価値観の違い」

Finasee / 2024年10月21日 17時0分

「自分の稼ぎで暮らす妻が許せない」“マネハラ”をするドケチ夫、結婚して分かった「決定的な価値観の違い」

Finasee(フィナシー)

<前編のあらすじ>

真悠(33歳)は、ドケチ夫に頭を抱えていた。結婚して3年。思い描いていたものとは180度違う節約生活にもう限界だった。

夫の慧祐(37歳)は年収800万の商社マン。趣味はなく倹約家。付き合っている最中から将来に向けての資産形成に励んでいた。この人となら将来も安心だと結婚を決め、真悠は長年の夢だった専業主婦になった。

しかし慧祐の倹約生活は度を越していた。真悠が仕事をやめてしまったことを「信じられない」と言い、慧祐は月3万の生活費を渡してくるだけだった。友達とのランチに行くにも慧祐の許可を取らなければいけない生活がずっと続いていた。

親友の結婚式に出たいと言ったときに、ご祝儀、洋服、ヘアメイク代などをお願いしたことがきっかけで価値観の違いがあらわになり、真悠のストレスも限界でケンカになってしまう。

●前編:1週間の生活費が1000円…妻の親友の”結婚式の祝儀を渋る”ドケチ夫が「倹約をはじめた理由」

それ、マネハラだよ

結婚式当日、本当なら笑顔で楽しめるはずの日なのに、真悠の表情は浮かなかった。慧佑とはあれからずっとギクシャクしていたし、結局もらえたのだってご祝儀のぶんだけだった。だから真悠はタンスの奥にかけてあった古いドレスを引っ張りだし、髪の毛も自分でアレンジして整えるくらいのことしかできなかった。

本当だったらもっとおしゃれをして祝いの席にいるはずだった。きれいなドレスで晴れやかな表情を浮かべる友人の美佳を見ていると、うれしいはずなのに少しだけ惨めな気持ちになった。

テーブルには高校時代の友達が集まっており、懐かしい話に花が咲いた。全員で髪を真っ赤に染めて怒られた体育祭の話、真悠がとにかく目の敵にされていた数学教師の話など、とにかく話題が尽きなかった。

「あぁ、あの頃は楽しかったなぁ」

「なになに、真悠。今は楽しくないみたいな口ぶりじゃん」

「だって、うちの旦那、ありえないくらいケチでさ。生活費もギリギリしか渡してくれなくて、全然私が自由に使えるお金がないんだよ。今日だって、ドレスも新調できなかったし、美容室にだって行けなかったんだから」

「うわぁ、そんなのあり得ないんだけど。うちのがそんなん言ってきたら蹴り入れてやるわ」

隣の席の里香は笑いながら同調してくれる。やっぱ専業主婦なんてやめとけばよかったのに、と別の友達が肩をすくめていた。

「ほんとだよ。うちはママが専業主婦だったし、小さいころから憧れてたんだけど、こんなことなら辞めるんじゃなかったよ。仕事辞めたせいで、この異常な倹約生活始められたわけだし」

不満をぶちまけて、口直しがてらにシャンパンで唇を湿らせる。気が付くと、里香が真剣な顔で真悠のことを見ていた。

「ねえ、待って。普段さ、自分のためにどれくらいお金を使えてるの?」

「どれくらいも何も、ほとんどないよ。大体は生活費に消えてるから。私が使う分なんて全然。そもそもランチに行くのだって、いちいちお伺いたてないといけないもん。お前は神様かっつうの」

お祝いの場でふさわしい話じゃないことは分かっている。けれど久しぶりに飲んだアルコールの後押しもあいまって、真悠の愚痴は止まらなかった。

「どのくらいその生活が続いてるの?」

「もう5年かな。結婚してずっとだから」

真悠の話を聞いた里香は信じられないと首を横に振る。

「ねえ、それ異常だよ。専業主婦だって、家のこと全部やってるわけでしょ? それなのに、おかしすぎるでしょ」

「それは分かってるけど、うちの夫はケチだからさ……」

「ケチなんてレベルじゃないって。それ、マネハラだよ」

聞き慣れない言葉に真悠は首をかしげる。

「何それ?」

「マネーハラスメント。夫婦間とか職場間で、金銭的に嫌がらせをする行為よ。真悠の旦那が全然稼いでないっていうのなら、仕方ないと思うけど、そうじゃないんでしょ?」

真悠は首を横に振る。

「全然。しっかりと稼いでるよ。でも、使わないお金は全部、投資とか貯金に回してるって言ってるから。子育てとか老後のために使うって言って」

「真悠はそれで納得してるの? そのために、自分は全く自由に使えるお金がないって言われても、いいと思ってる?」

思ってるわけがない。それでけんかになったのだから。

「でしょ? だったら、ちゃんと話し合いをしたほうがいいよ。それ、下手したら今後もっと厳しくなる可能性だってあると思うよ」

里香の言葉に背筋が寒くなった。

これ以上厳しくなんてされたら、耐えられない。

大きな負債と言われて…

もうやけくそだと、2次会まできっちり楽しんで帰った真悠は、帰宅後すぐに慧祐に生活費の相談をすることに決めた。友達みんなが後押ししてくれたのもあって、アルコールが入っている今じゃないといけそうにない気がしたからだ。

「ねえ、生活費のことで、話があるんだけど」

着替えもそこそこに、真悠は慧祐に話しかける。投資に関する本を読んでいた慧佑は返事もせず、目線を本から動かそうとしない。

「あのさ、生活費、もっと上げてくれないかな。慧祐はなーんもしないから知らないだろうけど、最近は食材だって値段上がってるし、5年前と同じじゃ無理だよ」

「いつも行ってるスーパーを変えればいいだろ。最近はディスカウントスーパーも多くなってるし、そこに行けば、多少は安く手に入る。まずはそういう努力をしてから言ってくれ」

真悠は鋭い視線を慧佑に向ける。

「あるのは知ってる。でも遠いって。車で行くにしても、ガソリン代がかかるんだよ。知ってる? ガソリン代もずっと高騰してるって」

「その辺のことは真悠よりも俺のほうが詳しいよ。だったら自転車で行けばいい。運動不足解消にもなって、ちょうどいい」

「時間が掛かりすぎるでしょ。それだけで1日が終わっちゃうわ」

真悠の視線に対抗するように、慧佑は鼻で笑った。

「大げさな。そんなことはやってから言え。本当に1日がかりだったら、別の案を考えればいいだろ。ただでさえ、家にずっといるんだから、時間なんて腐るほどあるだろうに」

真悠のなかで、またそれかと、怒りが沸騰する。

「ねえ、いつまで私が仕事を辞めたことを根に持ってるの⁉  2人で話し合って決めたことでしょ!」

慧佑は勢いよく本を閉じた。何かがちぎれたみたいな音だった。

「いいや違うね。真悠は勝手に仕事を辞めたんだ。俺は真悠と2人で力を合わせて、お金をためて、十分な資金を作ろうと思っていた。でも、真悠が辞めたせいで、その計画が全部狂ったんだ。真悠がいるだけで、こっちは大きな負債を背負ってるんだ。それなのに、まだ金をせびろうとしてくるなんてな! どれだけ厚かましいんだよ!」

「何それ。そんな言い方しなくても……」

「俺は将来を堅実に考えていけるパートナーを望んでたんだよ! 真悠のせいで何もかも台無しだけどな!」

真悠は涙を堪えて、慧佑をにらみ付ける。けれど慧祐の姿はみるみるうちににじんでいった。

「じゃあ……、じゃあなんで私と結婚なんてしたのよ⁉  私が専業主婦になりたいんだって言った時点で、別れてくれれば良かったのに!」

真悠がそう怒鳴っても、慧佑は何も答えられなかった。もちろん真悠自身も、どうして慧祐と結婚しようとしたのか、もはや分からなくなっていた。

多少の思い違いや意識の差は、結婚前から確かにあった。でも、それでも、結婚したのには理由があったはずだ。しかし、お互いにその理由をもう忘れていた。

損得勘定を超えた何かが真悠たちをつなぎ留めていたはずだったけれど、もうそんなものはとっくに失くしてしまっていたんだと気づいた。

自分の人生を人に預けるのはやめよう

「よし」

真悠はこの日のために用意したトレンチコートを鏡の前で羽織った。美容院にも一昨日行ったばかりだし、身だしなみは完璧だ。初出社で何をそこまで、という気がしなくもなかったけれど、これからはまず自分の気持ちを大事にすると真悠は決めたのだ。

結局、慧祐とは離婚することになった。

離婚までの手続きはスムーズで、まさかこの最後になって、お互いの意見がぴったり一致するなんて出来すぎた皮肉だと思ったら、別れ際は2人して笑うことができた。

真悠は5年住んだマンションを出て、独り暮らしを始めた。最初は居酒屋とスーパーのパートを掛け持ちしながら、合間の時間で勉強し、医療事務の資格を取った。

正社員として雇われるのはもう6年ぶりのことになる。気持ちはもうほとんど新入社員みたいなもので、30代も半ばにして何を言っているのかと自分でも思うけれど、新しい生活に踏み出す1歩は、いつだって緊張と不安と期待の入り交じる不思議な高揚感がある。

憧れていた専業主婦生活は思い出すとつらかったり腹が立ったりすることばっかりで、もうこりごりだった。自分の人生を、生活を、もう人に預けるのはやめようと思う。

これからは全て自分の力で生活をしていくのだ。

そう決意を改めて開いた玄関扉の向こうには、どこまでも開けた青空が広がっていた。

複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

梅田 衛基/ライター/編集者

株式会社STSデジタル所属の編集者・ライター。マネー、グルメ、ファッション、ライフスタイルなど、ジャンルを問わない取材記事の執筆、小説編集などに従事している。

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