商船三井の株価5倍、上方修正で予想配当利回り5.7%に 運賃市況の今後の見通しは?
Finasee / 2024年10月21日 6時0分
Finasee(フィナシー)
配当利回り5.7% 新NISAで400株買えば配当金11万円
2024年4月、商船三井は創業140周年を迎えました。関西の船主が大同合併して創立した大阪商船を起源に持ちます。明治時代から海運事業を担う同社は、上場企業でも歴史の深い企業です。
老舗ながら、商船三井には新しい資金が向かっています。同社の株価は2020年ごろから値上がりを始め、5年騰落率は400%を超えています。5年前に100万円を投資していたら500万円に増加した計算です。
【商船三井の株価チャート(過去5年間)】
・株価4854円(2024年10月11日終値)
商船三井は配当利回りの高さでも注目されています。今期(2025年3月期)は通期で280円の配当を予想しています。1単元(100株)で2万8000円を受け取れる計算です。株価水準の上昇が続く同社ですが、配当利回りは5.7%と高水準です。
【商船三井の予想配当利回り(2025年3月期)】
・予想配当金:280円
・予想配当利回り:5.77%
出所:商船三井ホームページより著者作成
株価上昇率と配当利回りの高い商船三井は、新NISAでも物色されそうです。足元の株価なら成長投資枠で4単元(400株、約194万円)まで購入でき、年間に11万2000円の配当金を受け取れる見込みです。本来は分離課税で約2万2400円の税金が生じますが、新NISAなら非課税です。
商船三井への投資にはどのようなリスクがあるのでしょうか。事業の概要と業績から探ってみましょう。また商船三井が取り組む安定収益型の事業の強化も解説します。
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世界トップレベルの海運グループ LNG船、自動車船は首位級
商船三井は大手海運会社です。ドライバルク船(ばら積み船)やタンカーなどを多数運航しており、船隊の規模は世界でも有数です。隻数ベースでLNG船(※1)は世界1位、自動車船は世界2位となっています。また2024年3月にシンガポールのフェアフィールド・ケミカル・キャリアーズを買収したことで、ステンレス多タンクケミカル船(※2)の船隊規模も世界最大級となりました。
※1 LNG船:液化天然ガスを運ぶタンカー船
※2 ステンレス多タンク船:貨物タンクの内壁がステンレスで、かつタンク数が20超のケミカル船
なお、商船三井は船腹量で世界6位のONE(Ocean Network Express)を持分法適用会社に持ちます。ONEは日本郵船および川崎汽船と3社で設立したコンテナ船の海運会社です。出資比率は日本郵船が38%、商船三井と川崎汽船は各31%です。
ONEの利益は持分法による投資利益として営業外収益に計上されます。またほかにも国内外に多数の持分法適用会社を持っています。商船三井を見るときは、経常利益以降の利益が大切ということです。
商船三井の主なセグメントは以下のとおりです。ONEは製品輸送事業に属しています。製品輸送事業は主要セグメントで最も大きな利益を稼いでいます。商船三井の業績はコンテナ船市況の影響が大きいといえそうです。
【商船三井のセグメント情報(2024年3月期)】
出所:商船三井 決算短信【関連記事】売却益&高配当の銘柄候補は「住友電工は株価好調「5年で1.6倍」、配当利回りも3%維持、株主偏重を否定する「五方よし」でも”配当重視”の投資家に選ばれる理由」
利益急増で自己資本比率27%→57%へ改善 市況回復&円安で純利益予想を1200億円上方修正
次に商船三井の業績を押さえましょう。
商船三井は2022年3月期に大きく成長しました。純利益は前期の900億円から7000億円へ急拡大し、翌2023年3月期も7900億円となっています。
利益の積み上げから財務の改善も進みました。自己資本比率は2021年3月期の27%から2024年3月期の57%へと上昇しています。
好調の背景にはコロナ禍があります。世界的に物流がひっ迫したことから、荷量の増加と運賃の上昇が起こり、商船三井の業績を強く押し上げました。
なお、直近の2024年3月期は大幅な減益となっています。減益は主にコンテナ船の市況低迷が原因でした。新造船の供給が増えたこと、欧州などで消費回復が遅れたことが市況の低迷を誘ったようです。
出所:商船三井 有価証券報告書より著者作成コンテナ船の市況は底打ちの兆しがあります。新造船の竣工は落ち着く見込みであり、またコロナ禍で停滞していた解撤(スクラップ)は加速すると予想されています。コンテナ運賃指数は2023年12月から2024年7月まで上昇基調が続きました。
出所:日本郵船 IRファクトブックより著者作成市況の回復は商船三井の追い風となっています。今期(2025年3月期)の第1四半期は前年同四半期比で大幅な増収増益となりました。想定より市況改善と円安が進んだことから、中間および通期の利益予想を上方修正しています。上方修正は経常利益と純利益で大きく、通期予想はいずれも期首時点から1200億円増加しました。通期の予想配当金も180円から280円へ引き上げています。
【商船三井の業績(2025年3月期 第1四半期)】
・売上高:4359億円(+13.2%)
・営業利益:406億円(+66.2%)
・経常利益:1086億円(+20.2%)
・純利益:1071億円(+17.5%)
※()は前年同四半期比
【商船三井の業績予想(2025年3月期)】
・売上高:1兆8150億円(+11.5%)
・営業利益:1560億円(+51.3%)
・経常利益:3500億円(+35.1%)
・純利益:3350億円(+28.0%)
※()は前期比
※同第1四半期時点における同社の予想
※上方修正の概要(期首予想比):売上高+150億円、営業利益+40億円、経常利益+1200億円、純利益+1200億円
出所:商船三井 決算短信
ただし商船三井は、コンテナ船運賃は2024年7月をピークに年度末に向けて期首想定の水準にまで徐々に下がっていくと想定しています。事実、コンテナ海運指数も2024年7月からは下落傾向が見られます。市況の動向によっては、第3四半期以降は減速する可能性もあるでしょう。
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安定収益型の事業を強化 配当性向は30%に引き上げ、下限配当も導入
商船三井は高配当銘柄としてよく話題になります。ただし海運業はリスクの大きい産業の1つです。市況の影響が強く、利益の振れ幅は大きめです。
商船三井も、2024年3月期までの10期で2度の最終損失を経験しています。配当を重視する投資家にとって、不安定な利益は好ましくないと考えられます。
出所:商船三井 有価証券報告書より著者作成
その点、商船三井が進める事業ポートフォリオ改革は、配当重視の投資家が期待するところでしょう。同社は海運不況時も利益を確保することを目指し、安定収益型の事業の強化に取り組んでいます。
商船三井は2023年3月、2036年3月期までの長期経営計画「ブルーアクション2035」を公表しました。その中で安定収益型のアセット比率を6割まで上昇させるリバランス計画に言及しています。
商船三井が認識する安定収益型の事業とは、海運事業のうちタンカーや液化ガス船といった収益性の振れ幅が比較的小さいものと、非海運事業を指します。非海運事業は不動産や海洋事業、フェリー・クルーズなどです。
【「ブルーアクション2035」におけるリバランス計画(アセット比率)】
出所:商船三井 決算説明会資料リバランス計画の推進に向け、商船三井は2035年度までに累計3.8兆円の投資を行います。うちフェーズ1(2024年3月期~2026年3月期)で1.2兆円の投資を見込んでおり、安定収益型へ9000億円を振り向ける計画です。
市況享受型の比率が低下すれば利益の安定化に期待できます。10年を超える長期計画ですが、将来的には長期保有に耐え得る銘柄に変化するかもしれません。
なお、ブルーアクション2035では配当方針にも言及しています。従来は配当性向25%を基本としていました。2024年3月期~2026年3月期は配当性向を30%に引き上げ、さらに1株あたり150円の下限配当を新設しています。
また利益が上振れた際の自社株買いを行う旨も明示しています。配当方針は積極化されたといえそうです。
文/若山卓也(わかやまFPサービス)
若山 卓也/金融ライター/証券外務員1種
証券会社で個人向け営業を経験し、その後ファイナンシャルプランナーとして独立。金融商品仲介業(IFA)および保険募集人に登録し、金融商品の販売も行う。2017年から金融系ライターとして活動。AFP、証券外務員一種、プライベートバンキング・コーディネーター。
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